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CD/DVD DisksNo. 310

#2302 『小曽根 真/Trinfinity』〜小川晋平、きたいくにと、
佐々木梨子、二階堂貴文、ドニー・マッキャスリン、パキート・デリヴェラ

Text by Hideo Kanno 神野秀雄

『小曽根 真/Trinfinity』
『Makoto Ozone / Trinfinity』

小曽根 真 Makoto Ozone: piano
小川晋平 Shimpei Ogawa: bass
きたいくにと Kunito Kitai: drums
with
Donny McCaslin: ダニー・マッキャスリン: tenor saxophone (3)(4)
佐々木梨子 Riko Sasaki: alto saxophone (3)
Paquito D’Rivera パキート・デリベラ: clarinet (5)
二階堂貴文 Taka Nikaido: percussion (5)

1. The Path
2. Snap Shot
3. The Park Hopper
4. Deviation
5. Etudade
6. Momentary Moment
7. Mr. Monster
8. Infinity
9. Origine of the Stars

録音: 2023年8月25日、26日、ニューヨーク、パワーステーション・バークリーNYC
録音&ミキシング・エンジニア: Akihiro Nishimura
マスタリング・エンジニア: Mark Wilder
写真: 斎藤 工
Verve/ユニバーサルミュージック UCCJ-2232
2024年1月24日(水)発売 SHM-CD ¥3,300(税込)
CD購入&サブスクリプション: Makoto-Ozone.lnk.to/TrinfinityPR

小曽根真が、気鋭の小川晋平、きたいくにとと結成したニュートリオ「Trinfinity」の第1作。小曽根は、1983年バークリー音楽大学首席卒業と同時にファーストアルバム『OZONE』(CBS)リリース、カーネギーホールでのリサイタルで世界デビューを果たした。またゲイリー・バートン・グループでキャリアをスタートさせ『Real Life hits』、『Whiz Kids』をECMで録音している。幅広い活躍を経て、今ではクラシック界でも世界の名門オーケストラから招聘されるなど、ジャンルを超えた進化が止まらない。2023年にデビュー40周年の節目を迎えた小曽根が世に問うのがトリオ「Trinfinity」。ネーミングは、TrioとInfinityを掛け合わせていて、3人が無限の可能性を持って進んでいく期待と決意が表れている。

小曽根は、国立音楽大学ジャズ専修を設立し、これを率いる教授として若手の育成に力を注ぎ、また神野三鈴と共同プロデュースする「From Ozone till Dawn」で気鋭の若手を支援してきたが、自らの活動の中核として、世代を超えたレギュラートリオを結成し、レコーディングにまで臨んだのは初めてだと思う。小川と きたい とは2021年より「From OZONE till Dawn」の取り組みをはじめ、ブルーノート東京公演、新日本フィルハーモニー交響楽団定期演奏会、クリスマス・ジャズ・ナイトなど小曽根のサイドを固め、満を持して、2023年8月25日〜26日にニューヨークのパワーステーションでレコーディングに臨んだ。

<Park Hopper>には、ゲイリー・バートン・グループでの同僚であり、最近ではディヴィッド・ボウイの最後のバンドのバンマス的存在としても注目されたテナー・サックスのドニー・マッキャスリン、そして、北海道の高校を卒業したばかりで、バークリー音楽大学に奨学生として留学を開始する直前のアルトサックスの佐々木梨子が参加。ドニーと佐々木との共演実現の凄さは、三木俊雄がこの共演を予想もせずに語った「佐々木梨子は、バークリー音楽大学でドニー・マッキャスリンに出会って以来の衝撃だ。」の言葉に集約される。その二人は引き合わせた小曽根の決断にも感謝するばかりだ。当初予定されていた録音日程はずっと早く、佐々木との共演もなかったと思うし、アルバムの完成度も違ったかもしれないので、何が吉と出るかはわからない。

佐々木梨子は高校生のときから、中村海斗、壷阪健登らと共演してきたが、「若いのに、女子高生なのにジャズが巧い」ではなく、超絶なテクニックを身につけ超越して、自身の音楽を的確に表現できるもはや巨匠の域に居る。佐々木との出会いは筆者にとって2023年最大の衝撃であり、話題の映画のコンセプト”ブルージャイアント”とは、実はこんな謙虚で物静かで熱い想いを秘めた佐々木だったのかと思った。佐々木梨子トリオのライヴレポートをご参照いただければ幸いだ。また、佐々木の魅力を伝え、壷阪健登とも共演となる『中村海斗/Blaque Dawn』もぜひ聴いていただきたい。

エチュード風に始まる<Etudade>では、盟友パキート・デリヴェラに、気鋭のニューヨーク在住のパーカショニスト二階堂貴文が参加。二階堂はニューヨークのラテンサイドのミュージシャンからも高い評価を得ている中で、イラケレのメンバーでもあったパキートとの出会いで生まれるケミストリーが素晴らしい。

アルバムタイトルにも繋がる<Infinity>。タイトルから尖った熱い演奏を勝手に想像したら、透明感に溢れながら、熱い想いを秘めるような美しいバラード。心が洗われるようだと言っているうちに、最終トラックの<Origine of the Stars>へ。小曽根のパートナー神野三鈴の闘病にあたって、献身的に支援してくれたミュージシャン・俳優の星野 源に捧げた美しく躍動感に溢れた曲。星野は、キース・ジャレットからDOMi & JD BECKに至るまであらゆる音楽を研究しリスペクトししながら、新しい音楽の探求を続ける。またマリンバ愛も深い。いつか小曽根と星野の共演が聴ける日も楽しみにしたい。

アルバム・ジャケットは、俳優/映画監督の斎藤 工が撮影し、トリオの3人の魅力と想いが伝わる映像で、これまでのアルバムジャケットとは異なるイメージを発信することに成功している。

小曽根は2024年からニューヨークに活動の拠点を移すことを表明している。ブランフォード・マルサリス、クリスチャン・マクブライド、ジェフ・”ティン”・ワッツらとの共演の中でジャズの最前線の街への復帰を考えたこともあるだろうが、アメリカで活躍しながらCOVID-19で帰国した20代ミュージシャンの日本での活躍も刺激となり、また小曽根を深く敬愛する角野隼斗がニューヨークへ、藤田真央がベルリンへと、海外拠点で活動していることも影響しているだろう。ともあれ、小曽根がデビュー40周年を機に動き出したさまざまな挑戦への期待が止まらない。まだ見ない音の世界へ連れて行ってくれることを楽しみにしたい。


L: 『小曽根 真/A Night in Tokyo』 R: 『中村海斗/Blaque Dawn』

神野秀雄

神野秀雄 Hideo Kanno 福島県出身。東京大学理学系研究科生物化学専攻修士課程修了。保原中学校吹奏楽部でサックスを始め、福島高校ジャズ研から東京大学ジャズ研へ。『キース・ジャレット/マイ・ソング』を中学で聴いて以来のECMファン。Facebookグループ「ECM Fan Group in Japan - Jazz, Classic & Beyond」を主催。ECMファンの情報交換に活用していただければ幸いだ。

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