#1321 『Ricky Rodriguez / Looking Beyond』
text & photo by Takehiko Tokiwa 常盤武彦
Ricky Rodriguez (b,el-b,vo,7)
Adam Rogers (g)
Luis Perdomo (p,kb,vo,7)
Obed Calvaire (ds)
Myron Walden (as,b-cl)
with special guest
David Sanchez (ts,1,2,3,5,9,10)
Pete Rodriguez (tp,3,6,7)
Obanilu Allende (barril de bomba,3,6,7,vo,7)
- The Real Truth
- Living
- The Last Chance
- Intro To Introspection
- Introspection
- Looking Beyond
- Stress vs. Relaxation
- A Quiet Refuge
- The Humblenes
- And Then…
Recorded by George Shalada at Sear Sound, NYC on July 21 & 22, 2015.
Produced by Ricky Rodriguez.
2005年に、ブランフォード・マルサリス (ts,ss) とダニーロ・ペレス (p) の後押しで、リッキー・ロドリゲスはプエルトリコからニューヨークに進出した。大ヴェテランのNEAジャズ・マスターズのレイ・バレット (per) のグループを皮切りに、ミゲール・ゼノン (as)、ダヴィッド・サンチェス (ts)、ジョー・ロック (vib) らから、同世代のピート・ロドリゲス (tp) ら、ラテンにとどまらず様々なコンテンポラリー・ジャズ・シーンのファースト・コール・ベーシストに成長した。10年を超すニューヨークでの活動で結実したのが、このファースト・アルバム『Looking Beyond』だ。共演者に選んだのは、様々なバンドでステージをシェアしてきたルイス・ペルドモ (p,kb)、ハイチ出身のオベット・カルヴェイア (ds)、ロドリゲスの憧れのバンドであるブライアン・ブレイド (ds) Fellowshipのフロントを務めるマイロン・ウォルデン (as,b-cl)、大きな影響を受けたダヴィッド・サンチェスの『Melaza』(2000年)で重要な役割を果たしているアダム・ロジャース (g) で、コアになるクインテットを構成し、ゲストにダヴィッド・サンチェス、ピート・ロドリゲス、オバニル・アジェンデ (barril de bomba) を迎えた。収録曲はすべてオリジナル。ロドリゲスは、共演者達を想定し、2年をかけて作曲した。最初にメンバーが集まってリハーサルをしたときから、期待どおりのサウンドが生み出されたという。
ロドリゲスの理想のサウンドは、オープニングの“The Real Truth”で、早くも実現する。ペルドモとロジャースのコンビネーションは、タイトなリズムに寄り添い、見事なオーケストレーションを聞かせている。21世紀のエレクトリック・フュージョンである“The Last Chance”では、アメリカン・ファンクとプエルトリコのボンバのリズムを融合させる。ウォルデンに、サンチェス、ピート・ロドリゲスが加わった分厚いアンサンブルが、リズムにプッシュされる。ロジャースの端正なソロのバックでは、カルヴェイアがズークのリズムを叩き、ロドリゲスがトゥンバオのラインを刻む。ロドリゲスは、ウェザー・リポートがプエルトリコの首都サンファンの中心、サントゥルセでジャム・セッションをしているところをイメージして、この曲をプレイしたと語る。ロドリゲスは、ウッド・ベース、エレクトリック・ベース共に高い演奏能力を誇っている。“Intro To Introspection”では、プエルトリコ・コンサーヴァトリーで専攻したクラシック・コントラバスの技術を生かしたボウイングのコラールの上で、ジャコ・パストリアス (el-b) を彷彿されるウォームなトーンのエレクトリック・ベースがメロディを紡ぎ、本編の導入部を飾った。“Stress vs. Relaxation”ではアジェンデが、大きくフィーチャーされる。激しいリズムとプエルトリコのチャントの上で、ロドリゲス、ペルドモ、カルヴェイアのスリリングなフリー・インプロヴィゼーションが展開される。後半にはピート・ロドリゲスも加わり、激しさの中に抒情的なファクターをミックスして終わり、バラードの“A Quiet Refuge”と連なった。
6月16日のニューヨーク、ジャズ・ギャラリーにおけるリリース・ギグは、コア・クインテットでのプレイだった。ロドリゲス、カルヴェイアのリズム・コンビネーションと、ペルドモ、ロジャースのハーモニーは鉄壁で、ウォルデンのバス・クラリネットは、サウンドに独特のテクスチャーをもたらした。ロドリゲスが構築したタイトのファーマットの上で、火を吹くソロの応酬が展開された。リッキー・ロドリゲスは、コンテンポラリー・ジャズのさらなる未来を見つめている。
関連リンク Ricky Rodriguez @ Destiny Records (サンプル音源) https://destinyrecords.bandcamp.com/album/looking-beyond