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Concerts/Live ShowsNo. 258

#1100 渋大祭〜渋さ知らズ30周年記念企画野外フェス with サン・ラ・アーケストラ

text: Kenny Inaoka 稲岡邦彌
photo: Mitsuhiro Sugawara 菅原光博+Kenny Inaoka 稲岡邦彌

2019年9月16日 12:30~
神奈川県川崎市東扇島東公園・特設会場

The Sun Ra Arkestra:
Marshall Allen マーシャル・アレン(sax, fl, cl, evi, kora)
Tara Middleton タラ・ミドルトン(vo)
James Stewart ジェイムス・ステュワート(sax)
Noel Scott ノエル・スコット(sax, vo, per, dance)
Danny Ray Thompson ダニー・レイ・トンプソン(fl, sax)
Michael Ray マイケル・レイ(tp)
Cecil Brooks  セシル・ブルックス(tp)
Vincent Chancey ヴィンセント・チャンシー(frh)
Rob Stringer ロブ・ストレンジャー(tb)
Tyler Mitchell タイラー・ミッチェル(b)
F.D.Middleton F.D. ミドルトン(g)
Wayne A. Smith Jr. ウェイン・A. スミスJr.(ds)
Tevin Thomas テビン・トーマス(piano, synthesizer)
Elson Nascimento エルソン・ナシメント (surdo, per)

・Sun logy(Sun Ra)
・Dancing Shadows(Sun Ra)
・Stranger in Paradise(Robert Wright and George Forest)
・Space Loneliness(Sun Ra)
・Seductive Fantasy(Sun Ra)
・Angels and Demons(Marshall Allen)
・Along came Ra(Sun Ra)
・Fate in a Pleasant Mood(Sun Ra)

渋さ知らズオーケストラ:
不破大輔(ダンドリスト) 北陽一郎(tp) 石渡岬(tp) 辰巳光英(tp.テルミン) Michael Ray(tp) 川口義之(as) 立花秀輝(as) 纐纈雅代(as) Marshall Allen(as) 早坂紗知(as) 登敬三(ts) 松本卓也(ss) 松原慎之介(as) 泉邦宏(as) 林栄一(as) 鬼頭哲(bs) RIO(bs) 吉田隆一(bs) 中根信博(tb) 高橋保行(tb) 加藤一平(g) ファンティル(g) 石渡明廣(g)、和田直樹(g)、太田惠資(vil)、勝井祐二(vil)、小林真理子(b)、永田利樹(cb)、山口コーイチ(key) スガダイロー(p) 渋谷毅(p) 山田あずさ(vib) 磯部潤(ds) 藤掛正隆(ds) 山本直樹(ds) 外山明(ds) 松村孝之(per) 関根真理(per.vo) 芳垣安洋(per) 柴崎仁志(per) 大西英雄(per) Elson Nascimento (surdo,per) コムアイ(per) 渡部真一(vo) 玉井夕海(vo) 室舘彩(vo,fl) 星野建一郎(vo) 向井秀徳(vo) 東洋(舞踏) 若林淳(舞踏) 向雲太郎(舞踏) 高橋芙実(舞踏) ペロ(dance) さやか(dance) すがこ(お調子組合) あすか(お調子組合) 若林美保(dance) 陽茂弥(ねねむ) 井上のぞみ(ねねむ) 青山健一(art) トックン(美術演出) オノアキ(art) 林周一(風煉ダンス)  笠原真志(風煉ダンス) 上木文代(風煉ダンス) 後藤淳一(風煉ダンス) 外波山流太(風煉ダンス) 長谷川愛美(風煉ダンス) 奈賀毬子(風煉ダンス) 南波瑞樹(風煉ダンス) 田村元(風煉ダンス)  北川真帆(風煉ダンス) 笠原ひなた(風煉ダンス) 笠原白山(風煉ダンス) 内田晴子(風煉ダンス)  Bloco Arrastão(samba dancer) 田中篤史(音響) 石川葉月(stage staff)


渋さ知らズ結成30周年を祝う「渋大祭」に「サン・ラ・アーケストラ」の参加が突然発表された。情報を入手したのはわずか1週間ほど前だった。今世紀3度目の来日だが、今度は聴きにいくことを即断した。サン・ラ (~1993)、ジョン・ギルモア (~1995) の死後アーケストラを率いてきたマーシャル・アレン (1924~) の生音を耳に留めておきたかったからだ。ぼくが、サン・ラ・アーケストラの生を聴いたのは 1979年7月、ノース・シー・ジャズ・フェスでのことだった。すでに40年が経過している。Youtubeに上がっているアーカイヴは当夜のヴォーカルをフィーチャーしたパートで、今、あらためて聴いてみるとそれほどの興奮は蘇ってこない。サン・ラの電気ピアノやアナログ・シンセのスペイシーなサウンドはいかにもサン・ラらしいが、ステップを踏みながらのヴォーカルなどは勝手に妄想を育んできた身としてはいささか物足りない。しかし、デン・ハーグの国際会議場の大ホールで聴いたアーケストラには想像力を掻き立てられ、当然ながらサン・ラあってのアーケストラであることを再認識させられたものだ。それだけに、サン・ラのいないアーケストラなんて、という気持ちが働き、過去2度のアーケストラの来日には食指が動かなかったのだ。

