#1079 ラ・フォル・ジュルネ TOKYO 2019 Carnets de Voyage ボヤージュ〜旅から生まれた音楽(ものがたり)
ラ・フォル・ジュルネ TOKYO 2019 Carnets de Voyage ボヤージュ〜旅から生まれた音楽(ものがたり)
2019.5.3-5 東京国際フォーラム Tokyo International Forum
Text by Hideo Kanno 神野秀雄
Photo by (c)teamMiura
2005年に東京国際フォーラムを会場に始まったクラシック音楽祭ラ・フォル・ジュルネ(熱狂の日、以下LFJと略)は、15回目を迎えた。20世紀終盤までの丸ノ内の週末はゴーストタウンであり、街が発達し人が集まる流れの中でLFJは丸ノ内広域の大切なお祭りとなっていた。2014年までの10年間は作曲家をテーマにし、2015〜2019年は、自然、ダンスなどのテーマ性を持たせた。2020年は「ベートーヴェン」と作曲家シリーズに戻ることが決まっている。2019年はテーマ系の「Carnets de Voyage 〜ボヤージュ 旅から生まれた音楽(ものがたり)」。アーティスティック・ディレクターのルネ・マルタンによれば、”Carnets”には、旅で素晴らしい風景に出会ったときに思わず書き留めるようなポケットに入る小さな手帳を、そしてその先に生まれる音楽をイメージしたという。今回のテーマは、旅や乗り物がテーマではなく、作曲家が旅をしながら生み出した音楽にフォーカスした。結果としては、その音楽家の旅路を予習しておくと踏み込んで聴くことができるが、予習がないと旅と繋がるのは少し難しかったかも知れず、地図ヴィジュアルの活用などあればよかったと思う。もっとも、よい音楽への糸口と考えれば十分よいプログラムと言えた。
熱狂の3日間、今年は堅実な手応えを感じた。LFJ2019開催報告によると、有料公演124、有料公演アーティスト907人、有料チケット142,390枚、販売率84.7%、イベント来場者総数延べ425,000人。丸ノ内と池袋の2会場だったLFJ2018の開催報告では、有料チケット総数182,007枚に対しチケット販売数119,177枚、販売率65.5%、来場者総数のべ432,000人。2018年の丸ノ内と池袋に分散され、アーティスト、観客、運営それぞれに疲弊した反省から、派手ではないがコンパクトに確かに楽しめるLFJを再構築できたようだ。実際のところ中規模以下の会場はほぼ売り切れてしまい違いは出にくいのだが、ホールA(4,999人)公演の販売率がファイナンシャルな結果を左右する。2019年はホールA公演をより魅力的にし、常にそこそこ埋まっている感覚があった。中には小曽根真の「ラプソディ・イン・ブルー」を含む公演のように完売となるものもあった。東京国際フォーラムが単独主催ではなくなった流れでは、おそらくLFJを終了することもオプションにあったと思うが、今後の継続的開催に希望が持てるようになった。2020年の「ベートーヴェン」に期待したい。
児玉麻里 & 児玉 桃
Mari Kodama & Momo Kodama (pf)
#153 5/3 13:15 ホールD7
エトヴェシュ:コスモス
ブラームス:ハンガリー舞曲から第4番、第5番
ストラヴィンスキー:春の祭典 (2台ピアノ版)
1.大地の礼賛
2.生贄の儀式
パリ国立高等音楽院に学び、それぞれパリ&アメリカを拠点に世界で活躍する児玉麻里と児玉桃の4手によるプログラム。まず、会場に入ると会場の両端に外側に向いて置かれた特異なピアノ配置に驚かされる。エトヴェシュ・ペーテル<コスモス>の衝撃的な演奏からはじまる。エトヴェシュ1944年生まれの現代ハンガリーを代表する作曲家、バルトーク<ミクロコスモス>に因みながら、ソ連の有人宇宙船ボストーク1号でユーリ・ガガーリンが最初の有人宇宙飛行に成功する直前の1961年3月に3日間で作曲され、1999年に2代のピアノに改訂された。激しく打ち出されるテクスチャーの向こうに、点が描かれる。
宮藤重典 & 広瀬悦子
#134 2019年5月3日 15:45- ホールB5
Shigenori Kudo (flute), Etsuko Hirose (piano)
メシアン:クロウタドリ
ルーセル:笛吹きたち
イベール:遊戯
プーランク:フルートとピアノのためのソナタ
パリ在住でヨーロッパで活躍し、ナントでも常連のピアニスト広瀬悦子と、フルートの重鎮、宮藤重典の共演。プーランクのソナタでの躍動感と、ときにスピード感にも溢れ、フルートとピアノの文字通り息のあった演奏に圧倒された。
広瀬悦子
Etsuko Hirose (pf)
#136 5/3 19:15- ホールB5
リスト:巡礼の年 第1年「スイス」
旅のテーマだけにリスト<巡礼の年>はピアニスト4人により、それぞれ、第1年から第3年まで演奏された。パリ在住でヨーロッパで活躍し、ナントでも常連のピアニスト広瀬悦子は<第1年 スイス>を演奏した。これは、リストと、恋仲となったダグー夫人のスイスへの逃避行から生まれた大作で、詩的で穏やかさと美しさの演奏となった。
アンヌ・ケフェレック、ミハイル・ゲイツ指揮 シンフォニア・ヴァルソヴィア
#113 5/3 14:15- ホールA
モーツァルト:ピアノ協奏曲第25番 ハ長調 K.503
アンヌ・ケフェレック「ヘンデルとスカルラッティ」
#255 5/4 16:30 ホールD7
ヘンデル:「調子のよい鍛冶屋」ホ長調 HWV430(ハープシコード組曲第5番から)
