#1267 Bucher-Countryman-Flagio Trio Japan Tour 2023
ブッチャー=カントリーマン=フラギオ・トリオ・ジャパン・ツアー2023
text & photo: Ring Okazaki 岡崎凛
2013年7月15日(土)
chef-d’œuvre (シェ・ドゥーヴル、大阪市)
Bucher-Countryman-Flagio Trio:
Rick Countryman (sax) [リック・カントリーマン]
Christian Bucher (drums) [クリスティアン・ブッチャー]
Flagio (bass)[フラギオ]
ゲスト:Jerry Gordon [ジェリー・ゴードン]
open 18:30 / start 19:00
米国ワシントン出身、フィリピン在住のサックス奏者リック・カントリーマンがスイス人ドラマー、クリスティアン・ブッチャーとともに来日し、神戸、大阪、京都の3都市、5か所でのトリオ公演を行った。
公演の詳細:https://jazztokyo.org/news/post-90464/
今回のツアーでは、大阪在住のクラシック、アンビエント系のコントラバス奏者であり、関西でフリー・インプロヴィゼーションのセッションに加わるフラギオ(Flagio)が、会場ブッキング、各会場での共演者の調整などを担当し、リック・カントリーマンとクリスティアン・ブッチャーを関西に迎え、マネージメント面をサポートしながら、トリオのメンバーとして演奏し、コンサートの進行も担当するという多忙な役割を果たしていた。
大阪市のオフィス街にあるカフェ、 chef-d’œuvre(シェ・ドゥーブル)は、ジャズの即興演奏など、アヴァンギャルドな音楽に出会う場所であり、コンテンポラリーな芸術志向の音楽家が集まる店という印象が強い。といっても、ここを訪れるのはまだ3度目で、まだまだ知らないことも多いが、15人程度で満席になりそうなこの店は、ガラス張りの扉と大きな窓越しにアンティークな照明器具が見えるユニークな内装、奥のギャラリーの展示物など、ライヴ演奏以外にも心を惹かれるものが多い。
この日のゲストである関西在住のミュージシャンで詩人のジェリー・ゴードン(サックス、その他)が用意したというドラムセットを店の中央に置き、横にコントラバスを弾くフラギオが立ち、その傍らでゴードンやリック・カントリーマンがサックスを吹いていた。すべての客がミュージシャンに間近い席で、その迫力に触れ、時には浴びるように轟音を聴いていた。
今回の公演は、本日のゲスト、Jerry GordonとBucher-Countryman-Flagio Trioによる3部構成。デュオ、トリオ、カルテットと、それぞれのステージで刺激的なフリー・インプロヴィゼーションが展開されていった。
1st set:
Christian Bucher (drums) & Jerry Gordon (sax, etc.)
2nd set:
Rick Countryman (sax), Christian Bucher (drums), Flagio (bass)
3rd set:
Rick Countryman (sax), Christian Bucher (drums), Flagio (bass), Jerry Gordon (sax, etc., poetry reading)
1st set:
スイスからやって来たドラマー、クリスティアン・ブッチャー(Christian Bucher)とこの日のゲスト、ジェリー・ゴードン(Jerry Gordon)によるデュオ。
ゴードンは最初、ゴムホースのついた笛のような楽器を振りながら吹き始めた。その奇妙な音が時おり雅楽を思わせる響きになり、やがてブッチャーのドラムがじわじわと音量を上げて激しく叩き始めた。その後ゴードンはサックスに持ち替え、どっしりとした低音からフリーキーな高音部まで、身を揺らせて吹きまくった。演奏は30分弱ぐらい続いたと思う。どこか和太鼓の音を連想させるドラムに、これもどこか日本情緒のあるサックスが絡んでいった。
ゴードンとこのトリオが組むのは初めてだ。デュオ演奏の前に2人で何か打ち合わせるなど、準備があったかととブッチャーに尋ねると、全く準備はなかったとの返答だった。しかし互いに探りを入れる様子眺めの時間はなく、2人の演奏は凄まじい熱量を放つレベルに達して、ヘヴィーな音を織り込みながら、互いの反応を楽しむように25分以上続いた。
2nd set:
ブッチャー、カントリーマン、フラギオのトリオ。
開始と同時に音量がマックスとなり、3者の激しいやりとりが続く。ドラムの音が輪を描くように広がり、ベースが伸びやかなアルコを弾くと、ときには痙攣したような揺らぎを交えてサックスが炸裂する。3人のやり取りが10分ぐらい続いた後、ベースが高速で細かく刻む音にダイナミックなドラムが応えたり、アルコベースとサックスが対峙したりと、バリエーション豊かにフリーインプロが続いていった。フラギオはふだんジャズベースを弾かないと聞いているが、トリオでの反応を聴いていると、その心得がないとは思えない。2人の奏でる音に、時にはハーモニックに反応し、時には自分のソロへと発展させていく姿は堂々たるものだった。
