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Concerts/Live ShowsNo. 264

#1125 塩谷 哲スペシャルトリオ with 小沼ようすけ&大儀見 元

Text by Hideo Kanno 神野秀雄
Photo by Yuka Yamaji 山路ゆか

SATORU SHIONOYA SPECIAL TRIO
塩谷 哲 スペシャルトリオ

2020年2月25日(火) 21:00
Blue Note Tokyo ブルーノート東京
Satoru Shionoya: piano 塩谷 哲(ピアノ)
Yosuke Onuma: guitar 小沼ようすけ(ギター)
Gen Ogimi: percussion 大儀見 元(パーカッション)

1. A Brand New Day (Satoru Shionoya)
2. Delicious Breeze (Satoru Shionoya)
3. Eartheory (Satoru Shionoya)
4. Beauty and Brilliance (Satoru Shionoya)
5. Dlo Pann (Yosuke Onuma)
6. Ti’ Punch (Yosuke Onuma)
EC1. Close to Home (Lyle Mays)
EC2. あこがれのリオデジャネイロ (Satoru Shionoya)

“不安の時代”に響く、「フレンチ・カリビアン」の優しいグルーヴ

『コレナンデ商会』(NHK Eテレ)の音楽に全力投球中で、絢香ツアーも含め多忙となっていた塩谷 哲。自身のライブが少なめになっていた中、久々のジャズクラブでのバンドプロジェクトが始動した。塩谷は東京藝術大学作曲科在学中に、大儀見元が結成したオルケスタ・デ・ラ・ルスに参加し、ニューヨークから中米へ渡り、国連平和賞受賞、アカデミー賞ノミネートと、音楽で人々の心を掴んだ。二人がデ・ラ・ルスを脱退した後も、自身もパーカッションの才能を持つ塩谷は、『コレナンデ商会』に至るまで大儀見を最も信頼するパーカッショニストとして多くの活動を共にしてきた。他方、大儀見は1997年に結成したSALSA SWINGOZAを中心に数々のセッションに参加している。ギターの小沼ようすけは、二人より一回り若く、最近ではカリビアン・グルーヴとジャズの融合“Jam Ka”プロジェクトでも高い評価を得て、ヨーロッパをはじめ海外での演奏の機会も多い。この3人、それぞれ2人づつでは共演の機会があったものの、トリオとして集結するのは初めてだと言う。

前半は塩谷の4曲を続けた。<A Brand New Day>のピアノの美しいイントロからテーマへの流れに惹き込まれ、サビからギターとパーカッションが繋いで、穏やかに昂揚して行く。<Delicious Breeze>は明るい響きの心地よいフォービートの1曲で、トリオでの山木秀夫のドラムスの都会的なビートに代わって、大儀見パーカッションになるとラテンなリラックス感が増す。この2曲はまだアルバムに収録されていない”新曲”だが、<Delicious Breeze>は、2010年4月と2014年8月の塩谷哲トリオ(井上陽介b、山木秀夫ds)公演でも演奏されているから10年目だ。「まだ収録していない2曲を、いつかこの3人(小沼g、大儀見perc)でアルバムに録音したいと思います。」で大きな拍手を受けるが、それはそうと、『Eartheory』(2007)以降、次作が待たれる塩谷哲トリオでの収録も期待したいところだ。

続いて、『塩谷哲トリオ/Eartheory』から<Eartheory>、緊張感のあるハーモニーを楽しむこの1曲もカラフルに彩られていく。『Arrow of Time』からの<Beauty and Brilians>、オリジナルは田中義人のギターで、塩谷と田中は最高の組み合わせと思っているのだが、小沼のギターにかかると違う生命を持つから不思議だ。

そして、小沼ようすけのフレンチ・カリビアンのビート「Jam Ka」に軸足を置く2曲<Dlo Pann>、<Ti’ Punch>を。<Ti’ Punch>は、小さなお酒のような意味になり、お酒が入ったリラックス感とスリリングな緊張感を行き来する1曲だ。

