#1344 『高橋知己カルテット/WISE ONE』
text by Yumi Mochizuki 望月由美
AKETA’S DISK MHACD-2649 ¥2,667円+税
高橋知己 (ts,ss)
生田さち子 (p)
工藤精 (b,elb)
斎藤良 (ds)
guest :
鈴木典子 ( vo)
1.Teo (T.Monk)
2.Wise One (J.Coltrane)
3.Beyond [For Tsumura] (高橋知己)
4.Radames y Pele (A.C.Jobim)
5.Harvest Song[For Mariko] (高橋知己
6.Believe Beleft Below [Love Is Real] (E.Svensson/J.Haden) )
7.Spanish Joint (D’Angelo&R.Hargrove)
8.Strange Meeting (B.Frisell/鈴木典子)
9. The Saga Of Harrison Crabfeathers (S.Kuhn)
10. Minnie (M.Davis/鈴木典子)
プロデューサー:明田川荘之
レコーディング&マスタリング:島田正明
録音:2015年9月9、10日 11月11日 12月9日 西荻アケタの店にて録音
高橋知己の急逝したギタリスト津村和彦へのトリビュート作
若くしてこの世を去った盟友を想い、モンク、コルトレーン、マイルスそして自作のBeyond [For Tsumura]を捧げる。
一曲目はモンクの<TEO>。モンクがアルバム『MONK』(COLUMBIA 1964) のなかでプロデューサー、テオ・マセロに捧げて書いた曲で、工藤精 (b,elb) と斎藤良 (ds) が創りだすダラー・ブランドの『PORTRAITS OF THELONIOUS』(VERVE 1980) に似たシャッフル・リズムにのって知己はテーマを丁寧に吹上げている。
知己のソロが終わると、リズムの3人が活き活きと動き出す。
生田さち子 (p) のピアノ・ソロのつぎに工藤精 (elb) がエレクトロニクスを駆使してソロをとるが、その背後で斎藤良 (ds) がハイハットでうごめき回り、さらに生田が活発に反応する。この3人が有機的にリズムを創りあげてゆくあたりに高橋知己カルテット現メンバーの結びつきが固いことをあらわしている。
(2)<WISE ONE>はいわずと知れたコルトレーン『CRESSENT』(Impulse! 1964) の名演で知られる曲である。
このコルトレーンの演奏を知った上ではテナーでこの領域に踏み入ることはできない禁断の領域ではないかと思うのだが知己はソプラノでややテンポを速めて吹く。エンディングでテーマを丁寧に力強く吹く知己にトレーンとの精神的なつながりを感じる。
この『WISE ONE』ははからずも昨2015年急逝したギタリスト津村和彦へのトリビュート作になった。
津村和彦 (g) は昨2015年6月17日、58歳という若さで亡くなった。津村は高橋知己とは20年ほど一緒に演奏をする良き友であり後援者であった。
知己がこのアケタズ・ディスクでの10作目をつくることを思い立ったときには津村を入れたカルテットを頭に描いていたそうだ。2013年に食道がんを患い闘病しながらであったが本人の強い意志で演奏を続けていたからである。しかし、昨年の5月27日、横浜エアジンでの共演が二人のラスト・ライヴとなってしまった。
高橋知己は本アルバムを 津村和彦の追悼アルバムとすべくゲストに津村夫人でヴォーカリストの鈴木典子をゲストに迎え入れてこのレコーディングを行ったのである。
アルバムの構成は前半の(1)~(5)が高橋知己カルテットの演奏で(6)~(10)に鈴木典子のヴォーカルが加わる。
(3)<Beyond [For Tsumura]>は知己が津村に捧げて作った曲でモンクの『THELONIOUS HIMSELF』(RIVERSIDE 1957) の<モンクス・ムード>に似たおだやかな安らぎを覚える。
鈴木典子 (vo) は (6)~(10) に加わっているが、マイルスの『The Complete On The Corner Sessions』(COLUMBIA 1975) に収められていた(10)<Minnie>では自ら詞をつけて歌い知己のソプラノにスキャットで絡む。
カルテットのメンバーの支えに感謝しながらも元気に歌っているその姿勢に共感する。
選曲には日頃から幅広い音楽にアンテナを張って身につけている知己らしくモンク、コルトレーンからディアンジェロ、ジョビン、ビル・フリゼールなどからマイルスまで多岐にわたっていて、ジャンル・フリーの知己ならではの構成である。
『WISE ONE』は津村和彦のトリビュートであるとともに現在の高橋知己カルテットの普段通りの音楽を素直に表現したものである。
ジョン・コルトレーン、高橋知己、工藤精、斎藤良、津村和彦、鈴木典子、Wise One