#2073 『Yuta Omino Trio / Bright October 14th』
『小美濃 悠太トリオ/Bright October 14th』
text by Hiroaki Ichinose 市之瀬 浩盟
FOS Records / FaOS-001(自主制作)
Yuta Omimo 小美濃 悠太 (b)
Sota Seta 瀬田創太 (p)
Ryo Noritake 則武 諒 (ds)
1. Kukulkan
2. Bright October 14th
3. Interlude 1
4. Sarcophagus
5. The Old Wojtek
6. Etude
7. Interlude 2
8. Søren
9. After All
all songs composed by Yuta Omino
Recorded at Koen-dori classics, Tokyo on 19th October 2020
Recording & Mastering engineer: Akihiko Goto
All art-works : Hania Podladowska
Design: Tomoko Sekiguchi
Produced by Yuta Omino
【炎色反応】
初めて聞くその言葉は中学の理科の時間に美しく燃え上がる数々の炎の色と共にもたらされた。
実験の様子はあまり記憶の中には残っていないが、それぞれ固有の色で燃え上がっていく試材を持つ先生がまるで手品師のように思え、目を皿の様にして見入っていたことは今でもしっかり覚えている。
塩化カルシウム (消石灰) はオレンジ、塩化ナトリウム (食卓塩)は黄色、カリウム (ミョウバン) は赤紫、ホウ素 (ホウ酸) は緑、花火用のストロンチウムは鮮やかな赤…中でも銅が燃える時に放った青緑色が、鮮やかさや華々しさは無い代わりに、暗幕を引き回らされた暗い実験室という異界でひときわ他の色とは格段に違う異彩を放ったことが今でも脳裏にしっかりと焼き付いている。
* * *
山田 貴子、斉藤 良からなる「Tryphonic」の『Fiction』 (2018, GoodNessPlus Records / GNPR-1151) での重厚で硬くそして抜群のベースラインとメロディ・センスで聴く者を魅了した小美濃悠太が満を持して世に送り出した記念すべきファースト・リーダー・アルバムである。
自らが立ち上げた”FOS Records”。”For OurSelves” の頭文字からとっている。音楽家である自分自身がまず聴きたいもの、手に取りたいものを作りたい。自分たちのための作品を作りたい。そんな思いを込めたレーベル名だそうである。そう、早くもこの時点で聴く者達の前には3人によって”結界“が張られている。第三者の介入や余計なおべんちゃらを一切排除して自分たちが本当に創り上げたい、届けたい、その理想的な音楽表現を実現するために敢えて自主制作の道を選んだのだろう。その姿勢はアルバム・ジャケットからすでにプンプン匂ってくる。
仄暗い青緑色の美しいデザインを纏ったジャケットにはタイトル、曲名、メンバー、レコーディング・データの他には余分な文字は一切無い。その文字すら輪郭線をぼやけさせ、主張することなくひっそりと染み付いている。Hanina Podladowska の手によるその美しいアートワークを100%斟酌しており、まさにそれにふさわしい音が三人によって紡ぎ出されている。
各曲のメロディ・ラインに合わせて余分な主張を排除しながら時に粘り強く、時には距離を置きながら絡みついていく。3人の鉄壁の理解のもと、その演奏は青緑色の光を次々と放ちながらインタープレイへと突き進んでいく。
録音は五島昭彦によるワンポイント録音。ガチガチのオン録音全盛のこの世に見事にアートワークが放つその青緑色の仄暗いイメージからスタジオの広さ、楽器の位置、3人の立ち位置、息遣いを録り切った。
* * *
3人によって用意周到に張り巡らされた”結界”を破ったその先には40数年前に異界で味わった青緑色のあの色があった。あの時はほんのひと時で終わった炎...。今再び我が身にスピーカーから放たれ天井より降り注がれた音となって眼前に灯ってくれた。
聴く者達を拒み続ける結界では決して無い。誰よりも、全勢力を注ぎ切り一つの作品を創り上げた彼ら3人が自分たちで張った結界を新たなる聴き手が破ってくれるのをじっと息を凝らして待っている。
– – –
◇本作は小美濃さんご本人から直接購入できます。
https://yutaomino.com/product/bright-october-14th/
◇トリオのライブ動画もあります!