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Jazz and Far Beyond

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CD/DVD DisksNo. 265

#1982 『Gato Libre / Koneko』

Text and photo by Akira Saito 齊藤聡

Libra Records 103-060

Natsuki Tamura 田村夏樹 (tp)
Yasuko Kaneko 金子泰子 (tb)
Satoko Fujii 藤井郷子 (accordion)

1. Kaineko
2. Noraneko
3. Yamaneko
4. Koneko
5. Ieneko
6. Bakeneko
7. Doraneko
8. Kanbanneko

All compositions by Natsuki Tamura (BMI) Suika Music (BMI)
Recorded on December 5, 2019 by Tatsuya Yoshida at UEN Studio, Tokyo, JAPAN
Mixed on December 29, 2019 by Tatsuya Yoshida
Mastered at Masterdisk, NY on January 6, 2020 by Scott Hall

ガトー・リブレは、ひとつひとつの楽器の音が尊重され際立つユニークなグループである。皆が同時に会した緊密なアンサンブルではなく、まるで個々にスポットライトが当てられるように、ひとつの音色やふたつの重なりがゆっくりと現れては次のものに移り変わっていく。そのバトンの受け渡しや時間の流れ方が特徴的だ。

初期作品は、田村夏樹のトランペット、藤井郷子のアコーディオンに、津村和彦のギター、是安則克のベースという編成である(2004年録音の『Strange Village』にはじまり、『Nomad』、『Kuro』、『Shiro』、『Forever』まで)。その前身は田村と是安のデュオだった。田村によれば「コード楽器が欲しくなり」、ギターが加わり、また「音が延びて切ない楽器も」と思いアコーディオンが加わった(『Shiro』ライナーノーツ)。ところが2011年、『Forever』録音直後に是安が急逝する。2013年録音の『Dudu』において金子泰子のトロンボーンが加わるが、2015年には癌で津村が他界。本作は、田村、藤井、金子のトリオとなってから『Neko』に次ぐ2枚目である。

メンバー変更の理由のことはひとまず置いておいても、編成の違いによるサウンドの変遷は興味深いものになっている。ポルタメント楽器のトロンボーンのみならず、アコーディオンはその濁りによって、またトランペットは田村の微妙な変化により、サウンドの中で連続的に連なっていく紐を縒り合わせているように思える。以前の編成まで遡って聴いてみると、時間は多くないが、ベースの弓弾きもその紐に自ら絡めとられてゆく。コードもギターやベースだけが明確な役割として担うのではなかった。アコーディオンは背後でこっそりとアトモスフェアを創り出し、またときにトランペットがコード楽器的に振る舞いもする。すなわち、こうと決められた役割にとどまらず、静かに相互の役割に侵入し協力するあり方がとてもおもしろい。そしてそのときの綾が異なったサウンドとなってあらわれている。たとえば『Shiro』のオリエンタルな曲の雰囲気は、是安の弓弾きと津村の切なくもあたたかくもある和音により高められている。また『Dudu』の思索的な雰囲気は、加入した金子のトロンボーンの独特に震える音色がもたらしたものかもしれない。

そして現トリオとなり、サウンドのありようが変貌した。『Neko』を聴くと、連続音を主とする3人それぞれが、毎回異なる音色で彩られた透過板を出しては重ね合わせ、その色合いの変化を愉しみ、それを幾度となく繰り返していることに驚かされる。

本作『Koneko』もその延長線上にあるのだが、透過板を重ねて視えるものがよりカラフルになっている。そのことが冒頭の「Kaineko」で予感のように示されてから、自由度を増した三者三様の音がゆっくりと愉悦のように展開される。静かなだけではなく、個々の音の振幅もさらに大きくなっている。「Bakeneko」などはこれまでのガトー・リブレの演奏の中でもっとも激しいくらいの曲で驚かされる。これには田村が薩摩琵琶の与之乃と組んだ猫の物語的音楽『邂逅』を作ったことの影響もあっただろうか?(ガトー・リブレ初作『Strange Village』にも『邂逅』と同じ名前のフォルテという猫が登場しており、互いにパラレル・ワールドかもしれないのだ)

それを経て戻ってくるハーモニーには、擾乱の音が印象に残っているだけに、なおさら、人が楽器を鳴らすということの根本的な不思議さを感じさせるものがある。聴き終えたあとも、トロンボーンの不思議な振動、アコーディオンのセンチメンタルな濁り、トランペットの柔軟にしてすべてを含み持つような響きが、耳の中にずっと残って何かを掻き乱し続ける。

シンプルにして豊饒、淡々としながらも変貌を続ける音世界である。

(文中敬称略)

齊藤聡

齊藤 聡(さいとうあきら) 著書に『新しい排出権』、『齋藤徹の芸術 コントラバスが描く運動体』、共著に『温室効果ガス削減と排出量取引』、『これでいいのか福島原発事故報道』、『阿部薫2020 僕の前に誰もいなかった』、『AA 五十年後のアルバート・アイラー』(細田成嗣編著)、『開かれた音楽のアンソロジー〜フリージャズ&フリーミュージック 1981~2000』、『高木元輝~フリージャズサックスのパイオニア』など。『JazzTokyo』、『ele-king』、『Voyage』、『New York City Jazz Records』、『Jazz Right Now』、『Taiwan Beats』、『オフショア』、『Jaz.in』、『ミュージック・マガジン』などに寄稿。ブログ http://blog.goo.ne.jp/sightsong

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