#937 ダニエル・“ピピ”・ピアソラ・トリオ
Daniel “Pipi” Piazzolla Trio
2017.2.8 21:30- Thelonius Jazz Club, Buenos Aires, Argentina
Text by Hideo Kanno 神野秀雄
Photo by Hideo Kanno 神野秀雄 & Naomi Kitano 北野直弓
Daniel “Pipi” Piazzolla Trio
Daniel “Pipi” Piazzolla: drums
Damián Fogiel: tenor and soprano sax
Lucio Balduin: guitar
以下のような曲が演奏されたと想われる
Cascada Milagrosa
Piedra Lunar
River Plate
Lolo
Dance Cadaverous (Wayne Shorter)
最近、ブラジル、アルゼンチンで新しいジャズが続々と生まれているという話が、雑誌「ラティーナ」花田勝暁編集長あたりからきこえてきて関心を持ち、ブエノスアイレス滞在中にその生に触れるべく訪れたのが、ジャズクラブ「セロニアス・クラブ」と「カフェ・ビニロ」であり、「セロニアス・クラブ」で滞在日程に合ったのが、ダニエル・“ピピ”・ピアソラ・トリオだった。ここに月一程度は出演しているらしい。「セロニアス・クラブ」は、天井が高く、席間もゆったりして雰囲気もよく、飲食もお手頃美味しくお勧め。ただ支払いが、アルゼンチン・ペソ現金のみなので要注意だ。なお、帰りのタクシーは流しでつかまる。
ダニエル・“ピピ”・ピアソラは、タンゴに革命をもたらしたアストル・ピアソラの孫にあたる、アルゼンチン・ジャズ界を代表するドラマーで、エスカランドラム、エンセンブレ・レアル・ブック・アルヘンティーナ等にも参加している。
ダニエルのドラムスに加えて、ダミアン・フォジエルのサックス、ルチオ・バルディンのギターによる変則トリオ。2015年のアルバム『Transmutation』(Club del Disco)からの曲を中心に演奏された。なお、同トリオでは2013年に『Arca Rusa』をリリースしている。このフォーマットでは、ジョー・ロヴァーノ、ビル・フリーゼルとのポール・モチアン・トリオが思い当るが、その連想を裏切らず、高度な演奏でありながら、フレキシブルで、ときに暖かく、ときに浮遊感のあるサウンドに包まれる。ダニエルは複雑なリズムを丁寧に繊細に叩き出し、エフェクターを多用したルチオのギターが空間のテクスチャーをつくり、ダミアンのサックスがモーダルな感じでフレーズを埋めたり、穏やかにゆったりと歌う。新しい響きとどこか懐かしい響きがほどよく交じり合う気持ちのよい音楽だった。客は熱心なジャズファンに限らず地元の人というイメージだったが、仲間たちと音楽と食事と美味しいアルゼンチンワインを楽しむ客席の雰囲気と合わせて、リラックスしたブエノスアイレスの夜を過ごすことができた。
アルゼンチン〜ブラジル国境の「イグアスの滝」を空から見る機会があり、水しぶきをかすかに見せながらも、世界最大の大瀑布さえちっぽけに見える南米の広大さに圧倒される。ときは三月で、秋に向かう季節の雨に濡れ、ブラジルからの大河の水を眺めながら、アントニオ・カルロス・ジョビンの名曲というか、歌詞が素晴らし過ぎる<Águas de Março 三月の水>に想いが及ぶ。南米の音楽を最初に意識したのは、アジムス、エグベルト・ジスモンチ、ナナ・ヴァスコンセロス、ペドロ・アズナールなどであり、そこからより正統にジョビンやアストル・ピアソラへ、MPBへ入って行ったのだが、どこかにブラジルで言うサウダージ的な感覚が息づく。その後、南米大陸のほぼ最南端、アフリカから始まった人類拡散の終着点、パタゴニアのウシュアイアへ。ブラジルやアルゼンチン、南米の音楽は、都会をベースにしているとはいえ、その音楽が秘める深遠さはこの大自然の力と大自然への畏怖とその前での人の無力感への想いに裏打ちされているのではと思う南米の旅となった。
【関連リンク】
Daniel “Pipi” Piazzolla
http://www.danielpipipiazzolla.com
Thelonius Club, Buenos Aires
(Jerónimo Salguero 1884, C1425DEP CABA)
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