#1261 パトリック・シロイシ/東京の2夜
Text by Akira Saito 齊藤聡
Photos by Akira Saito 齊藤聡、Kazuyuki Funaki 船木和倖
2023年5月11日(木)Live Bar aja(中野坂上)
Patrick Shiroishi (alto sax)
Tatsuya Yoshida 吉田達也 (drums, vocal)
Kei Koganemaru 小金丸 慧 (guitar, vocal)
2023年5月14日(日) Polaris(神田)
Patrick Shiroishi (alto sax, bass recorder, drums)
Keiji Haino 灰野敬二 (vocal, guitar, drums)
Takako Minekawa 嶺川貴子 (electronics, drums)
異能のサックス奏者パトリック・シロイシが日本公演を行った。ロサンゼルス在住のシロイシは日系のルーツを持つ(かれの祖父母は第二次世界大戦時の日系アメリカ市民を対象とした強制収容所で知り合って結婚した)。それだけに個人的な旅行を兼ねた今回の公演はずいぶん嬉しいものでもあったようだ。2夜の間には渋谷のミュージックバーTangleで突然乞われて吹いたりもして、滞在を愉しんでいた。
中野坂上のLive Bar ajaでは、吉田達也、小金丸慧と共演した。言うまでもなく吉田はルインズなどの激しいドラミングによって海外での知名度も高く、また、小金丸は高円寺百景や是巨人において吉田とともにサウンドを作りあげている。シロイシにとってもかれらは待望の手合わせの相手であったにちがいない。このプログレッシヴ・ロックの陣内において、シロイシは鐘を観客にも鳴らしてもらい、次第にエフェクターを駆使しながらサウンドを拡張していった。かれのアルトはフレーズにビバップ的なものを発見してしまうほどの正統的なものであり、驚かされてしまった。あとでシロイシに訊いたところでは、特製の白いマウスピースでありながら材質はラバー、リードはバンドレンの2 1/2を使っているという。すなわち極端な設定ではないにも関わらず実に幅広い音を放つのはとても興味深い。超高音を安定して出すところなど聴くと、かれがしっかりした演奏技術のうえで独自表現を切り拓いてきたことが実感できる。
いっぽうの吉田はいつもそうであるように全力で爆走し、小金丸は待ったなしの暴風雨に突入してさまざまに着色した。高円寺百景に小金丸が加入したあとのアルバム『Dhorimviskha』(2018年)は強烈なスピードと変拍子のもとに狂騒的で煌びやかともいえるユニゾンと逸脱が冗談のように集約された傑作だが、ここに貢献している小金丸の個性を目の当たりにすることができた(つまり、めっちゃカッコよかったのです)。シロイシも含め誰も振り落とされることのないスリリングな展開、観客は誰もがエクスタシーを満喫しているようにみえた。
神田のポラリスでは、灰野敬二、嶺川貴子と共演した。灰野もまた国内外でレジェンド級の評価を受けて長いが、その迫力はまったく衰えない。前触れなく発せられた叫び声によって、いきなり観客は彼岸に連れていかれた。シロイシは灰野の音楽世界に敬意を払い、静謐さと激烈さ、純粋と混沌という相矛盾する世界をみごとに提示しおおせたといえるだろう。ここでも自然な装飾音符に、シロイシの確実な技術基盤を見出すことができた。バスリコーダーに吹き込む息の音もまた幽玄さを際立たせているように思えた。
アンコールに応えて嶺川が奏でた旋律はあまりにも優しく、異能どうしの共演を印象深く締めくくるものとなった。
(文中敬称略)
2023年5月11日(木)Live Bar aja(撮影:齊藤聡)
2023年5月14日(日) Polaris(撮影:船木和倖)