#1136 Jonathan Katz「Tokyo Little Big Band
ジョナサン・カッツ「トーキョー・リトル・ビッグ・バンド」〜自粛の中で
text & photos by Kenny Inaoka 稲岡邦彌
2020年8月1日 丸の内コットン・クラブ
Tokyo Little Big Band (TLBB):
ジョナサン・カッツ (director,arranger,p)
スティーヴ・サックス (sax)
鈴木圭 (sax)
アンディ・ウルフ (sax)
宮木謙介 (sax)
ジョー・モッター (tp)
岡崎好朗 (tp)
佐藤洋樹 (tb)
三塚知貴 (tb)
原とも也 (g)
井上陽介 (b)
加納樹麻 (ds)
コロナ禍による自粛要請以来何ヶ月ぶりのライヴだろう。ナマ音を渇望していた僕は、誘いにすぐ乗った。4、5ヶ月以上にわたる自粛で存亡の危機に瀕しているクラブやライヴハウスの実情をこの目で確認してみたいというメディア側の関心もあった。対策を講じながら徐々に再開しても思うようにオーディエンスが集まらないという悲観的な実態も耳に入ってくる。オーディエンスはすでにライヴを避けて配信に依存する「新しい日常」(new normal) に慣れてしまったのか?
予約に際して氏名と電話番号を登録する(万一の場合の追跡調査のためだ)。入場に際しては、サーモスコープで全身をIR体温計で額をそれぞれ検温し、手指をアルコールで消毒する(銀行や、デパートで実施している)。シートはすべて1テーブルふたり横並び、最前列は空席のままだ。メニューはドリンクとオードブルのみで、テーブルにはウエット・ナプキンが。ショーは1回1時間で1日2ショーまで。今回のTLBBは金土の2日間、1日2回のショーで合計4回。
クラブ側の対応は上記の通りで採算を度外視した最大限の配慮がなされているとみるべきだろう。もちろん、スタッフは全員マスク着用である。バンド側はどうだろう。TLBBは本誌でも何度か取り上げた Tokyo Big Band の縮小版である。フル編成19人のところステージ上の蜜を避けるために7人削減し12人に縮小している。
NYのコットン・クラブをホームグラウンドにしていたデューク・エリントン・オーケストラに敬意を表し、ジョナサンのピアノ・ソロによる<A列車で行こう>から演奏がスタート。ピアノのナマ音にまずはほっとする。井上陽介 (b)と加納樹麻 (ds) が加わってトリオで <サマータイム>。小気味好いアップテンポに思わず足でリズムを踏み、身体が揺れる。さらに6人加わって9ピースで<テイク・ファイヴ>。小野リサのコンサート用に依頼された5ホーンのアレンジの流用だ。9人目はギターの原とも也で、小野リサのヴォーカル・パートを担当した。さらにホーンが3本加わって12人編成の Tokyo Little Big Bandが完成だ。ジョナサンが使命のようにTBBを使って表現しつづける日本の童謡や唱歌のジャズ・アレンジ。今日は、<浜千鳥>、<海>、そしてアンコールに <ふるさと> 。オリジナルでサンバの <ライト・ワン>や バラードの <天音>など。途中、8月誕生日のお客さんのために<ハッピー・バースデイ>のサービスも。TBBは何度か聴いているが、ジョナサンの唱歌のアレンジは決して異国趣味に走ったものではなく原曲のメロディを生かした完全なジャズ・アレンジ。今日の “リトル”バージョン迫力やハーモニーの厚みではフル編成の及ばなかったものの、むしろジョナサンの繊細できめ細やかなアレンジの妙を味わうには適したサイズだったかも知れない。最前列のホーン・セクションは飛沫拡散を避けるために抑え気味の演奏のようにも聞こえたが、最後方のジョー・モッター (tp) はソロで顔を真っ赤にしてハイ・ノートをヒットしていたのがおかしかった。
1時間のセットだったが、久しぶりのナマのジャズ演奏を耳にしてあたりまえのように聴いていたコロナ以前の日常が本当に貴重ですでに遠い過去のように思えたのだった。やはり、音楽は心に必要な栄養である。
なお、TBBは本来の19人+1=20人編成で、9月、赤坂のBbに出演するという。次は全身でナマ音を浴びてみたい。
https://www.jkatz.net/tokyo-big-band