ところが当日は朝から大雨で午後は上がるという予報が出ていたものの即断の足を鈍らせるに充分だった。そんな優柔不断な気持ちを一新させたのがカメラマンの菅原光博氏からの電話だった。彼は、1976年7月、ぼくより3年早くNYのボトムラインでサン・ラ&アーケストラを取材しており、やはり最後となるかもしれない生音を耳に残しておきたいという。すでに高崎を出たという菅原氏の熱意に押されて僕も重い腰を上げたのだった。


SunRa@BottomLine,NY 1976 ©菅原光博

日本随一のサン・ラ通としてコメントを求められた音楽評論家の湯浅学氏によれば、アーケストラはコンサートを終えた足でNY を発ち「渋大祭」を終えた翌日東京を発つ、まさにトンボ帰りの来日なのだという。それを実現させた渋さとの因縁浅からぬブラザーフッドについては、前回来日時に本誌に語ったインタヴューを参照願いたい。両者はヨーロッパで何度も共演の機会を持ち、渋さの不破大輔氏が倒れた時にはマーシャルが代わって渋さのリーダーを務めたという。湯浅氏は、アーケストラはずっとスイング・ジャズを演奏してきた、それもスペース・スイングをね。彼らが演奏を始め、聴衆が念ずるとサン・ラがステージに降りてくるんだ、と皆を煙に巻いてステージを去った。
さて、アーケストラは素晴らしかった。マーシャル・アレンも素晴らしかった。40年ぶりに耳にするアーケストラは、イメージを一新していた。すっかりインスト・バンドに変身していたのだ。わずかにマーシャル・アレンの赤いローブとマイケル・レイtp のツタンカーメンらしきかぶりものがそれらしき雰囲気を残すのみ。サン・ラがいない分、ビッグバンド・ジャズに専念した、そういうことだろう。演奏はきわめてタイトで、グルーヴ感は飛び抜けていた。ファスト・テンポのフォービートで演奏された1曲などそのスイング感にぞくぞくしたものだ。マーシャル・アレンの痙攣するようなフリーク・トーンは健在で、渋さのソロでも披露していた。東京Jazzで来日したカマシ・ワシントンには失望したが、彼らの何倍もスインギーかつグルーヴィーだった。今年 (2019年)の米Downbeat誌国際批評家投票で〈Bigband〉部門の6位に選出されていたが、なるほどと頷くに充分な内容だった。セットリストを見ると2曲を除いて6曲がサン・ラの楽曲だがこれも当然だろう。アーケストラはもともとサン・ラの作品を演奏するためのオーケストラであり、メンバーはサン・ラの作品を演奏するために参集してきているのだから。3曲めの〈ストレンジャー・イン・パラダイス 〉は、メンバーによるサン・ラへのトリビュートか...いや、待てよ、サン・ラは天国ではなく土星へ帰ったはずだよね、湯浅さん。宇宙旅行が手の届くところまできた今、50年代から宇宙を唄っていたサン・ラはどう思っているのだろう。



「渋さ」にはいろいろなサイズのバンドがあるが、「渋さ知らズオーケストラ」を聴くのは確か3度目である。過去の2回はホール・コンサートだった。今回の「渋さ」は通常のオーケストラにかなりのメンバーが追加され、しかもサン・ラ・アーケストラからマーシャル・アレン以下3名がゲスト参加している。オケのサイズは異なるが、渋さにアーケストラから3名が参加しているという点ではCD『渋星』の再現といえよう。渋さの基本スタイルはシンプルなメロディがリフのように繰り返され、その上でソロが展開されるというパターンが多い。マーシャル・アレン(as)とマイケル・レイ(tp) もそのような流れの中でソロをとった。曲によっては聴衆がウェーヴやハミングで演奏に参加する場面があり、聴衆との親和性の高さが印象的だった。ステージに近づくために雨上がりのぬかるみに平気で入っていくファンもいてこれも野外とはいえ通常のジャズ・コンサートというよりロック系のコンサートに見られる光景だった。かつて聴いたホール・コンサートよりかなりルースな演奏だったが、スタンディングや芝生に寝そべって聴く野外フェスならではなのだろう。あるいは、先に聴いたタイトなアーケストラの演奏との対比で余計にルースに聴こえたのかもしれない。 4時間近いスタンディングはこたえたが、DVDがリリースされるようなので自宅でソファにもたれながらもう一度ゆっくり聴いてみよう。


インターミッションの間に会場内をぶらついてみたが、2つのメイン・ステージから離れて3つのサブ・ステージがあり、12時からスタートしたフェスがどこかのステージで絶えず演奏が行われているという設定のようだった。シャトルバスから始まって、ステージ、音響、照明、売店、トイレまで運営は抜かりなく行われていたが、メイン・ステージの前のぬかるみの放置が唯一の手抜かりといえようか。今回は、トリのアーケストラと渋さだけを聴いたがフェスとしては関連の多くのイベントも評価の対象となるのだろう。都心に近い野外フェスの会場として騒音問題からも解放されるこの東扇島の東公園は最適のロケーションのひとつに間違いないようだ。いずれにしてもこの大規模な野外フェスをまとめあげた不破大輔の ダンドリストとしての手腕には敬服せざるを得ない。

稲岡邦彌

稲岡邦彌 Kenny Inaoka 兵庫県伊丹市生まれ。1967年早大政経卒。2004年創刊以来Jazz Tokyo編集長。音楽プロデューサーとして「Nadja 21」レーベル主宰。著書に『新版 ECMの真実』(カンパニー社)、編著に『増補改訂版 ECM catalog』(東京キララ社)『及川公生のサウンド・レシピ』(ユニコム)、共著に『ジャズCDの名盤』(文春新書)。2021年度「日本ジャズ音楽協会」会長賞受賞。

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