#2193 『カール・ベルガー+マックス・ジョンソン+ビリー・ミンツ/Sketches』
Text by Akira Saito 齊藤聡
Karl Berger (piano, vibraphone)
Max Johnson (bass)
Billy Mintz (drums)
1. Why the Moon is Blue
2. Presently
3. Ginger Blues
4. Flight
5. Debt
6. Black Eyed Suzie
7. Sketches
Recorded by Tom Tedesco at Tedesco Studios in Paramus, NJ, January 15, 2017
Mixed by Max Johnson in the comfort of his own home
Mastered by Jim Clouse at Park West Studios in Brooklyn, NY
Liner Notes by Todd Colby. Artwork by Victoria Salvador
Produced by Max Johnson
Executive Producer: Jordi Pujol
released by Fresh Sounds July 1, 2022
Track 1, 2 composed by Karl Berger (Karl H Berger GEMA)
Track 5, 7 composed by Max Johnson (Max Johnson Music ASCAP)
Track 4 composed by Billy Mintz (Billy Mintz Music BMI)
Track 3 composed by Charlie Haden
Track 6 traditional
このときカール・ベルガーは81歳、健在の音に嬉しくなってしまう。ドン・チェリー『Symphony for Improvisers』(Blue Note)録音のためドイツからニューヨークに渡った機会に吹き込んだ初リーダー作『From Now On』(ESP)からもう50年が過ぎている。協和と不協和の間の緊張に身を晒し続けており、かつてエド・ブラックウェル(ドラムス)、デイヴ・ホランドと吹き込んだ傑作『Crystal Fire』(Enja)のタイトルを想起させられるイメージだ。超然として提示するリズムもまた、他のジャズピアニストにまったく似ていない。そのことは、チャーリー・ヘイデン曲<Ginger Blues>を聴けばよくわかる。
ヴァイブの和音や旋律もピアノと同様の個性をもつが、音価の長い残響のためか、全体を包み込んで他メンバーの音を引き立たせるように聴こえるのは発見だ。
この巨匠の音に、ひとまわり下のビリー・ミンツが繊細さを与える。美しくはあるのだが、たとえば富樫雅彦やポール・モチアンのように研ぎ澄まされた一音一音というものとは異なるように感じられる。ミンツの魅力はパルスよりは音の肌理にこそ見出すことができるのではないか。シンバルが鳴らされるときにすべての分子が意思を持って振動しているかのようなイメージを覚えてしまう。
そして若いマックス・ジョンソンは柔らかくも太くもあるコントラバスでふたりのヴェテランの紐帯となっている。ベルガーの音に、またミンツの音に耳をそばだてるとき、つねに隣でジョンソンの音が響いていることに気づく。アヴァンギャルドからコンテンポラリージャズまで何の違和感もなく参加しているのは、サウンドメイカーとしてのジョンソンの矜持ゆえだろう。
恥ずかしいので外では口が裂けても言わないが、上質のオトナの音楽だ。
(文中敬称略)