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Concerts/Live ShowsNo. 276

#1161 喜多直毅クァルテット/池袋ネガフィルム

2021年2月26日(金)@としま区民センター8F多目的ホール
text by Kayo Fushiya 伏谷佳代

<出演>
喜多直毅クァルテット:
喜多直毅 (音楽とヴァイオリン)
三枝伸太郎(ピアノ)
北村聡(バンドネオン)
田辺和弘(コントラバス)

<プログラム>
1. 鉄条網のテーマ
2. 泥の川
3. 空爆のテーマ
4. さすらい人
5. 街角の女たち The Pom-Pom Girl
6. 轍
7. 街の残像/残された空

企画:伊藤修作(雑司ヶ谷エル・チョクロ)
主催:としま未来文化財団
共催:豊島区


雑司ヶ谷のタンゴバーEl Chocloが企画、としま未来文化財団のバックアップを得てのホール・コンサート。天井高の会場、ステージには戦後まもなくの池袋の航空写真がネガフィルムで大きく映し出される。毛細血管のように浮き立つ路地からは、知られざる無数のストーリーが息を吹き返すようだ。

音楽はしばしば特定の記憶を結びついて懐かしさを増すが、生きえなかった過去を想像力を喚起することによってもまた、今を揺さぶり未来を幻視する力をもつ。

そうした効果に後押しされるように、音は幾重にも立ち昇り立体的なストーリーを構成してゆく。お馴染みの「鉄条網のテーマ」に始まり、「街角の女たち」といった新曲を挟みつつ、緩急自在、聴き手は投網(とあみ)が海に放たれる瞬間のような緊張と飛翔との一期一会に立ち会うことになる。
音は生きものだ。弱音・強音・ノイズ・無音・残響、すべての音現象に平等に開かれた多孔性ともいうべきものが、巨大な生命体となって空間をおおう。
また、喜多カルの真髄ともいうべき「心震えるメロディ」を、それぞれがたっぷりと歌う見せ場も存分。緻密で鷹揚、それらは絶妙な均衡関係で位相していく。

雑踏の猥雑な楽しさがエキゾチックに抽出された「街角の女たち」。喜多のホイッスルも加わり、音の奔流が多層のグラデーションとなって空気を攪拌した「轍」。たっぷりとした余白を抱きつつ、それぞれが慈しむようなソロを引き継いだ「街の残像/残された空」。
このクァルテットの物語を紡ぐ力、その軸はますます強固なしなやかさを増している。(*文中敬称略)

©豊島区

<関連リンク>
https://www.naoki-kita.com/
https://twitter.com/Tangoholic?ref_src=twsrc%5Egoogle%7Ctwcamp%5Eserp%7Ctwgr%5Eauthor
https://synthax.jp/RPR/mieda/esperanza.html
https://www.facebook.com/kazuhiro.tanabe.33?ref=br_rs
http://el-choclo.com/contents/?page_id=4

伏谷佳代

伏谷佳代 (Kayo Fushiya) 1975年仙台市出身。早稲田大学卒業。欧州に長期居住し(ポルトガル・ドイツ・イタリア)各地の音楽シーンに通暁。欧州ジャズとクラシックを中心にジャンルを超えて新譜・コンサート/ライヴ評(月刊誌/Web媒体)、演奏会プログラムやライナーノーツの執筆・翻訳など多数。

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