#1254 藤井郷子 東京トリオ・日本ツアー 2023 大阪公演
Satoko Fujii Tokyo Trio Live at Always Umeda
text & photo: Ring Okazaki 岡崎凛
2023年3月16日(木)19:30~
大阪『梅田Always』
藤井郷子 東京トリオ;
藤井郷子 – piano
須川崇志 – bass
竹村一哲 – drums
藤井郷子・東京トリオの2023年ツアーは3月14日から始まり、広島、岡山の次が大阪公演で、その後は愛知、東京と続いた。
大阪公演の会場となった梅田 Alwaysはふだんからライヴ配信に力を入れており、録画用カメラなどのヴィジュアル機材の充実した店で、出演者の表情などが後方全面のモニターに映し出され、一味違ったライヴが体験できる店である。ここで藤井郷子のステージを観るのは2019年の齊藤易子とのデュオ以来だった。
須川崇志(bass)は配信で何度も聴いていたが、生で聴くのは初めてだった。さらに竹村一哲(drums)は名前を知っている程度だった。このように予備知識が少ないままライヴに行ったため、いきなりこの2人の圧倒的な表現力を目の当たりにすることになる。彼らを藤井郷子のトリオで聴くのは贅沢な体験だと思っていたけれど、実際にはその期待をはるかに上回るパフォーマンスに出会うことになった。
フェイスブックで読んだ藤井郷子の言葉は、今回のコンサートでのMCでも同様のことが語られていたが、このトリオを聴く機会がどれほど貴重であるかが分かる;
「(トリオ)結成はコロナ前、さてそろそろ録音と思っていた頃にコロナ突入で活動が滞ってしまいました。それでも2020年9月のピットインでのライブを録音デビューCD『Moon on the Lake』としてリリースしました。何せ、共演者のベースの須川崇志さんとドラムの竹村一哲さんが超売れっ子なので、スケジュールが合うのが難しい中、昨年秋にはヨーロッパ・ツアーを行いました。各地で高い評価を得て、フィンランドのフェスティバルTampere Jazz Happeningではイギリスの雑誌Jazzwiseにフェスティバルのハイライトとまで評されました」
このトリオについて、さらに藤井は続ける;「ピアノ、ベース、ドラムの、ジャズでいうところのピアノトリオですが、ピアノトリオと考えて結成したわけではありません。この方達とというインスピレーションです。…」
つまり、須川崇志、竹村一哲と組みたいという気持ちが先にあって、その2人の楽器がたまたまベースとドラムだった、ということだ。
それにしても、「この方達とというインスピレーション」という藤井の表現が素晴らしい。何とシンプルで魅力的な言葉だろう。そして「インスピレーション」という言葉がこのトリオのほぼ全てを語っている気がする。彼らは初めから何か深いところでつながっているらしく、瞬時に互いの意図をくみ取るようだ。3人の一体感が尋常ではない。
今回のコンサートで演奏したのは、全て新曲だという。(ただしアンコール曲はすでにリリースしたアルバムの曲だったようだ)
集まって練習する機会があまりなさそうな3人が、これほど濃密な関係を築いているのに驚く。3人ともふだんからフリーインプロを得意とする演奏家であることや、それぞれの演奏技術が驚愕のレベルなのも関係するだろうが、たんに演奏が上手いというだけでなく、出会ったことのない創造物に触れるような圧倒的な体験がある。こうして言葉を探すうちに、どんどん大げさな表現が増えてしまうが、ライヴでの痺れるような感覚がいつまでも消えず、彼らについて長々と語りたくなってしまう。
このトリオの3人は、過密スケジュールの中でやっと何とか公演を行っているという話なので、彼らの公演が次回いつ聴けるのか分からないが、気長に待ちたい。
会場で売られていた2020年のアルバム『Moon On The Lake』を購入した。聴こえてくるのは主に、フリーインプロたっぷりのやや辛口のジャズだろうか、などと予想したが、聴いてみると最終曲〈Moon On The Lake〉の繊細な美しさに何よりも胸を打たれる。微かな音に始まり、じっくり時間をかけて詩情に満ちた曲へと変化させていく。ライヴでも聴いたように、ハードな演奏と叙情性に満ちた表現が共存している。。
このアルバムに続くトリオ作品がもうすぐレコーディングされるそうだ。この新作を先取りする形でライヴを聴けたのは嬉しい。

関連リンク(一部)
3/14~Satoko Fujii Tokyo Trio 日本ツアー 2023
https://jazztokyo.org/news/post-84814/
藤井郷子が早くも101,102作目のCDをリリース 大友良英(g)とのduo作とKaze&Ikue Mori共演作
https://jazztokyo.org/news/post-84163/