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CD/DVD DisksNo. 272

#2031 『浅利史花/Introducin’』
『Fumika Asari / Introducin’』

Text by Hideo Kanno 神野秀雄

『浅利史花/Introducin’』
『Fumika Asari / Introducin’』

1.Triste (Antonio Carlos Jobim)
浅利史花(g) 北島佳乃子(p) 小杉 敏(b) 木村 紘(ds)
2. Summit (Fumika Asari)
浅利史花(g) 小杉 敏(b) 木村 紘(ds)
3. Black Orpheus (Luiz Bonfa)
浅利史花(g) 中牟礼貞則(g)
4. Bluesette (Toots Thielemans)
浅利史花(g) 北島佳乃子(p) 三嶋大輝(b) 柳沼佑育(ds)
5. Daahoud (Clifford Brown)
浅利史花(g) 三嶋大輝(b) 柳沼佑育(ds)
6. Goldfish Droppings (Fumika Asari)
浅利史花(g) 石田 衛(p)
7. Sing (Raposo Joseph G)
浅利史花(g) 江澤 茜(as)   駒野逸美(tb)   三嶋大輝(b) 木村 紘(ds)
8. Close To You (Burt Bacharach)
浅利史花(g) 石田 衛(p, Rhodes) 江澤 茜(as)  駒野逸美(tb) 三嶋大輝(b) 木村 紘(ds)
9. But Beautiful (Jimmy Van Hausen)
浅利史花(g)

Recorded & Mixed: 森田秀一 Shuichi Morita
Mastered: Gene Paul
Recorded at ReBorn Wood Studios
ReBorn Wood RBW-0018 (2020年11月25日発売)

気鋭のジャズギタリストの浅利史花(あさりふみか)のファーストアルバム。福島市出まれ、かつて大友良英 (g、ターンテーブル、作編曲)も在籍した福島高校ジャズ研究部の出身(大友と浅利の共演もいつか聴いてみたい)。ロックギターをやるつもりが、管弦楽部とジャズ研しかなく、しかもアンプ直で音が出ることもありジャズギターへ。ジャズスポット「ミンガス」に出入りし、そこで聴いたグラント・グリーン<マタドール>に衝撃を受け、ウェス・モンゴメリーやケニー・バレルに影響を受ける。そして大学進学で上京とともに、ストラトキャスターからフルアコに換えて、プロを交えたジャムセッション、ライヴなどに出入りしているうちにやがてプロを目指すように。


L: 浅利史花、三嶋大輝、柳沼佑育 R: 石田 衛

現在、1991年静岡県藤枝市生まれの三嶋大輝(b)、1992年福島県郡山市生まれの柳沼佑育(ds)とのレギュラートリオをメインに活動し、1933年生まれの中牟礼貞則(なかむれさだのり)とのデュオ、+田辺充邦との三世代ジャズギタートリオもあれば、数多くの新旧のミュージシャンたちのリーダーライブへの参加と多忙に演奏活動を行っている。個人的には高田馬場「ホットハウス」でのギタリスト井上 銘とのデュオや、レギュラートリオで聴くことが多かった。そんな幅の広さを反映して、レギュラーギタートリオでファーストアルバムかと思われた期待を心地よく裏切って、浅利が敬い、浅利を愛する仲間たちが一同に会し、多様なフォーマットでのアルバムとなり、その中で”ぶれない”浅利らしさが光る。

「エネルギッシュな演奏をしたい!でも、あくまでも自然体で。そこにある空気を巻き込んで、渦にするようなサウンドを…。 整ってなくたっていいから、大地に根をはる大木のようなギターを…。 」と浅利は理想を語るが、今回のレコーディングでは、最初はよいアルバムを作ろうと気負っていた浅利だが、やがて「みんなで音楽が共有できればいいんだ」と気付かされたと言う。

アントニオ・カルロス・ジョビン<Triste>から軽快に始まる。演奏は北島佳乃子(p)、小杉 敏(b)、木村 紘(ds)とのカルテット。次いで小杉と木村のトリオで、浅利の高校時代に書いたと言うオリジナル<Summit>を披露する。

日本ジャズギターのレジェンド・中牟礼貞則とのデュオで<Black Orpheus (Manhã de Carnaval)>を響き合う。<Triste>と合わせて意外にブラジル率が高いことに驚くし、後半のカーペンターズもあり、いわゆるジャズスタンダードがミニマムであるのがアルバムの特徴となっている。<Bluesette>、<Daahoud>は、レギュラートリオをコアにした演奏で、やはり伸びやかさとリラックス感が際立つ。

<Goldfish Droppings>は浅利が故郷福島を想って書いたバラードで、石田 衛のピアノとのデュオでゆったりと美しく、ちょっと切なく歌い上げる。タイトルのは、子供の頃、お母さんについて歩き「金魚の、、」のようと言われたことに由来し、故郷福島を想いながら、ほっこりした思い出を歌う。ただ、浅利が、福島高校在学中に東日本大地震・福島原発事故による放射能汚染を経験し、自身と家族、故郷の未来に大きな不安を持ち、喪失感を味わったであろうことは心に留めておきたい。

カーペンターズで知られる<Sing>、<Close to You>を江澤 茜(as)と駒野逸美(tb)の2ホーンを加えながら、ギターの使い方の違い、また石田のフェンダー・ローズ・ピアノの存在で、両曲を対照的なサウンドデザインで仕上げているのが印象深い。そして、<But Beautiful>のギターソロで穏やかに締めくくる。

ジャズギターのトラディショナルをしっかり押さえながら、ぶれない信念で仲間たちとの繋がりの中で、自然で心地よく新しいサウンドを探求するギタリスト浅利史花に注目して行きたい。

【浅利史花 1stアルバム『Introducin’』リリース記念ライブ】
2021年2月18日(木) 19:30 渋谷 JZ Brat
浅利史花(g) 北島佳乃子(p) 小杉 敏(b) 柳沼佑育(ds)
ゲスト 駒野逸美(tb) 江澤 茜(as)

その他のライヴスケジュールはこちらを参照されたい。

神野秀雄

神野秀雄 Hideo Kanno 福島県出身。東京大学理学系研究科生物化学専攻修士課程修了。保原中学校吹奏楽部でサックスを始め、福島高校ジャズ研から東京大学ジャズ研へ。『キース・ジャレット/マイ・ソング』を中学で聴いて以来のECMファン。Facebookグループ「ECM Fan Group in Japan - Jazz, Classic & Beyond」を主催。ECMファンの情報交換に活用していただければ幸いだ。

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