鳴り止まない拍手にアンコールにステージに上がる3人。塩谷は、パット・メセニーとの共同作業でも知られるピアニスト/キーボーディストのライル・メイズを深く尊敬し、ライル・メイズもまた「N響JAZZ at 芸劇 2017」に関連して、「サトル・シオノヤの音楽、好きだよ」と語っていたことが伝えられている。塩谷は、「彼の全てが羨ましくて本気で嫉妬した時期がありました。それが尊敬に変わり、憧れの存在としてずっと心の真ん中にいました。」「僕のハーモニーの7割はライル・メイズに影響されたものです。」「彼の遺した芸術を後世に伝えていかなければ。」というようなことを語った。塩谷の想いは追悼文「Lyle Mays 〜音楽世界における Einstein 〜が遺した財産」に綴られている。

塩谷の祈るような長い美しいピアノソロから始まる。ライルのファーストリーダーアルバム『Lyle Mays』から<Close to Home>。確かにこのライルの名曲の持つ感性とハーモニーは、塩谷の存在そのものにさえ繋がるもので、ライルと塩谷の姿が重なって見える魔法の時間だった。そして小沼と大儀見がその宇宙にを広げて行った。(同曲は2020年12月来日予定のアンドレ・メマーリも弾いている。) 最後に塩谷の<あこがれのリオデジャネイロ>で賑やかに締め括られた。塩谷は意外にブラジルに辿り着いていないが、塩谷×ブラジルが出会ったらどれだけのケミストリーが生まれるか楽しみでならない。

この3人が紡ぎ出す、この3人だから醸し出す、ゆったりとして陽気でお洒落なグルーヴ。それがさまざまな曲、複雑な曲にも形を変えながら現れる。トークまで心地よい緩さが続く。これを3人は「フレンチ・カリビアン」と表現していた。それは、フランス領アンティル諸島(Antilles françaises。グアドループ、マルティニーク、サン・マルタン、サン・バルテルミー)を指す言葉であり、小沼はそのグアドループのビートを基盤にしているし、塩谷と大儀見もデ・ラ・ルスでグアドループを訪れたことがあると言い、その空気感を共有している。

塩谷はたびたび「素晴らしい音楽がそこにあるときに、自分は弾かなくてもいい」と本気で語っており、編曲やプロデュース、サポートの方に専念する方が向いているのではないかと思うこともあったという。裏返せば作編曲ができるピアニストではなく、作編曲・プロデュース能力が特別であるということだ。塩谷は私にとって世界で最も好きなピアニストの1人だが、かつてはクラシックに挑むときなどピアノが巧く鳴らないという瞬間もないではなかった。でもここ数年のピアノの音は本当に素晴らしく、ピアノ内部のアクションと本人がダイレクトにつながっているかのようだ。「大儀見元がマラカスを中身の砂になった気持ちで振ると言ったのをきいて、僕はピアノのハンマーのフェルトになった気持ちで弾くようになりました。」 実際、ハンブルク・スタインウェイの工場を矢野顕子が訪ねる話では。”最終品質責任者”が、ひたすらフェルトの表面を針で弄り倒していて、それが冗談ではないことを証明している。今、塩谷はピアニストとして最高のコンディションにあり、さらなる飛躍もありそう、でも多忙でコンサートはないし、輪をかけて新型コロナウイルス。コンサートやライブができるのがかけがえのないことがわかった今後、塩谷のコンサートが増えることを期待したい。それまでは、『コレナンデ商会』で塩谷と大儀見のグルーヴから生まれる笑いが少しずつ日本を包んでいくことを楽しみにしたい。

東京公演を成功裏に終えたが、新型コロナウイルス感染予防のため、ビルボード・ライブ大阪と、名古屋ブルーノートへ向かうところ急遽中止に。それから1ヵ月、もうあらゆるライブ活動が困難という事態まで進展してしまったが、早く事態が収束し、再演されることを期待したい。

