#1998『Jeff Cosgrove / History Gets Ahead Of The Story』
『ジェフ・コスグローヴ/ヒストリー・ゲッツ・アヘッド・オブ・ザ・ストーリー』
text by Kenny Inaoka 稲岡邦彌
Grizzley Music 2020
Jeff Cosgrove ジェフ・コスグローヴ- Drums
John Medeski ジョン・メデスキー- Organ
Jeff Lederer ジェフ・レデラー- Saxophone/Flute
1. O’Neal’s Porch 06:54
2. Corn Meal Dance 06:14
3. Gospel Flowers 06:21
4. Little Bird 05:30
5. Ghost 06:41
6. Moon 05:58
7. Things Fall Apart 04:28
8. Wood Flute Song 04:36
9. Purcell’s Lament 06:07
10. Harlem 06:24
All songs composed by William Parker except Ghost by Cosgrove and Gospel Flowers+Purcell’s Lament by Lederer.
Recorded at Applehead Recording Studio, Saugerties, NY
Recording engineer: Chris Bittner
Mixed and mastered by Mike Marciano, Systems Two, Long Island, NY
Produced by Jeff Cosgrove
Executive producer: Jeff Lederer
ドラマーのジェフ・コスグローヴは故ポール・モチアンから紹介された。ジェフが敬愛するモチアンに捧げたアルバム『Motian Sickness』(2011) を制作中のことで、ポールはアルバムの完成まもなく他界した。
ジェフはその後、いくつかのプロジェクトを経て、ハイスクールの頃に感銘を受けたというベースのウィリアム・パーカー (1952~) との共演に挑戦する。ウィリアムは毎年NYで開かれるVision Festivalのオーガナイザーでもある。ピアノに迎えたのはマシュー・シップ (1960~)である。ジェフはこのトリオでアルバム『Alternating Current』(2014) を制作するが、全編完全なインプロヴィゼーションであった。やはり、ベテランのウィリアムとマシューの存在感が強く、ジェフは性格もあるのか、彼らと同等の存在感を示し得たか疑問の残るところであった。
そして、本作。フル・アルバムとしては4作目か。そのウィリアム・パーカーの作品集。オープナーの <O’neals Porch> 以下、7曲。サックスのレデラーが2曲とジェフが1曲。
ウィリアムの曲はどれもシンプルだがファンキーだったりブルージーだったりいわゆるアーシーな雰囲気が漂うが、トリオが的確に曲想を膨らませていく。ジョン・メデスキは、1990年代に登場しジャム・バンド・ブームを巻き起こした「メデスキ、マーティン&ウッド」(MMW) のリーダーでオルガン奏者。そのコンテンポラリーでキレのあるサウンドからデジタル・ハモンドだと思い込んだいたが、演奏していたのはレスリー・スピーカーを従えたハモンドB3だと知り驚いたが、そのアナログB3を駆使して、オスティナートだったり、ノイジーだったり、はたまたSE的だったり、メロディやコードに加えて楽曲にさまざまな表情を加えていく。<Little Bird>ではレデラーのフルートと小鳥のさえずりやざわめきを模すなど微笑ましい一面も。コスグルーヴの古い音楽仲間だというジェフ・レデラーはテナー、ソプラノ、フルートを持ち替えストレートからファーアウトまでメデスキとのアンサンブルで楽曲の個性を際立たせていく。リーダーのコスグローヴはむしろ敬愛するウィリアム・パーカーのスピリットの顕在化に腐心しているかのような立ち位置で、派手なソロを披露するなどことさら自らの存在をアピールすることを控えている。彼が提供した唯一の楽曲<Ghost>ではメデスキがSE的な奏法を駆使するなどつかみどころのない不安感を醸し出している。
トリオ編成とは思えない表情と内容の豊かさで音楽的充実感を味あわせてもらえる“フリー・バップ”的アルバム。
♬ 録音評(及川公生)
https://jazztokyo.org/reviews/kimio-oikawa-reviews/post-54716/