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Concerts/Live ShowsReflection of Music 横井一江No. 316

Reflection of Music Vol. 98 吉田隆一「プレイズ・カーラ・ブレイ」


吉田隆一「プレイズ・カーラ・ブレイ」 @新宿ピットイン 2024
Ryuichi Yoshida „Plays Carla Bley” @Shinjuku PIT INN, March 30, 2024
photo & text by Kazue Yokoi  横井一江


バリトンサックス奏者吉田隆一が自身のプロジェクトとして「プレイズ・カーラ・ブレイ」を始動したのは2020年に遡る。私は彼がカーラ・ブレイに傾倒していることをその時に知った。内容的にすごく興味はあったものの諸事情で出かけられず、継続するとのことだったので、観る機会が訪れるのを待つことにした。

コロナ禍がほぼ収まった2023年1月、吉田は「The Thrid World of Jazz “プレイズ” 3 デイズ」を行い、ガトー・バルビエリ、カーラ・ブレイ、チャーリー・ヘイデンを取り上げ、彼にとってのアメリカに於ける「ジャズの第三世界」を提示した。ガトー・バルビエリの出身国はアルゼンチン、つまり冷戦時代だった当時の東側にも西側にも属さない第三世界の国のひとつだったが、カーラ・ブレイとチャーリー・ヘイデンはアメリカ人。では、なにゆえ「ジャズの第三世界」だったのか。彼が意味するところは、当時のメインストリーム・ジャズともフリージャズとも異なる路線を行くジャズということだった。とはいえ、吉田が取り上げた3人のミュージシャンは、特に初期の活動において60年代に勃興したフリージャズ・シーンと深い繋がりがある。ヘイデンはオーネット・コールマン・カルテットのメンバーであり、カーラ・ブレイはジャズの十月革命」「ジャズ・コンポーザーズ・ギルド」に参加、ガトー・バルビエリはドン・チェリーのバンドのメンバーだった。このため彼らが指し示していた方向性は見えずらくもあった。しかし、フリージャズの時代だったからこそ既成概念に捉われることなく、カーラ・ブレイのように作曲面などでも現代のジャズに繋がる流れが実は出てきていたと捉えるべきで、吉田はそこに着目したと言っていい。付け加えると、レコード制作やディストリビューションでもメジャーに頼らない選択肢をとるといったことが始まったのもこの時代で、カーラ・ブレイはそれを実践したひとりだった。

今年3月30日に吉田は再び「プレイズ・カーラ・ブレイ」を行う。カーラ・ブレイは昨2023年10月17日に亡くなった。今回のライヴには追悼の意も込められていたことは言うまでもない。60年代のジャズシーンで起こったムーヴメントはフリージャズだが、カーラ・ブレイは作曲面で新風を吹き込んだ。彼女の楽曲をラージ・アンサンブルで取り組むということは、いかに作品を読み込み、自由な発想で書かれたそれらをバンド用にアレンジして、そこにメンバーによる即興演奏のスペースもつくるといった準備が必要になってくる。「SF音楽家」と名乗るくらいSFに精通している吉田にはこのような作業は向いているのかもしれない。「エスカレーター・オーヴァー・ザ・ヒル」を全曲演奏したいという野望があるだけに、彼にとってアレンジし、演奏するために解き明かしたい「過程の謎」を追って、その研究は録音作品の音像にまで及んでいる(→リンク)。それだけではなく、彼がポール・ヘインズの現代詩と音楽の関連性をどう捉えているのかも一度聞いてみたいものだ。

3月のライヴは前回と比べて選曲と構成が大きく変わり、1部は2000年からのメンバーによる「プレイズ・カーラ・ブレイ・バンド」の演奏、ゲストが加わり、2部はアコースティック・カルテット/クインテット編成、そして3部は「エスカレーター・オーヴァー・ザ・ヒル」からの抜粋というプログラムだった。やはり3回目となるとバンド演奏としてのクォリティもぐっと上がる。ゲストは昨年の「プレイズ・チャーリー・ヘイデン」に参加していたベースの吉野弘志と80年代後半から90年にかけてORTという自身のバンドでカーラ・ブレイ作品にも取り組んでいたピアニスト黒田京子。3回目ということもあって「プレイズ・カーラ・ブレイ・バンド」もステップアップしている。カーラ・ブレイを好きなミュージシャンは多いが、バンドでその作品に取り組む人はなかなかいない。吉田はバンドの人選で「カーラ・ブレイ・バンド」のメンバーが果たしていた役割と「プレイズ・カーラ・ブレイ・バンド」のメンバーの特性を上手く重ね合わせている。前回よりも各自のソロは伸び伸びしていて、それぞれのキャラクターが現れていたのが楽しかった。<ドリンキング・ミュージック>の演奏では酒瓶をもった(中身がお酒だったかウーロン茶だったかは不明)フロントの管楽器奏者が入ってくるという演出があった。これは黒田の発案で、ORTでブレヒト作品にも取り組んでいた彼女らしい発想である。今年のライヴでは「エスカレーター・オーヴァー・ザ・ヒル」からの選曲が多かったのは、吉田が野望を実現するための歩みを進めているということがだろうか。

