#1060 川島誠・橋本孝之・山沢輝人・山㟁直人@川越レレレノレコード
Text by 剛田武 Takeshi Goda
Photos by turbo, 剛田武
2019年2月16日(土)川越レレレノレコード
Homosacer Records presents solo & refraction
川島誠:alto sax
橋本孝之: alto sax, harmonica
山沢輝人: tenor sax
山㟁直人: percussion
レレレノレコード https://www.re4.jp/
即興音楽のオアシスを求めて
蔵造りの街並で小江戸と呼ばれる埼玉県川越市にレレレノレコードという変わった名前の店を見つけたのは1年ほど前だった。「レコード」と銘打っているが、レコード店ではなく(趣味性の高いレコードやCDは置いてある)、厨房とカウンターがあるレトロなカフェバー/居酒屋といった風情のスペースである。親族に会うために時折この街を訪れる程度なので、これまで一回コーヒーを飲みに入ったことしかなかったこの店で、サックス奏者の川島誠が自主企画ライヴイベントを開催した。今号に掲載されたインタビューで分かる通り、川越近郊の田舎町で育ったことが自らの音楽観に影響していると語る川島にとって、地元で活動拠点を見つけることは長年の夢だった。その第一回は、4人の個性的なインプロヴァイザーの邂逅の場となった。
喫茶フロアをステージにして、周りを観客が囲む20数席のスペースは、地元の常連客と都内・近県から来たファンで満席。即興ライヴにありがちな緊張感ではなく、和やかなリラックスムードが漂う。それぞれのソロ演奏が20分、最後に全員のセッションが行われた。
●川島誠 solo
息を詰めるようなブレス音に始まり、幼い頃に聴いた童謡を思わせる哀感のあるメロディから、体内の邪気を空に解き放つフラジオまで、「川島節」全開のパフォーマンスは観る度に心が浄化される気持ちになる。いつもは暗闇に沈みがちなフィナーレが心なしか軽快にスキップしていたのは、地元故の歓びだろうか。
●山沢輝人 solo
迷彩服にサングラスにローリング・ストーンズのベロマークというロッカー風の強面の山沢の演奏を聴くのは初めて。実はテナーサックスの即興ソロを聴く機会はあまり多くない。初っぱなから殴り掛かるように迫る腰の据わった太い音色に圧倒される。モード感のあるフレーズを重ねながら、徐にハイトーンの絶叫演奏に突入するダイナミズムが素晴らしい。殆ど防音をしていないので音が戸外に漏れていて、窓の外から通行人の母子が何事かと覗き込んでいたのが面白かった。
●橋本孝之 solo
黒サングラスでスタイリッシュに決めた橋本のアルトサックスの、ベルの5センチ先から聴こえるようなトーンの束を、かつて筆者は「植物的」と表現したが、この日の演奏は「鉱物的」と形容すべき硬質な響きを感じさせた。茎や蔦の螺旋形ではなく、珪石や花崗岩の鋭角的な断面を削る音の刃は、シャープなルックスに連動して、研ぎ澄まされた感性を聴き手の聴覚に刻み付けた。
●山㟁直人 solo
山㟁直人を観るのも初めてだった。スペースの狭さに応じて一台だけセットされているスネアドラムの皮をシンバルで擦る特殊奏法を披露。摩擦音が力の加減や擦る位置で多彩な表情を見せる。最近個人的に5〜60年代の現代音楽の打楽器アンサンブルの作品を愛聴していることもあり、山㟁の異形のプレイに提示されたパーカッションの可能性に大きな興味を抱いた。
●川島誠+山沢輝人+橋本孝之+山㟁直人
4人全員のセッションだが、スペースの関係で山沢は客席後の厨房で演奏することになった。偶然ながらステージエリアの3人の衣装がブラックで統一され、ひとつのバンドのように見えるのが面白い。山沢は全編フルート、橋本はハーモニカとアルトを演奏。山㟁は様々なオブジェや玩具を使って、リズム/打楽器というより管楽器と同質の音響発生器として並奏する。決めごとのないスポンテニアスな即興演奏だが、後方で聴こえるフルートがサラウンド効果を生み、アート・アンサンブル・オブ・シカゴを思わせる、ナチュラルでオーガニックな音楽空間を創出した。
イベント名にsolo & refraction(独演と屈折)と名付けた川島の意図は、それぞれ孤立した演奏家と観客とスタッフの心がこの場で生まれる音楽を通して新たな方向を見いだすことなのだろう。川島は今後定期的にレレレノレコードでイベントを企画していくと言う。小江戸に生まれた即興音楽の新たなオアシスを歓迎したい。(2019年3月2日記 剛田武)
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