#1345 八木美知依 山崎阿弥 遠藤ふみ „Silence is Golden“
2025年 1月19日(日)LADY JANE
text by Kazue Yokoi 横井一江
„Silence is Golden“
【出演】
八木美知依 (electric 21-string koto)
山崎阿弥 (voice)
遠藤ふみ (piano)
八木美知依がこれまでにない顔ぶれで演奏するというので、下北沢 Lady Jane へ出かけた。フライヤーをよく見たら „Silence is Golden“ と書かれている。山崎阿弥と遠藤ふみとの共演、とりわけ遠藤が参加していることからこのタイトルになったのだろう。
Lady Jane オーナー、大木雄高と八木の付き合いは長い。ファーストアルバム『Shizuku』(Tzadik、1998) のジャケット写真は荒木経惟撮影によるものだが、それは大木の紹介によるものだった。詩人白石かずこと八木のコラボレーションを最初に見たのも Lady Jane で、大木が二人を引き合わせたと聞いた記憶がある。Lady Jane では月に5、6回ライヴを行っているが、普段はジャズ・バーとして営業、大木が劇団を主宰していた縁からか演劇関係を始めとして多彩な文化人が顔を出す謂わば下北沢ならではの店だ。
ここで八木は既に2回ほど山崎とは共演しているが、遠藤とは初顔合わせという。 „Silence is Golden“ というタイトルは遠藤の音楽性を踏まえたものであることは想像がつく。果たしてどのような展開になるのだろうかと興味津々、聴く前から期待値は高かった。
ハイパー箏奏者として知られる八木は本田珠也 (ds) との「道場」などでは超絶技巧を駆使してエレクトリック箏を弾き、モジュレーターやルーターも用いてアグレッシヴな演奏をする。これはもはやひとつ境地に達していると言っていい。だが、この日は一音、一音、紡ぐように箏を弾く。遠藤は響きに耳を澄ませて呼応していく。音域的に重なるところもあるのだが、音色、質感が違うので、二人の音が近寄ったり、離れたりして重奏的に響くさまは、寄せては返す波のあわいのようだ。そこに山崎が時に切り込むように、ヴォイスがサウンドに重ねられる。ヴォイスとはいえ口腔だけではなく様々な体の機能を駆使して音を出しているのでとても身体性の高いパフォーマンスだ。発せられたヴォイスはもはや声というよりもノイズを含んだ音そのものであり、千変万化する。ライヴを行うスペースとしては小さなハコならではのインティメイトな空間が奏功したのかもしれない。この三者が織りなした音によるひとつの風景、自然の中に佇んで水や風の音が変化する様を聞いているような、叙景的なサウンドが揺蕩っていた。
昨年9月、幾つか新聞で報じられたとおり、Lady Janeは50周年目前の今年4月に店を閉じる。長年下北沢再開発反対運動をしてきた大木がそこを退去命令によって出なければいけなくなったという事情、それに対する彼の気持ちは私には計り知れないものがあるだろう。大木のことだから、ただでは退かないと信じていると書いて締めくくろうと思ったら、websiteに「Lady Jane 50周年 “破の刻” 終幕式」と題して 4月17日から20日に開催されるスズナリでのイベント企画の告知が掲載されていたのでリンクを貼っておくことにする。
http://bigtory.lolipop.jp/_bigtory/event2025/lj50th_hanotoki.html