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CD/DVD DisksNo. 307

#2281『Barry Altschul/David Izenson/Perry Robinson – Stop Time: Live at Prince Street, 1978』
『バリー・アルトシュル,デヴィッド・アイゼンソン,ペリー・ロビンソン/ストップ・タイム〜ライヴ・アット・プリンス・ストリート 1978』

text by Nobu Suto 須藤伸義

NoBusiness: NBCD 163

Barry Altschul (drums)
David Izenson (bass)
Perry Robinson (clarinet)

1. Untitled I, 2. Untitled II, 3. Untitled III, 4. Untitled IV
All compositions by Altschul-Izenson-Robinson

Recoded at October 14, 1978 at 131 Prince Street, New York, NY
Original recording produced by Peter Kuhn
Re-mastered by Arunas Zujus at MAMAstudio


1970年代にニューヨークで盛り上がった「ロフト・ジャズ」時代の素晴らしい未発表音源をリトアニアのNoBusinessレコードが届けてくれた!

メンバーは、バリー・アルトシュルds(1943-)、デヴィッド・アイゼンソンb(1932-1976)とペリー・ロビンソンcl(1938-2018)のトリオ。各人とも1960年代よりニューヨークを中心に進歩的な音楽を推進していた同志だが、意外にもこの3人での活動/録音は、ここに録らえられたコンサート及びそのためのリーハーサルの他は「一回あったかどうか」(バリー・アルトシュル談)らしい。しかし、彼らは皆、当時NYで盛んに行われていた数々のライブやジャムセッションで個別に共演し、旧知の間がらだった。またデヴィッド・アイゼンソンは、近年イタリアのSagittarius A-Starからリリースされた、ペリーの『Uni Trio』 (1968年録音) のメンバーだった。

本トリオの素晴らしさは、先ず何よりそのバランスの良さにある。アイゼンソンのサポートを確実にこなしながらも自在に曲想を膨らませるベースの上をペリーの風に吹かれるような自由さの有るクラリネットが舞い、バリーの攻撃的だがオープンで柔軟なドラムがフリーな推進力を演奏に与えている。いわゆる「フリー・ジャズ」や「フリー・インプロヴィゼーション」に属する演奏だが、彼らの音楽は決してグルーブやメロディーを忘れていない。そう言った特性が一番出ているのは3曲目で、このトラックではラテン風味の有る導入部からフリーキーなマーチの間奏を経て印象的な旋律のブルースが無理なく現出する。例えるなら、キース・ジャレットpの「トータル・インプロビゼーション」をトリオで演じている感じだ。

ただキースと違い完全な即興というより、多少は用意していたフレーズを使用しているかもしれない。ライナーに依ると「既存の曲は確認できなかった」としているが、1曲目の後半部分で現れるメロディーは、前出Uni Trioのアルバムにも収録されているペリーの〈Raga Roni〉という曲だ。マスターテープが入っていた箱に記述された情報を見ると、確かに既存の曲は使われていたようだ。しかし用意されていた素材を使っていようと、ここに聴かれる自由自在なインスピレーションは、数あるジャズ作品でも稀に聴かれるものだ。JT誌の読者は、ぜひトライしてみてください!

因みに録音場所の131 Prince Streetは、ロフト・ジャズ発祥地でオーネット・コールマンasが居住地一階を改築/開放したArtist House(1970-1975)と同じ住所だが、本作収録の1978年には、別の有志がコンサートを企画運営していたらしい。オーネット在住時代の話は、スイング・ジャーナル編集長の児山紀芳氏が来訪/特集をしていて英語圏の識者の間でも当時を知る貴重な資料として認識されているようだ(https://www.pointofdeparture.org/archives/PoD-53/PoD53Ornette.html)。

最後に録音は、ペリーの弟子でもあるマルチリード奏者ピーター・キューン。ピーターは当時、UCサンタクルーズ校在籍時代に手に入れた有名なRevox A77を駆使して全盛期を迎えていたロフト・ジャズを記録していた。当時、彼の録音した音源はMusic Works (The Frank Lowe Orchestra – Lowe and Behold: 1977年)、Anima Productions (Billy Bang’s Survival Orchestra: 1978年)、Parachute (Polly Bradfield – Solo Violin Improvisations: 1979年)、 Belows (Byard Lancaster – Documentation, 1979年) や Hat Hut (Cecil Taylor – It Is In The Brewing Luminous, 1981年)といったアメリカ内外の自主制作に近いマイナーレーベルよりリリースされていた。そういった作品以外にも、ピーターはオーネット・コールマンや アンソニー・ブラクストンのソロ他、沢山の音源を持っていたらしいが、残念ながら彼はその後薬物中毒に侵されてしまい、ドサクサの中ほとんど手放してしまったらしい。しかしながら、現在は健康を取り戻し、まだ手元に残っていた作品や自身の新録音をNoBusinessやイギリスのFMRからリリースしているのは、本当に喜ばしい。

このレビュー作成にあたりピーターから情報を提供して貰ったが、その過程で彼が1977年に録音したペリーとタブラ奏者のバダル・ロイとの演奏を送って来てくれた。これがまた素晴らしい演奏で、当時自主レコードレーベルIAIを主宰していたポール・ブレイpに聴かせたところ『Kundalini』(1978)の制作/発表に至ったという。収録時間は短いが、そのナナ・ヴァスコンセロスperを加えたアルバム以上にペリーとバダルの魅力が完璧に表現されているので、ぜひ他の未発表録音と一緒に発売される事を祈りたい。

*『Stop Time』は、Bandcampより購入可能 (CDは限定発売):https://nobusinessrecords.bandcamp.com/album/stop-time

須藤伸義

須藤伸義 Nobuyoshi Suto ピアニスト/心理学博士。群馬県前橋市出身。ピアニストとして、Soul Note(イタリア)/ICTUS (イタリア)/Konnex(ドイツ)の各レーベルより、リーダー作品を発表。ペーリー・ロビンソンcl、アンドレア・チェンタッツォcomp/per、アレックス・クラインdrs、バダル・ロイtabla他と共演。学者としての専門は、脳神経学。現在スクリプス研究所(米サンディエゴ)助教授で、研究室を主宰。薬物中毒を主とするトピックで、研究活動を行なっている。

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