#2129 『望月慎一郎/Trio 2019』feat. ミロスラフ・ヴィトウス&福盛進也
『Shin-ichiro Mochizuki / Trio 2019』feat. Miroslav Vitous & Shinya Fukumori
Text by Hideo Kanno 神野秀雄
『望月慎一郎 / Trio 2019』
『Shin-ichiro Mochizuki / Trio 2019』
(Columbia / Unknown Silence) 2021年9月15日
望月慎一郎 Shin-ichiro Mochizuki: piano
ミロスラフ・ヴィトウス Miroslav Vitous: contrabass
福盛進也 Shinya Fukumori: drums
1. Yukidoke (Shin-ichiro Mochizuki)
2. From the Sky (Shin-ichiro Mochizuki)
3. Alice (Shin-ichiro Mochizuki)
4. Soil and Water (Shin-ichiro Mochizuki)
5. Waltz for Debby (Bill Evans)
6. The Third Destination (Shinya Fukumori)
Produced by Shin-ichiro Mochizuki
A&R / Product Planning : Jyoji Sawada (Unknown Silence)
Recorded at PICCOLO AUDIO WORKS
Recording & Mixing Engineer : Shinya Matsushita
Mastered at studio BOSCO, Shiga
Mastering Engineer: Takashi Mori (BOSCO MUSIC, Unknown Silence)
Photo by Yoko Mochizuki
Art direction & Design: Tom Mizuta (Hi-Fi Company Ltd.)
Special Thanks: Acoustic technology assist for piano : Ryoji Nagata (WELLFLOAT)
デジタル配信 2021年9月15日
CD 日本コロンビア 2021月10月上旬予定
望月慎一郎は、1980年、静岡県生まれ。6歳で曲を書きはじめ、13歳の頃には海外でも自作曲を披露し、既に作曲は日常のものとなっていくなかでジャズに出会い、以降は独学で研究を重ねている。ヤマハでは、上原ひろみと同じコースに学ぶ。ヨーロッパジャズに近い演奏スタイルを取り入れ、独自の方法論を研究し自作曲の創作活動を精力的に続けている。2017年、ピアノトリオによる『Visionary』(SONG X)を、2018年、橋爪亮督を迎えた『Another Vision』(SONG X) をリリースしている。
2019年、チェコ出身のベーシストミロスラフ・ヴィトウスが25年ぶりに来日、3月7日〜8日にコットンクラブでミロスラフ・ヴィトウス・トリオ公演を行った。このトリオのメンバーは、チェコのエミル・ヴィクリツキー(p)、イタリアのロベルト・ガット(ds)。来日を前に望月はミロスラフとコンタクトして想いを伝える。望月にはミロスラフとベストミュージックを作り出せる自信があった。また当時ミュンヘン在住で、『For 2 Akis』(ECM2574)を2018年にリリースしていたドラマー福盛進也がちょうど来日していて、この時点で望月には他のドラマーの選択肢はなかったという。
望月は次のように書いている。「ミロスラフの音楽は私にとってターニングポイントだった。その昔、ジャズ“も”できるようになりたい、みたいな浅い考えのクラシック好きの少年がいた。その少年はジャズ”も”できるようになりたいから、いろいろなジャズを耳で聴いて覚えようとしてたくさんのCDをあさった。しかしながら、ミロスラフのリーダー作品『First Meeting』 や『Journey’s End』に出会ったときに考えが変わってしまった。それまでクラシックが洗練された音楽で、ジャズ“も”面白い、などと思っていたことを恥ずかしく思った。作曲とはいったいなんなのか?即興演奏とはいったいなんなのか?考えさせられた。創作の理想形がジャズの作品から見つかってしまい、価値観が揺らいだ。」
なお、この2枚には、ジョン・サーマン(sax)とヨン・クリステンセン(ds)、ピアニストとして、『First Meeting』 (ECM1145、1979年)にはケニー・カークランド、 『Journey’s End』(ECM1242、1982年)にはジョン・テイラーが加わっている。そして今回の録音には、「ミロスラフ・チルドレンがミロスラフをプロデュースする」ような要素もあるという。そして、望月の仕切りで、松下真也により録音・ミキシングされ、そして、音楽家・沢田穣治が2020年に立ち上げた「Unknown Silence」レーベルからリリースされることになった。「Unknown Silence」は、unknown、silence、monochrome、nowhereの4つ言葉をコンセプトに掲げ、日本の古都・京都をベースエリアに設定している。
2021年8月23日に渋谷・公演通りクラシックスで、望月、甲斐正樹(b)、福盛進也(ds)のトリオを聴く機会があった。トリオの演奏の素晴らしさはもちろんとして、望月がピアノを繊細で美しくありつつ、そのポテンシャルの最大まで鳴らすことに驚嘆した。ピアノの音の粒が輝き鮮やかに浮き出してくるような感覚。『Trio 2019』でもそのピアノの響きを聴くことができて、その楽器として最高と思える音響を繰り出してくる三者の響き合いに圧倒されるばかりだ。先日亡くなったジョージ・ムラーツもチェコ出身だったが、チェコのコントラバスの豊かな伝統に支えられたミロスラフの豊潤な響き、弦を弾く音やボディの鳴りまでの心地よさ、そして、それを的確に拾い録音再現する技。福盛のシンバルレガートとドラミングから生み出される色彩感と空気感。望月のアイデアと想い、巨匠ミロスラフの存在の間に立って、サウンドをまとめあげる上で福盛が大きな役割を果たしたのは想像に難くなく、福盛がヨン・クリステンセンを敬愛し、オスロまでヤン・エリック・コングスハウクを訪ねて録音したことがあったことも繋がっていると思う。
収録曲は、望月のオリジナル4曲、終盤にビル・エヴァンス<Waltz for Debby>から福盛進也<The Third Destination>へ。空間的、音響的にストーリーを創っていく望月の曲創りに合わせて、2人がインタープレイの中でさまざまな表情を魅せながら旅を共にして行く。最後の<The Third Destination>はシンプルな覚えやすいメロディの中に切なさと懐かしさが漂う福盛ならではの曲で、いつもながら福盛の作曲の才能にも感服させられ、『Trio 2019』にとって穏やかな締めくくりを創り出している。
レコ発ライヴを公演通りクラシックスで予定している。闘病中の沢田穣治に代わって小美濃悠太が参加する。
「Three Visions of a Secret」
2021年10月23日(土) 14:00 渋谷・公演通りクラシックス
望月 慎一郎 Shin-ichiro Mochizuki (p)
小美濃悠太 Yuta Omino (bs)
福盛進也 Shinya Fukumori (ds)