#2295 『Trio San / Hibiki』
Text by Akira Saito 齊藤聡
JAZZDOR
Satoko Fujii 藤井郷子 (piano)
Taiko Saito 齊藤易子 (vibraphone)
Yuko Oshima 大島祐子 (drums)
01. Hibiki
02. Soba
03. Yozakura
04. What You See
05. Wa
06. Ichigo
藤井郷子と齊藤易子のデュオによる『Beyond』はかなりの異色作であり、微細な音の遷移帯に聴く者の意識が連れていかれるような世界を提示したものだった。藤井のピアノソロ『Stone』もまた、音が創出され波となって広がってゆくさまを否応なく想像させられる作品だった。そして本盤のタイトルはいみじくも『響』。
だからといって、このサウンドが藤井だけの個性によるものかと言えば否だ。また、藤井と齊藤のデュオに大島祐子が加わったのだという説明は適切ではないだろう。音のありようを問いなおすようにグラデーションのみを注視する作品ではないのだ。むしろ、本盤では、トリオとしての可能性がさまざまに模索されているのではないか。ダイナミックレンジの大きさはその証左である。
静かに、三者が「それぞれに」音を響かせはじめる。やがてこちらにも感じられるような音の交感に移行するプロセスはドラマチックだ。齊藤がヴァイブならではの残響の大きさと長さを活かしてピアノの横を駆けのぼったり、トリルで夢のようにピアノを浮上させる力を与えたり。三者が四方にエネルギーを放出するさい、あるいは静かに動きをはじめようとするさい、藤井のピアノが構造的にサウンドを収斂させる力を発揮する局面もある。パーカッシヴなピアノがあたかも大島のドラムスに力を注入したかのようにふるまい、ドラムスが天高く飛翔することもある。対照的に、そのドラミングは野太い音のときも息遣いを感じさせるほど繊細でもある。
もちろんそれだけではない。注意深く耳をそばだてれば、コミュニケーションが多様な現象となるありよう自体を音楽として受け止めることができる。
(文中敬称略)