#2005 『JOBS / endless birthday』

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text by 剛田武 Takeshi Goda

CD/DL : Ramp Local  CD-RL-50

JOBS:
Max Jaffe: Sensory Percussion & vocals
Rob Lundberg: Telecaster bass guitar, Godin fretless acoustic/electric bass guitar, double bass, Casio MT-100, & vocals
Jessica Pavone: viola & vocals
Dave Scanlon: guitar, Casio MT-100, Farfisa VIP 400, synthesis, & vocals

Guitar solo on “3 Being 2” by Cyrus Pireh
Guitar solo on “Striped Cotton Blanket” by John Dieterich
Shtar solo on “Brian” by Matt Mehlan
Soprano Saxophone on “Planned Humans” by Steven Lugerner

1. A Toast
2. Brian
3. Striped Cotton Blanket
4. Opulent Fields
5. Self Replicating No. 2
6. Words About Shapes
7. Planned Humans
8. Self Replicating No. 3
9. 3 Being 2

Mixed & Mastered by Matt Mehlan
Photography by Rob Lundberg
Art & Layout by Sam Klickner

https://www.jobsband.net/

ミクストメディア時代のアートロックの新鋭

<アート・ロック>とは、ロック・ミュージックのサブジャンルであり、ロックに挑戦的なアプローチや前衛的な方法論を導入したり、モダニズム、実験的、あるいは因習にとらわれない要素を採用したりすることを意味する。ロックをエンターテインメントから芸術的な表現へと昇華させることを目指しており、より実験的でコンセプチュアルな音楽観を選択している。 実験的ロック、前衛音楽、クラシック音楽、ジャズなどのジャンルからの影響を受けている場合もある。(Waikipedia英語版より)

筆者のバンドFlower Tripは90年代前半に下北沢や高円寺のライヴハウスで<アートロック宣言>と題した企画ライヴを主催していた。スタイルとしては60,70年代のサイケデリック・ロック、グループサウンズ、ヘヴィロック(ヘヴィメタルではない)など、多分に時代錯誤な要素を持ったロックバンドを集めたものだった。当時はいわゆるバンドブーム真っただ中で、ライヴハウスのブッキングだと、ビートパンクやハードコアパンクのタテノリ系バンドばかりの対バンで、<精神世界の拡張><自我の解放>を求める我々の音楽が受け入れられる余地がなかった。そこで自分たちで企画ライヴを立ち上げることにして、そのタイトルを考えた。1989年に出演したTV番組「イカ天」で審査員に「サイケを舐めるな!」と叱咤された手前、<サイケデリック>と名乗るのは憚られたので、60年代末に日本のレコード会社がクリーム、ヴァニラ・ファッジ、ジミ・ヘンドリックス等ニューロックを売り出す際に使った<アートロック>の標題を掲げたのである。出演バンドをライヴハウスでスカウトしたり、明大前モダーン・ミュージックにフライヤーを置いて募集したりした。5年間で十数回開催し、コンピレーションCDをリリースしたが、94年にFlower Tripが解散、企画ライヴ<アートロック宣言>も終了した。

そんなこともあって<アートロック>という言葉はすでに過去のムーヴメントを表す死語だと思いこんでいたが、21世紀が10年過ぎたころから再び目にするようになった。ここに紹介するニューヨークの4人組ロックグループJOBSも、ネットや雑誌で<アートロック>と紹介されている。本作はオルタナティヴロック・バンドDeerhoofとSkektonsのメンバーをゲストに迎えて制作された3rdアルバム。電子音楽、プログレッシヴ・ロック、テクノ、ノイズ、インダストリアル、ミニマル・ミュージックなど、様々な要素がミックスされたスタイルは、まさにミクストメディア時代の<アートロック>と呼べるだろう。MEDIA=コミュニケーション・メディアと解釈すれば、JOBSの音楽はアート(芸術)であると同時にエンターテインメントでもある。

特にセンサリー・パーカッション(ドラムに接続してプリセット音源を操作するエフェクター)やシンセサイザーなど電子機材を多用して生み出す近未来的音響は、ポストロックやエレクトロニカ、フューチャージャズに通じるものがある。実のところ筆者は、ポストロックやエレクトロニカの電脳世界のような、デジタルに支配された音空間が好きではない。無菌室で純粋培養された人工受精卵のような味気無さを感じてしまう。アートに於いても、絵画や彫刻・オブジェのようなフィジカルメディアには強く惹かれるが、ヴァーチャル・アートは一回見て終わり、何度も観賞しようという気になれない。さらに言えば、音楽メディアについてもレコード、CD、カセットテープといったフィジカルメディアを所有することと、ダウンロード、ストリーミングといったデジタルメディアで視聴することは、満足度に大きな違いがある。やはりアナログ人間の性(さが)なのだろう。

そんな筆者の捻くれた音楽嗜好にもこのJOBSが強く訴えかける理由は、彼らの楽曲が基本的にヴォーカル・ミュージックだからだろう。1曲を除いてすべてヴォーカル・ナンバーで、いずれも複数のヴォイスによるコーラスワークが施されている。最初にミュージックビデオが公開されたM1「A Toast」を聴いたときは「Fuck ●●、Fuck ××、Fuck○○、Fuck△△…」と放送禁止用語を連発する歌に鈍痛のようなショックを受けた。76年にセックス・ピストルズがイギリスのTV番組で「Fuck」を連発して社会的問題になったときから44年も経っているし、ラップやヒップホップでさんざん四文字言葉が口にされるアメリカ合衆国で、今更「Fuck」と歌っても大した刺激はないのかもしれないが、遠く日本に住む筆者にとっては差別用語のように感じられて妙に居心地が悪い。ベーシストのロバート・ルンドバーグによると、JOBSの方法論は”奇妙で不快なものを身近なものにし、身近なものを奇妙なものにする”ことだと言う。とすれば、Fuckに対する筆者の反応は、まさにJOBSの術中にはまったと言えるだろう。全曲シュールな散文詩のような歌詞なので、日本人には理解しづらいのは事実だが、複雑怪奇なサウンドの向こうに聴きとれる単語を拾うだけでもJOBSの奇妙で不快で身近な世界が分かるだろう。

メンバーは4人とも個別に演奏家・作曲家として世界的に活動する演奏家・作曲家である。ギターのデアイヴ・スキャンロンは吉田野乃子とのPet Bottle Ningenのメンバーとして何度か来日経験がある。即興音楽とは一味違うJOBSの新生代アートロックを、同じく<アート>をキーワードに持つJazz Art仙川などで、フィジカルに体験したいものである。(2020年8月1日記)

 

 

 

剛田武

剛田武

剛田 武 Takeshi Goda 1962年千葉県船橋市生まれ。東京大学文学部卒。会社勤務の傍ら「地下ブロガー」として活動する。近刊『地下音楽への招待』(ロフトブックス)。 ブログ「A Challenge To Fate」、DJイベント「盤魔殿」主宰

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