#1163 マンスリーヒカシュー2021 エターナルエコー 脱皮する
text & photos by 剛田武 Takeshi Goda
2021年4月20日(火)
吉祥寺Star Pine’s Cafe
ヒカシュー:
巻上公一(vocal,theremin,cornet)
三田超人(guitar)
坂出雅海(bass)
清水一登(piano,syrhesizer,bass-clarinet)
佐藤正治(drums)
Set List:
1. インプロ
2. 至高の妄想
(MC)
3. マグマの隣
4. テングリ返る
5. 何にもない男
(MC)
6. なりやまず
7. 了解です
8. 透明すぎるよ
9. 青すぎるジャージ
(MC)
10. いいね
11. グローバルシティの憂鬱
(MC)
12. いい質問ですね
13. キメラ
“鳴り止まない”ことをやり続け、観せ続けるバンドの表情の豊かさ。
2020年12月23日に最新アルバム『なりやまず』をリリースしたヒカシューは、2021年1月25日から吉祥寺Star Pine’s Cafeにて「マンスリーヒカシュー2021 エターナルエコー」と題した月一の定期公演をスタートした。サブタイトルは1月25日(月)誕生する/2月26日(金)魅了する/3月22日(月)思考する/4月20日(火)脱皮する/5月26日(水)飛躍する/6月25日(金)迂回する/7月14日(水)愉快する/8月23日(月)越境する/9月27日(月)空想する/10月26日(火)変転する/11月24日(水)超常する/12月28日(火)俯瞰する。ヒカシュー版「エターナルエコー(なりつづける)」の十二段活用といった趣だが、字面を見てもどんなライヴになるのか想像できない遊び心が楽しい。
「月々のタイトルは、誕生からはじまり俯瞰まで、心の一生のような気分でつけました。そのつどきっかけとなるテーマがあることで、その月の演奏方向を示唆できるような、できないような僅かな香りのようなものです。」
「脱皮する」とサブタイトルされた今回は、まん延防止措置の時短要請により、通常であれば休憩を挟んだ2部構成になるところが、休憩なしで90分のワンセットになった。さだまさしには負けるとはいえ(巻上談)、MCが意外に長いヒカシューとしては、予定曲数をこなす為に少々駆け足気味のステージだったかもしれないが、それだけにいつも以上に気合が入った演奏を聴かせてくれた。選曲は近年の作品(2017年の『あんぐり』から5曲、『生きてこい沈黙』(2015)から2曲)を中心に、80,90年代の楽曲を含むセットリスト。最新作『なりやまず』(2020)からはタイトルトラック1曲のみ。ほとんどが即興で作られたアルバムなので、ライヴで再現するのは難しいのかもしれないが、今後のマンスリーヒカシューで演奏される可能性もある。
ヒカシューのライヴの最大の愉しみは、演奏する個々のメンバーの表情を見ることにあると筆者は常々思っている。様々な声と楽器を操るパフォーマー・巻上公一の”顔芸”はもちろん、とぼけた表情でハードなギターを炸裂させる三田超人、いつも笑顔で黙々とベースを弾く坂出雅海、ドラムの後ろからメンバーそれぞれと目を見合わせながら、表情とアクションでコミュニケーションする佐藤正治。客席に背中を向けていて演奏中の顔は見えない清水一登の表情は茶目っ気たっぷりの演奏から想像できる。これほど表情豊かなバンドは他にいるだろうか?男は黙って背中で語る、というのは過去の美徳。顔満面の表情でサウンドを奏でるのが異形のロックバンドの心意気なのだ。
ヒカシューは結成40周年を迎えた2019年からマンスリーライヴを開催している。2019年は40年の活動のベスト的な選曲、2020年は毎回新曲を1曲以上披露、といったテーマを設けて開催された。2020年はCovid-19に伴う非常事態宣言のために4,5月が中止になったが、6月11日に無観客配信ライブで再開。営業自粛を余儀なくされたライヴハウスが活路を見出すために着手した配信ライブの初期段階での開催だった。
「配信ライブは、会場のスターパインズカフェが積極的に考えていたこともあり、早い段階で開始できました。できることがあれば、はやめに参加していこうという考えでした。」
翌7月2日から有観客+配信でマンスリーライブを続行。観客を入れるのは勇気が必要だったが、無観客ライブとの違いは大きかったようだ。
「無観客ライブもやってみて、使う神経があまりに違うことに気付きました。異常に疲れます。観客とともにライブは成り立つので、勇気あるお客さんとともに勇気ある演奏で答えるようなステージを考えていました。配信は、どう作用しているかが、その場で演奏しているとわかりません。実ライブは、いいですね。」
マンスリーヒカシューとは別に、巻上は9月にJazz Artせんがわを、10月に熱海未来音楽祭を開催。コロナ禍でイベントが難しい時期にあえて音楽フェスを開催した意図は?
「9月、10月、どちらも次の年のはじめに延期しようと思っていましたが、会場がとれなかったこともあり、予定通りにする決断をしました。ちょうどその頃は、すこしおさまって、できる雰囲気になったんです。いい時期にできました。
その他にも、デビッド・モス、フィル・ミントンたちとFive Men Still Singingというオンライン・コラボの実現やトゥバ共和国とつなげたイベントの開催は、やってよかったです。」
また、 自粛中に聴き返した過去の音源から選曲して、ヒカシューの別ユニット、マキガミサンタチの2ndアルバム『ガブリとゾロリ』を7月にリリースした。ほかにも自粛中に発見したり、考え直したりしたことは多々あったようだ。
「過去のものをいろいろ聴いてこれからもっともっと出していきたいです。吉沢元治さんとのライブのDATがたくさんあったり、出せそうなものがいっばいあります。自粛中は、楽器のメンテナンス、スタジオの改装を主にしていました。」
コロナ禍が収まるのはまだ先になりそうだが、これからのヒカシューはどのように活動していこうと考えているのだろうか?
「がんばらないように、がんばります。
なにか見逃していること、忘れかけてることをみつめて 音楽で表現していきたいです。」
そのひとつとして2020年のマンスリーヒカシューで披露された新曲を5月でレコーディングし、年内にリリース予定だという。「マンスリーヒカシュー2021 エターナルエコー」やそれ以外のライヴ活動も含め、鳴り止まない音楽をやり続け、観せ続けていくヒカシューのこれからの活動から目を離せない。(2021年4月29日記)
*文中斜線部分は2021年4月26日巻上公一へのメール・インタビューより
●花形文化通信サイトにて巻上公一ロング・インタビューが公開中(全6回)