吉田は、カーラ・ブレイはSF作家のカート・ヴォネガットに通じるものがあるという。独特のひねりの効いたちユーモアや毒、語り口に「確かに」と頷いてしまう。吉田がそれを楽曲の演奏やプロジェクトにどのように反映していくのかも気になるところだ。こうなると、もはやカーラ・ブレイ作品への取り組みは、吉田のライフワークと言っていいのかもしれない。

もちろん吉田の活動はこれだけではない。芳垣安洋、林栄一、板橋文夫らのプロジェクト、あるいは渋さ知らズや藤井郷子オーケストラ、他にも様々なユニットあるいはセッションに参加して多彩な活動を続ける一方、昨年は無伴奏バリトンサックス・ソロ作品『境』(doubt music) をリリースした。自身のそれぞれの活動は相互に作用しているだけに、他の活動への興味も湧いてくる。

「エスカレーター・オーヴァー・ザ・ヒル」全曲演奏、それもライヴでという野望が実現すれば快挙である。その日がいつか来るのを楽しみに待ちつづけよう。


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【出演】
吉田隆一(Bs)、後藤篤(Tb)、石川広行(Tp)、北陽一郎(Tp)、細井徳太郎(G)、細海魚(Key)、伊賀航(B)、芳垣安洋(Ds)
ゲスト: 黒田京子(P) 吉野弘志(B)

【セットリスト】

1st set
1.  440
2.  The Lord Is Listenin’ to Ya, Hallelujah!
3.  Syndrome

2nd set
1.  Ida Lupino
2.  Sing Me Softly of the Blues
3.  Sex with Birds
4.  War Orphans (Ornette Coleman)
5.  Drinking Music

3rd set
“Escalator Over The Hill”
1. Hotel Overture
2. Why
3. EOTH THEME ~ BISINESSMEN
4. “Hotel Overture” 2nd motif reprise
5. Holiday in Risk
6. “Hotel Overture” 1st motif reprise
7. A.I.R
8. Over Her Head
9.  Rawalpindi Blues
10.  End of Rawalpindi
11.   …And it’s Again

アンコール
The Lord Is Listenin’ to Ya, Hallelujah!


【関連記事】

カーラ・ブレイ『Escalator Over The Hill』と前後したラージアンサンブル作品の音像について by 吉田隆一
https://jazztokyo.org/column/special/post-100731/

R.I.P. カーラ・ブレイ:“So it goes” by 吉田隆一
https://jazztokyo.org/issue-number/no-308/post-94616/

#36 吉田隆一「The Thrid World of Jazz “プレイズ” 3 デイズ」
プレイズ・ガトー・バルビエリ、カーラ・ブレイ、チャーリー・
https://jazztokyo.org/reviews/live-report/post-84506/

 

横井一江

横井一江 Kazue Yokoi 北海道帯広市生まれ。音楽専門誌等に執筆、 雑誌・CD等に写真を提供。ドイツ年協賛企画『伯林大都会-交響楽 都市は漂う~東京-ベルリン2005』、横浜開港150周年企画『横浜発-鏡像』(2009年)、A.v.シュリッペンバッハ・トリオ2018年日本ツアー招聘などにも携わる。フェリス女子学院大学音楽学部非常勤講師「音楽情報論」(2002年~2004年)。著書に『アヴァンギャルド・ジャズ―ヨーロッパ・フリーの軌跡』(未知谷)、共著に『音と耳から考える』(アルテスパブリッシング)他。メールス ・フェスティヴァル第50回記。本『(Re) Visiting Moers Festival』(Moers Kultur GmbH, 2021)にも寄稿。The Jazz Journalist Association会員。趣味は料理。当誌「副編集長」。 http://kazueyokoi.exblog.jp/

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