そして、この3人から拡張した、「シックス アンリミテッド — サステナブルでアーティスティックな、大人の悪戯」のツアーが発表になった(メンバーと日程はこの記事の末尾を参照)。事態が早く収束して、この素晴らしいツアーを観ることを楽しみにしたい。

※フランスにこだわる、塩谷哲と小沼ようすけのパリでの写真を。

L: AGA-SHIO 上妻宏光、塩谷哲(2014.6) 上妻は志村けんの三味線の師匠でもあった。
R: 小沼ようすけ、青山ボディ&ソウルの関京子と(2018.12)

Yosuke Onuma in Guadeloupe

絢香 にじいろ

Yosuke Onuma / Ti Punch at Sunset, Paris

Swingoza+ “Ogun” at Shinjuku Pit Inn on July 11, 2019

コレナンデ商会 コレナンデSHOW PR動画

シックス アンリミテッド — サステナブルでアーティスティックな、大人の悪戯
東儀秀樹(雅楽)、古澤 巖(ヴァイオリン)、
塩谷 哲(音楽監督、ピアノ)、小沼ようすけ(ギター)
大儀見 元(パーカッション)、井上陽介(ベース)

9月10日(木) 18:30 札幌文化芸術劇場 hitaru
道新プレイガイド  TEL 0570-00-3871

9月17日(木) 19:00 福井県立音楽堂「ハーモニーホールふくい」 大ホール
ハーモニーホールふくいチケットセンター  TEL 0776-38-8282

9月18日(金) 18:30 なら100年会館 大ホール
奈良テレビ放送  TEL 0742-24-2958

9月20日(日) 16:30 大宮ソニックシティホール
KMミュージック  TEL 045-201-9999

9月21日(月祝) 16:30 神奈川県民ホール
KMミュージック  TEL 045-201-9999

9月25日(金) 18:00 神戸国際会館こくさいホール
グリークス  TEL 06-6966-6555

9月26日(土) 17:00 愛知県芸術劇場コンサートホール
サンデーフォークプロモーション  TEL 052-320-9100

9月30日(水) 19:00 Bunkamura オーチャードホール
キョードー東京  TEL 0570-550-799

10月10日(土) 16:30 NHK大阪ホール
キョードーインフォメーション  TEL 0570-200-888

10月31日(土) 16:30 東京エレクトロンホール宮城(宮城県民会館)
ノースロードミュージック  TEL 022-256-1000
河北新報社 事業部  TEL 022-211-1332

12月5日(日) 18:00 鳥取県 とりぎん文化会館 梨花ホール
とりぎん文化会館  TEL 0857-21-8700
夢番地 岡山  TEL 086-231-3531

12月22日(火) 18:00 静岡市民文化会館 中ホール
静岡リビング新聞社  TEL 054-255-1231

12月26日(土) 17:00 岡山市民会館
夢番地岡山  TEL 086-231-3531
RSK山陽放送  TEL 086-225-7300

1月24日(日) 16:00 東京 北とぴあ
北区文化振興財団  TEL 03-5390-1221

1月27日(水) 18:15 アクトシティ浜松 大ホール
浜松市文化振興財団  TEL 053-451-1114

コンサートの企画に関するお問い合わせ
NHKエンタープライズ中部 企画事業部 052-952-7381
NHKプロモーション 文化・企画事業部 03-5790-6423

神野秀雄

神野秀雄 Hideo Kanno 福島県出身。東京大学理学系研究科生物化学専攻修士課程修了。保原中学校吹奏楽部でサックスを始め、福島高校ジャズ研から東京大学ジャズ研へ。『キース・ジャレット/マイ・ソング』を中学で聴いて以来のECMファン。Facebookグループ「ECM Fan Group in Japan - Jazz, Classic & Beyond」を主催。ECMファンの情報交換に活用していただければ幸いだ。

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