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Concerts/Live ShowsJazz Right NowNo. 234

#973 2017年9月のニューヨーク

Text and photos by Akira Saito 齊藤聡

2017年9月。2年ぶりに1週間滞在し、ニューヨークのジャズシーンを観て回ってきた。

■ ピーク

トム・レイニー・トリオ(The Jazz Gallery、2017/9/9)は、彼の意外にも力強いドラムスを中心に、豊潤なテナーを吹くイングリッド・ラウブロック、重力を歪ませるギターのメアリー・ハルヴァーソンにより、個人的でありすぎながらも一体化したアンサンブルをみせた。

新作をリリースしたばかりのティム・バーンのグループSnakeoil(Jazz Standard、2017/9/13)は、彼の粘るアルト、それとは対照的にサウンドのバウンダリーを拡張するマット・ミッチェルのピアノやチェス・スミスのドラムス・ヴァイブとともに、完璧なステージを披露した。

恒久的なグループではないものの、ベン・モンダー・トリオ(Cornelia Street Cafe、2017/9/9)も見応えのあるものだった。モンダーのギタープレイはしばしば浮遊的と評されるが、ひとりでオーケストラ化しているほど分厚いものであった。しかし、無数の周波数を束ねたようなテナーのトニー・マラビー、達人のごとく研ぎ澄まされたパルスを放つアンドリュー・シリルはモンダーの爆音に伍した。

■ レジェンド

そのアンドリュー・シリルは77歳、初吹き込みがコールマン・ホーキンスとの共演という大ヴェテランである。彼は富樫雅彦や高橋悠治との共演のことを懐かしそうに思い出し、悠雅彦さん(本誌主幹)は元気だろうかと話した。客席には、81歳のヘンリー・グライムス(ベース)も姿を見せ、また、数日後のマタナ・ロバーツのグループでも重いベースを弾いた。そして、間もなく90歳にならんとするリー・コニッツのアルトも柔らかく健在だった(The Jazz Gallery、2017/9/15)。コニッツはスキャットでも即興フレーズを歌ったのだが、それは、驚くべきことに、アルトと同様のコニッツ節だった。現役のレジェンドたちは神棚に飾られることを拒絶する。

■ アメリカ

マタナ・ロバーツによるプロジェクト「breath…」の公演があった(Roulette、2017/9/14)。強権的な警察国家となってしまったアメリカを示す映像を背後に、マタナ・ロバーツ(指揮、アルトサックス)、ピーター・エヴァンス(トランペット)、ジェイミー・ブランチ(トランペット)、マイク・プライド(ドラムス)、ヘンリー・グライムス(ベース)といった面々が、シグナルやお互いに見せあうボードに呼応して、それぞれの個の声を発した。サウンドは重層的なドローンとなり、人の関係や土地への愛情と、それを奪う現代アメリカへの抵抗が、見事に、しかし驚くほど直接的に表現された。また異なる危機を抱えながらも、音楽に政治を持ち込むなというナイーヴな発言もある日本において、このような表現は難しいのではないかと思えてならなかった。

■ 場

マンハッタンのイーストヴィレッジで13年間も実験的・前衛音楽にのみ演奏の場を提供してきたThe Stone。クレイグ・テイボーンのピアノソロ(2017/9/10)や、ニコール・ミッチェル(フルート)、マーティ・アーリック(クラリネット)、ジム・ブラック(ドラムス)らを擁するマーク・ドレッサー7のライヴ(2017/9/12)は、それぞれ、サウンドの余韻がずっと残るような素晴らしいパフォーマンスだった。そのThe Stoneが2018年2月を最後に移転する。詳細未定のようだが、まずは、The New SchoolやThe Drawing Centerといった近くの場所を借りての展開もはじめられている。シンボルとしての拠点が消えることは残念だ。しかし、活動は脈々と続いてゆくということにほかならない。

小さな活動の場は地代の高いマンハッタンよりもブルックリンやクイーンズにさまざまに発生しているようだ。今回足を運んだBushwick Public House(2017/9/11)では、近所に住むテナー奏者のスティーヴン・ガウチが手配し、継続して、インプロのシリーズを企画している。オーディエンスは少ないものの、ガウチ、アダム・レーン(ベース)、ケヴィン・シェイ(ドラムス)、ブリガン・クラウス(アルトサックス)らが思い思いの演奏を繰り広げていた。この10月にはクリス・ピッツィオコス(アルトサックス)も登場する予定だという。そしてシェイと連れ立って、スマホでgoogle mapを見ながら、また別の小さな場所Trans-Pecosへと歩いて移動した。そこではシェイも、またピーター・エヴァンスらによるサウンド粉砕トリオ「Pulverize the Sound」も演奏した。場も人数もギアもモバイルなのであり、このようなコミュニティ・ベースの音楽は力を持って生き続けるにちがいない。

小さい公園も面白い場のひとつだ。Arts for Art(フリージャズを推進するNYの組織)が主催する「In Gardens」という一連の企画を、今回も運よく観ることができた。ウィリアム・パーカー(ベース等)やヨニ・クレッツマー(テナーサックス)といった面々が、子どもたちがはしゃぎまわる公園のステージで、本当に愉しそうに演奏した。マシュー・シップ(ピアノ)らもふらりと観に来ていた。それは地域の生活のなかにとけこむ場だった。

■ 深夜

マンハッタンでは深夜も音楽が止まらない(ブルックリンの住宅街では難しいだろうか)。Smalls、Smoke、55 bar、Fat Catなどのジャズクラブでは23、24時からのセットは日常的であり、それでも満員に近い人が集まっている。また、その後のジャムセッションも頻繁に行われている。今回、ジョー・マグナネリ(トランペット)のギグで、同じトランペットのロイ・ハーグローヴがシットインして「Misty」を吹く場面に遭遇した。

深夜でも地下鉄やバスを使って帰宅できることが、明らかに、この活気を支えている。東京でも地下鉄が24時間化すれば、音楽シーンは大きく変貌するのかもしれない。

(文中敬称略)

齊藤聡

齊藤 聡(さいとうあきら) 著書に『新しい排出権』、『齋藤徹の芸術 コントラバスが描く運動体』、共著に『温室効果ガス削減と排出量取引』、『これでいいのか福島原発事故報道』、『阿部薫2020 僕の前に誰もいなかった』、『AA 五十年後のアルバート・アイラー』(細田成嗣編著)、『開かれた音楽のアンソロジー〜フリージャズ&フリーミュージック 1981~2000』、『高木元輝~フリージャズサックスのパイオニア』など。『JazzTokyo』、『ele-king』、『Voyage』、『New York City Jazz Records』、『Jazz Right Now』、『Taiwan Beats』などに寄稿。ブログ http://blog.goo.ne.jp/sightsong

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