#704 サン・ラ・アーケストラ featuring マエストロ・マーシャル・アレン THE SUN RA ARKESTRA featuring Maestro MARSHALL ALLEN – 100th Birth Anniversary Celebration of Sun Ra –
2014年7月5日(土) 南青山Blue Note Tokyo
Reported by 剛田武(Takeshi Goda)
Photo by Great The Kabukicho(courtesy of Blue Note Tokyo)
マーシャル・アレン Marshall Allen (sax,fl,cl,evi,kora)
ノエル・スコット Noel Scott (sax,vo,perc,dance)
チャールズ・デイヴィス Charles Davis (sax)
ダニー・レイ・トンプソン Danny Ray Thompson (fl,sax)
セシル・ブルックス Cecil Brooks (tp)
ヴィンセント・チャンシー Vincent Chancey (frh)
デイヴ・デイヴィス Dave Davis (tb)
ファリド・アブダル – バリ・バロン Farid Abdul-Bari Barron (p,Moog synthesizer)
タイラー・ミッチェル Tyler Mitchell (b)
F.D.ミドルトン F.D.Middleton (g)
ウェイン・A.スミスJr. Wayne A. Smith Jr. (ds)
エルソン・ナシメント Elson Nascimento (surdo)
1993年に亡くなった総統サン・ラの跡を継いだマーシャル・アレン率いるサン・ラ・アーケストラの来日は2回目。1回目は2002年9月によみうりランドで開催された「True People’s CELEBRATION」という野外イベントだった。他にメデスキー、マーティン&ウッド/エルメ-ト・パスコアール/フアナ・モリナ、日本からはUA/Voredoms/レイ・ハラカミ/こだま和文/LITTLE TEMPO/山本精一&勝井祐二などが出演したユニークなフェスティバルで、サン・ラ・アーケストラは夕刻に出演、演奏中に日が落ちて、客席を歩き回るメンバーの姿が照明に浮き上がって幻想的な雰囲気だった。目の前で見たマーシャル・アレンのサックス・プレイは、ブラバン少年だった筆者が、譜面から脱却して自覚的に(めちゃくちゃに)サックスを吹きはじめるきっかけになった20年前の衝撃を追体験するだけではなく、半世紀以上頑固として異端であり続ける無法音楽戦士の強靭な魂に新たな衝撃を受けることになった。
それから12年後、2度目の来日公演が発表になった時、今年90歳のマーシャルが無事に日本の地を踏めるのかが気になった。なぜなら、一昨年ソロ来日公演をキャンセルした時に、「もう飛行機にも乗れないのではないか」とまことしやかに囁かれて気を揉ませたセシル・テイラーは、昨年京都賞受賞に合わせて84歳での来日が実現したが、演奏は別にしても、ステージから降りるのに介助がいるほど「老い」を見せつけたのだから。しかし、演奏家であるばかりではなく、大所帯バンドの指揮官でもあるマーシャルに関しては、老いの問題は無用の心配だった。5月からスタートしたサン・ラ生誕100周年記念特別編成アーケストラの欧州ツアーは大好評、来日直前の6月27日には英国最大の野外フェスティバルのひとつ、グラストンベリー・フェスにも出演した。70年代のアーケストラは、旅費や宿泊費を工面するために、ツアーで訪れる先々でライヴ録音契約を結び、数多くの自主制作レコードを販売したというが、テクノロジーの発達した現代はネットニュースやSNS、YouTubeでツアーの模様が刻々と伝えられた。
今回の来日メンバーは、60年代から参加し、1988年サン・ラ存命時の唯一の来日ツアーでライヴ・アンダー・ザ・スカイなどに出演した重鎮ダニー・レイ・トンプソンや、50年代からビリー・ホリデイ等と活動するベテラン、チャールズ・デイヴィスを含む精鋭部隊。
開演時間になると、客席後方からダニー・レイのバリトン・サックスに先導されて、メンバーが歌いながら行進して登場する。普段のBlue Noteのジャズ・ライヴとは全く異なる特別な「サン・ラ・エクスペリエンス」のはじまりである。メンバーがステージに揃ったところで、マーシャル・アレンが登場。歩行に問題がないどころか、踊るような身振りで指揮をしたり、右腕を楽器に擦りつける独特の奏法で痙攣するようなフリークトーンを鳴らしたり、12年前、否、50年来まったく変わらない健常&異能ぶり。アーケストラを率いて20年になるので、まるで自分の手足と同じように11人のメンバーを指揮して、聴き手を豊穣の音楽の旅へ導く。
特定のジャンルに収まらない演奏曲の多くはマーシャル作曲の楽曲。スウィングやニューオリンズ風のポジティヴでスピリチュアルなメロディーと、掟破りのハードコア・ジャズが共存した、 唯一無二の祝祭空間が出現する。マーシャルは勿論、メンバーが入れ替わりで客席を練り歩き、観客をパフォーマンスに巻き込む連帯精神、サン・ラの朗読テープを流し、「宇宙こそこの場所」(Space Is The Place)と詠唱する伝承性。
肉体は滅びても魂は残り、それを継承する者が新たな命を吹き込む。サン・ラという神話(Mythology)を永遠に伝授し、あらゆる音楽と人生を融合し発展させる理想的な方法論を実践するのがサン・ラ・アーケストラなのだと実感した。(剛田武)