#1201 『Andrew Drury / The Drum』『Andrew Drury / Content Provider』
text by Narushi Hosoda 細田成嗣
『Andrew Drury / The Drum』
Soup And Sound Recordings
- Hidden Voices
- The Drum
- Aluminum Donkey Dance
- Thesis/Antithesis
- Askew
- Control and Let Go
- Inflation
- Low Blow
Andrew Drury: Composer, Engineer, Mixing, Primary Artist, Producer
Chris Hoffman: Mastering
Luke Lorbiecki: Artwork
『Andrew Drury / Content Provider』
Soup And Sound Recordings
- Keep The Fool
- El Sol
- Content Provider
- Ancestors Friends Heroes
- The Commune of Brooklyn
- Daahound(Composed by Clifford Brown)
- The Band Is A Drum Set
Andrew Drury: Composer, Drums, Primary Artist, Producer
Briggan Krauss: Alto Sax
Ingrid Laubrock: Tenor Sax
Brandon Seabrook: Guitar(except 2 & 4)
Chris Hoffman: Mastering
Luke Lorbiecki: Artwork
Eivind Opsvik: Mixing
Tom Tedesco: Engineer
NYのベテラン・ドラマーが放つ2枚のアルバム
ニューヨークを拠点に活動するドラマーのアンドリュー・ドゥルーリーによる、かなり毛色の異なる2枚のアルバムが、今年の初めに同時にリリースされている。ドゥルーリーは1964年にシアトル近郊の都市ベルビューで生まれ、これまでオルタナティヴなジャズ・シーンと関わりながら50枚近くの録音に参加してきたベテランである。ウェズリアン大学においてエド・ブラックウェルらのもとで学んだ彼は、作曲家として数多くの楽曲を手掛けるとともに、即興演奏家としてもまた、狭義のジャズにとどまることのない活動をみせ、ミシェル・ドネダやアンドレア・ノイマンをはじめとした様々なアーティストと共演してきている。こうした両翼のバランスの取り方は、単に作曲と演奏を兼ねるというにとどまらず、メアリー・ハルヴァーソンやスティーヴ・リーマンといった昨今のニューヨークにおいて活躍する他のミュージシャンにも通じるひとつの特徴だと言えるのかもしれない。ともあれ、『ザ・ドラム』はそうした彼によるソロ・パフォーマンスを収めた作品であり、同時リリースされた『コンテント・プロバイダー』が気鋭の演奏メンバーを従えたジャズ・テイストな作品であるのに対して、こちらは響きの拡張/探究の果てに生み出された強烈無比なノイズ・ミュージックとなっている。
全編フロア・タムをベースに幾つかの小道具を駆使しながら即興演奏によって構築されたその音楽は、わたしたちがドラマーに対して持つ一般的なイメージを鮮やかに裏切りながら、なんとも奇っ怪な響きの創出へと至っている。というのも彼は打楽器をふつうそうするように叩くのではなく、偏執的なまでに擦り、あるいは管楽器奏者よろしく息を吹き付けることによって、広く普及したこの楽器からほとんどいまだに聴かれることのないような音を紡ぎ出しているのである。とりわけ印象深いのは<Aluminum Donkey Dance>と題されたトラックで、いったい本当にフロア・タムの音なのかと訝しんでしまうほどに、まるで電子機器の接触不良音のごときノイズを耳にすることができる。打楽器は叩くものだという囚われのうちにあっては決して出会うことのないような未知のサウンド。だがそうしたいわば楽器の解体へと向かう作業は、ときに奏法の特殊性それ自体を目的化してしまうような試みがみられる演奏家とは異なって、あくまでもフロア・タムの「隠された声」とでも言うべきものを引き出すための手段として、ここで採用されているにすぎない。だから方向性を違えたもう片方のアルバムにおいて、開拓された響きを自在に切り捨てながら、ドラム・セットをそれとして叩く彼の演奏を、わたしたちは聴くことになるだろう。
『コンテント・プロバイダー』は、昨年から活動しているカルテット及びトリオの演奏を収録した、記念すべき最初のアルバムである。1曲を除き他すべての楽曲がドゥルーリーによって作曲されており、変則的な拍子やポリリズムを多用した幾何学的で複雑に入り組んだテーマは、いわゆるM-BASE派からの影響を窺わせもする。それらを演奏メンバーは驚くほど正確に辿りながら、即興演奏の場面に入ると、丁々発止というよりも、各々の個性を発揮した音遊びのようなやり取りが交わされていく。自由闊達に跳躍するイングリッド・ラウブロックのテナー、螺旋を描くようにモチーフを展開していくブリガン・クラウスのアルト、それに高速ドリルのような早弾きを駆使したブランドン・シーブルックのギターが、ドゥルーリーのドラムスと対等に絡み合いながら、ベースを欠いた特異な編成とあいまって、独特の鋭角的な音像をつくり出す。そうしたなかで異色とも言えるのは、クリフォード・ブラウンの有名なスタンダード曲を取り上げた、非常にメロディアスかつ流麗なバラードの存在だ。ほとんどロマンティックにさえ響くその演奏は、しかし理知的なテーマと遊戯的な即興を行き来する他の演奏と好対照をなすことによって、かえって新鮮な趣をもって立ち現れてくる。この振幅を、さらに『ザ・ドラム』との距離において捉えるならば、音楽の可能性を徹底的に突き詰めると同時に、その探索の領域を軽やかに切り替えていくドゥルーリーの美学的な態度を見出すことができるだろう。それを「最大主義」(Five by Five #1148)の複数化と言い換えるとき、齢50を越えてなおニューヨークの先端を駆け巡る彼の姿が浮かび上がってくる。
*初出;2014.4.26 Jazz Tokyo #207