スカルラッティ:ソナタ ホ長調 K.531
スカルラッティ:ソナタ ロ短調 K.27
スカルラッティ:ソナタ ニ長調 K.145
スカルラッティ:ソナタ ニ短調 K.32
ヘンデル(ケンプ編):メヌエット HWV434(ハープシコード組曲第1番から)
ヘンデル:シャコンヌHWV435(ハープシコード組曲第2巻から)
アンヌ・ケフェレック 「水」
#356 5/5 19:15 ホールD7
ドビュッシー:前奏曲集第2巻から オンディーヌ
ドビュッシー:前奏曲集第1巻から 沈める寺
ドビュッシー:「映像」第1集から 水の反映
ラヴェル:「鏡」から 海原の小舟
ドビュッシー:「ベルガマスク組曲」から 月の光
アーン:「思い惑う夜鶯」から 冬模様
リスト:悲しみのゴンドラ 第2稿
リスト:「2つの伝説」から 波の上を渡るパオラの聖フランチェスコ
L+R: La Folle Journée de Nantes 2016 “la nature” (c)Hideo Kanno
LFJに欠かせないフランスからの常連ピアニスト、アンヌ・ケフェレック。今年も色彩に溢れ透明感のあるピアノで魅了した。「ヘンデルとスカルラッティ」は最近、演奏の機会が多く、力を入れているプログラム。「水」はLFJ2016「le nature」でも「Histoires d’eaux =水の歴史」と題された同じプログラムがあり、心から感動した演奏の再演で、お得意のフランスものを中心とした水にまつわる小品から透明な時間に浸ることができた。マスターコースでは、「音楽は時間の魔法」であり、「休符では次を意識してはいけない。時間を永遠に止めることで音楽家は時間を支配することができる。」と珠玉の言葉を語っており、アンヌが生み出す時間と空間の秘密が少し見えた気がした。
ナントでのキオスクコンサートから
福間洸太郎
Kotaro Fukuma (pf)
#161 5/3 10:00− G409
ビゼー:ラインの歌
アルベニス:旅の思い出 op.71から 海にて
ショパン:舟歌 嬰ハ長調 op.60
スメタナ:モルダウ (福間洸太郎版)
ベルリンを拠点に活躍する気鋭のピアニスト。<モルダウ>なんかキャッチーな曲に騙されないぞ〜といいながら、主旋律に入るとともに涙が溢れてしまった。膨よかでどこまでも伸びる低音域にしっかりと浸り、それと響き合う高音域。福間の持つこの響きの感性はなんだろう。おそらく倍音の緻密な響き合いを意識し意識せず掴みながら、その低音は聴く者を羊水の中に引き戻すようでもある。ナントでも観客から熱い拍手が贈られていた。
ナントでのキオスクコンサートから エリック・サティ「」
オルケスタ・ナッジ!ナッジ!
Orquesta Nudge! Nudge!
#154 5/3 15:00 ホールD7
「海を渡るリズム〜混じり合う鼓の呼吸」
芳垣安洋が率るスーパー打楽器アンサンブル。2003年結成。メンバーは、芳垣安洋、岡部洋一、高良久美子、関根真理、Taichi、川谷龍大、Izpon、辻コースケ、高田陽平、中里たかし。彼らがいつも行っている特別な指揮法に従った即興演奏で、打楽器だけからその場でこれだけの構成感と凄過ぎるグルーヴを生み出した。ピアノソロなどに多用されるホールD7は場違いかとも思われたが、野外コンサートなどで聴くのとは違う特別な集中が吉と出たようだ。
5/3 ホールE キオスクコンサート
芳垣安洋は、大友良英が音楽を担当する大河ドラマ「いだてん」の打楽器を監修し音楽制作全体に関与している。「いだてんオープニングテーマ」には、NHK交響楽団、大友良英スペシャルビッグバンドとともに、オルケスタ・ナッジ!ナッジ!と、日頃から開催されているワークショップメンバーが参加することでそのグルーヴと賑やか感に貢献している。そのオルケスタ・ナッジ!ナッジ!ワークショップ版を地下広場での無料コンサート(要LFJチケット)で披露した。東京タワーで開催される「アンサンブルズ東京」などにも出演していて、誰でもワークショップ(練習会)への参加は可能で、自作の打楽器を多用し、芳垣の指揮による即興演奏を行っている。
クァルテット ベルリン・トウキョウ(室内楽)
#168 5/3 22:15- G409
細川俊夫:開花
バルトーク:弦楽四重奏曲第2番 op.17
幸松肇編:弦楽四重奏のための日本民謡 第1番
ソーラン節
2011年に結成、現在ベルリンを拠点に、札幌・六花亭ふきのとうホールとベルリン十字教会のレジデンスとしても活動中のクァルテット ベルリン・トウキョウ。実はあまり期待していなかったが、夜遅くの時間に予想外に素晴らしいストリングアンサンブルのサウンドに浸ることができた。今後が楽しみだ。
ヴォックス・クレマンティス
Vox Cremantis
#233 5/4 14:00 ホールB5
ヴォックス・クレマンティス (合唱)
ヴォックス・トリオ (室内楽)
ヤーン=エイク・トゥルヴェ Jaan-Eik Tulve (指揮者)
ペルト:何年も前のことだった Es sang vor langen Jahren
ペルト:7つのマニフィカト・アンティフォナ Sieben Magnificat – Antiphonen
ペルト:スターバト・マーテル Stabat Mater
ヴォックス・クレマンティスは、エストニアの作曲家アルヴォ・ペルトから絶大な信頼を得るエストニアの声楽アンサンブルで、ECM New Seriesから多くのアルバムをリリースしている。ECM New Seriesを代表するサウンドを丸ノ内で気軽に聴けることにいつも感謝している。