#1389 ヴィニシウス・カジャード/東京の2夜
Text and photos by Akira Saito 齊藤聡
ベース奏者ヴィニシウス・カジャードが初来日した。そのうち、立ち会うことができた東京での2夜について報告する。
2025/10/4(土) 月花舎(神保町)
Vinicius Cajado (contrabass), Atsuko Hatano 波多野敦子 (viola), Naoto Yamagishi 山㟁直人 (drums)
2025/10/13(月) Permian(不動前)
Vinicius Cajado (contrabass), Kohsetsu Imanishi 今西紅雪 (koto)
ヴィニシウスはサンパウロ出身・ベルリン在住であり、欧米シーンでも多くの経験がある。バール・フィリップス、マーク・ドレッサー、ジョエル・レアンドルら同じ楽器の巨匠との共演は実力の証左ということができるかもしれない。入念に共演者を選び、また演奏直前には緊張を口にするなど、きわめて真摯なインプロヴァイザーであることの実感もあった。今般はとくに波多野敦子との共演を積み重ね、レコーディングも行った。
月花舎ではその波多野、さらに山㟁直人とのトリオによる演奏。波多野はヴィオラに加えてエレクトロニクスを使ったが、後者を前面に押し出して過度に依拠することはしない。三者に共通する点は音の波形が慎み深く多彩であることで、打楽器の擦りと叩き、弦楽器の擦りとピチカートのコンビネーションが限りない数のヴァリエーションとなった。聴く者にとっては極めて官能的でさえもあって、拍手の熱気がそれをものがたっていた。
Permianでは演奏過程がコミュニケーションの変容でもあった。共有できる場所にいたる模索のためか、はじめのうちはヴィニシアスのコントラバスが明確な旋律ではなく音の塊を出してくる。今西が箏を布で覆ったのはそれへの呼応だったか、あるいはヴィニシウスが呼応したのか。やがて雲間から光が差すようにしてふたりの一音一音がなにかへと収斂する。これもまた官能的。
(文中敬称略)
今西紅雪, 山㟁直人, フリー・インプロヴィゼーション, 波多野敦子, ヴィニシウス・カジャード





