#918 チック・コリア・トリロジー with アヴィシャイ・コーエン & マーカス・ギルモア
Chick Corea Trilogy with Avishai Cohen and Marcus Guilmore
2016.9.15 21:00 Blue Note Tokyo ブルーノート東京
Text by Hideo Kanno 神野秀雄
Photo by Takuo Sato 佐藤拓央
500 Miles High (Chick Corea)
Alice in Wonderland (Sammy Fain)
Continuance (Chick Corea)
Gesture #1 (Avishai Cohen)
Tempus Fugit (Bud Powell)
Fingerprints (Chick Corea)
Spain (Chick Corea) with 小曽根真 Makoto Ozone
チック・コリアは、1941年6月12日生まれで今年75歳。これまで通算22回のグラミー賞を受賞。振り返るとマイルス・デイヴィス・グループのピアニストとして、ジョー・ザヴィヌルの9歳下、ハービー・ハンコックの1歳下、キース・ジャレットより4歳上という位置関係にいる。
75歳記念のヨーロッパツアーは、ケニー・ギャレット(sax)、ウォレス・ルーニー(tp)、クリスチャン・マクブライド(b)、マーカス・ギルモア(ds)であり、「Homage to Heroes」と題されて、影響を受けたビル・エヴァンス、ホレス・シルバー、セロニアス・モンク、バド・パウエル、マイルス・デイヴィスに捧ぐものだった。もっとも編成によらずチック・コリア75周年のテーマのひとつのようだ。
他方、来日公演タイトルの「Trilogy」はもともと、クリスチャン・マクブライド(b)とブライアン・ブレイド(ds)による2014年のアルバムでありまったく編成が異なる。しかし、アヴィシャイ・コーエンとマーカス・ギルモアはトラ(代役)なんてものではもちろんなくて、この3人こそ現在望みうる最高のピアノトリオのひとつに他ならない。
オリジナリティに溢れた名曲の数々と斬新なサウンドを創り出し、日本のファンに愛され続けてきたチックのクラブ公演というだけではなく、現代ジャズシーンを代表するドラマーのマーカス・ギルモアと、イスラエル出身のベーシスト、アヴィシャイ・コーエンを聴きに来た人、そのコンビネーションの凄さに駆けつけた人と、ブルーノート東京は平日夜にもかかわらず立見まで出る満員となった。
アヴィシャイ・コーエンは、1970年イスラエル生まれ、シャイ・マエストロ(p)、マーク・ジュリアナ(ds)とのトリオで活躍、チックとはオリジンへの参加が注目された。マーカス・ギルモアは、1986年生まれ、ロイ・ヘインズの孫だが、現在ニューヨークで最も多忙なドラマーの一人であり、『The Vigil』に参加し、チックが最も重用するドラマーとなっている。1月の「Winter Jazz Fest」ECM ステージだけでも3グループに参加し最多出場ミュージシャンだった。
リターン・トゥー・フォーエバーの『Light as a Feather』から<500 Miles High>で幕を明け、9月15日がビル・エヴァンスの命日であることにも因んでかビルを意識しながら<Alice in Wonderland>を演奏して、簡単な決めフレーズを織り込みつつ、親しいインタープレイが展開された。チックの新曲<Continuance>とアヴィシャイの新曲<Gesture #1>も披露される。
3人のとてつもない技量と細やかな感性に裏打ちされて、繊細で緻密なリズムとグルーヴを持ちながら、わかりやすく楽しく、音楽への愛に溢れた時間。観客まで巻き込んで楽しくて仕方がない風。チックとマーカスのリズムが凄いのは言うまでもないが、アヴィシャイのボディを叩いたりまでを含めて生み出す自由で複雑なリズムに驚かされる。マーカスのきめの細かい、そしてその世代差を感じさせずに対等に向き合うチック・コリア。完成されながら自由でオープンな最高のピアノトリオの世界を魅せてくれた。
<Bud Powell>のメロディの片鱗が聴こえたかと思ったら、バド・パウエルの<Tempus Fugit>へ、チックのバドへの敬愛が伝わる。ウェイン・ショーターの<Footprints>を意識した<Fingerprints>で締め括る。
チックが会場に小曽根真がいることを告げ、アンコールでステージに招き入れる。連弾で本当に自由の中から音を紬ぎ出しながら、やがて浮かび上がって来る聞き覚えのあるコード進行、『Light as a Feather』の名曲<Spain>のテーマに大歓声が上がる。ワンコーラスごとのチックと小曽根のソロの交換が楽しくスリリングで、アヴィシャイのアルコでのテーマも交えたりもしながら、テーマを変化させたフレーズをチックが、ときに小曽根が観客に指示、反復してユニゾンで歌わせて会場が一つに。5月の小曽根とチックのデュオツアー、NHK交響楽団とのモーツァルト<2台のピアノのための協奏曲>での感動が甦りつつ、小曽根〜アヴィシャイ〜マーカスの瞬間もすばらしい。チックと仲間たちの信頼と真剣さから生まれる音楽の凄さに打ちのめされた。
10月19日から12月11日にかけて、ブルーノート・ニューヨークでは、チック・コリア75歳記念のライヴシリーズが繰り広げられ、過去から未来へさまざまな編成とコンセプトで取り組む。巨匠というよりもエネルギーに溢れた中堅であり、世代を超越しているかのようだ。これからのますますの活躍が楽しみでならない。
【関連リンク】
Chick Corea official website
http://chickcorea.com/
Avishai Cohen official website
http://avishaicohen.com
Blue Note New York
http://www.bluenote.net/newyork/
【JT 関連リンク】
ECMⓐWinter JazzFest
https://jazztokyo.org/reviews/live-report/881
Chick Corea and Stanley Clarke Duo Concert 2013
http://www.archive.jazztokyo.org/live_report/report548.html
- この来日でトリオ公演は、マーカス・ギルモアが参加。
東京JAZZ 2013〜Chick Corea & The Vigil
http://www.archive.jazztokyo.org/live_report/report581.html
小曽根真、Chick Corea、Avishai Cohen、Marcus Guilmore、Makoto Ozone