# 2223『スティーヴン・ガウチ+サンティアゴ・レイブソン+ウィリアム・パーカー+タイショーン・ソーリー / Live at Scholes Street Studio』
Text by Akira Saito 齊藤聡
Gaucimusic
Stephen Gauci (tenor sax)
Santiago Leibson (piano)
William Parker (bass)
Tyshawn Sorey (drums)
1. Improvisation I
2. Improvisation II
3. Improvisation III
Recorded at Scholes Street Studio (Brooklyn) on September 18th, 2021
テナーサックス奏者のスティーヴン・ガウチ(*1)は、2017年頃から、ブルックリンのブッシュウィックで毎週フリー・インプロヴィゼーションのギグを主催してきた。コロナ禍で休止を余儀なくされたものの2022年4月までしぶとく継続し、現在では他の場所でも開催している。本盤はブッシュウィックで不可能だったグランドピアノをフィーチャーしたシリーズのひとこまだ。(なお、2022年11月末からはブルックリンのメイン・ドラッグにおいて一晩に5バンドが演奏するシリーズを始めている。)
仰ぎ見る巨匠のイメージがあると意外かもしれないが、コントラバスのウィリアム・パーカーはときどきこのシリーズにも、またニューヨークの公演で開かれる無料のコンサートでも走り回る子供たちの前で演奏している。気さくな人なのだ。ここでも剛に柔に演奏を駆動しており、その力量はまったく衰えていない。
ただ、むしろ本盤ではドラムスのタイショーン・ソーリーの参加に驚かされる。二十代での登場から15年ちかく過ぎたいまでも、かれの音を耳にするたびに大きな衝撃を覚える。たとえば、本盤と同様のサックス+ピアノトリオの編成による『The Off-Off Broadway Guide to Synergism』(Pi Recordings、2022年)ではスタンダードの数々を演っているのだが、その安心感とは裏腹にドラミングの異物感が聴く者にリラックスすることを許さない。そのおもしろさがギャップにあるのだとして、対照的にフリー・インプロヴィゼーションを展開する本盤では、そういった仕掛けなしにドラミングそのものの凄みを体感できる。もはやポリリズムと簡単に片づけられないほど時間の流れも響きも複層的なものであり、ドラマーとしてサウンドに貢献するというよりも、サウンドのどの断面もタイショーン・ソーリーという巨象の一部であることを感じさせるほどだ。
ガウチは高音を中心に攻め抜くスタイルであり、そのテナーらしからぬありようが個性となっている。かれをはじめて観たとき、「高音が耳に入るとテンションが上がるだろう?」と冗談めかして話してくれたのだが、その戦略が奏功していることは、一貫して重量級の面々と同等に渡り合うさまから十分にわかる。
(文中敬称略)
(*1)名前の綴りはStephenだがスティーヴンと発音する。