3rd set:
ブッチャー、カントリーマン、フラギオのトリオ+ジェリー・ゴードン(笛、サックス、ポエトリー・リーディング)
導入部でゴードンの吹く笛の音にはどこか日本情緒が感じられた。トリオがその音を包み込み、ていねいに反応していく過程で、導入部の東洋らしい空気は徐々に消え、力強いフリーインプロの応酬が始まった。ゴードンがテナーサックスを吹いた後、英語で詩を読み上げ、その後またサックス演奏に戻る。カントリーマンが、マーチのようなフレーズを交えたり、ゆっくりともの悲しいメロディーを吹いたりするうちに、再びゴードンが詩を読み上げ始めると、トリオの反応がまた熱を帯びていった。
アンコール:
このライヴ全体をまとめるような演奏ががアンコールで聴けたのは素晴らしいと思う。カントリーマンが時おり楽し気なメロディーを交え、またハードな演奏に戻っていく。祭り太鼓のようなドラムと日本情緒ある笛の音が混じるが、その流れはとても自然だった。祭りの風景がふっと浮かんできて、やがて消える回想シーンに出会うようだった。おそらく4人の共有する美意識のような、共通部分があり、即興にいい流れが生まれたのだろう。
<Flagio(フラギオ)と今回のゲスト奏者、Jerry Gordon(ジェリー・ゴードン)について>
今回のツアーを企画したベーシスト、Flagio(フラギオ)はフラジオという読み方で紹介される場合がある。Flagioが即興演奏を学ぶ場を提供してきたのがゲスト奏者のジェリー・ゴードンであるという。
Flagioのプロフィール:
「大阪を拠点に活動するコントラバス奏者、即興演奏家、作曲家。
コントラバスにデジタル/アナログエフェクトを重ね、アンビエント/エレクトロニック/ポスト・クラシカルを内包した、実験的かつ叙情的なサウンドスケープを創作する。…」
https://flagio-kontrabass.com/
Jerry Gordonのプロフィール:
「ロサンゼルス出身の詩人・即興演奏家。主にサクソフォンや打楽器を演奏。大阪で30年近く暮らし、2012年からは大阪市此花区で《MIIT House》の運営をはじめ、国内外からミュージシャン/アーティストを招いて音楽やダンスなどの公演を行なっている。作家として2021年に英Triarchy Pressより《Terminalian Drift》を出版。」
(大阪市此花区の複合施設Portのイベント案内より)
2021年頃のインタビュー記事(英文):
https://www.osaka.com/culture/interviews/terminalian-drift-author-jerry-gordon-on-falling-in-love-with-osaka/
<バンドキャンプで試聴・購入可能なリック・カントリーマンのアルバム>
今回の公演で聴いたリック・カントリーマン(sax)とクリスティアン・ブッチャー(ds)。フィリピンのベーシスト、サイモン・タンの参加する最新リリース・アルバムを聴くと、ベーシストは異なるが、今回の関西ツアーで聴いたトリオのきりっとした演奏に近いものがある。ブッチャーのドラムの多彩な音、複雑だがグルーヴィーなリズムに、粘りっ気のあるカントリーマンのサックスの音が絶妙のバランスで絡み合っていく。
『old drains, new stains』by Bucher-Tan-Countryman 2023年5月1日リリース
Christian Bucher, drums
Simon Tan, acoustic bass
Rick Countryman, alto sax
Recorded July 25, 2022 by Mrk Estandarte at Strawberry Jams in Quezon City, Philippines
リック・カントリーマンは、本誌No.297に彼のメキシコへのツアーに関する記事を寄稿している。今回の大阪公演取材の際に、カントリーマンは、この記事に登場するドラマー、ガブリエル・ラウバーについて語り、今回のジャパン・ツアーに加わるブッチャー(ds)とガブリエルは、音楽性が一致しており、彼らとは共演しやすいのだと語っていた。2人はどちらもスイスでドラム教育に携わっているという。(記事によればガブリエル・ラウバーはスイスとメキシコ両方の国籍を取得している)
記事へのリンク:
https://jazztokyo.org/column/special/post-82280/
No.297、Free Music~Mexico City(フリー・ミュージック〜メキシコ・シティ)
この寄稿に登場するメキシコ録音の新作『Live at No Somos Nada』は、今回のジャパン・ツアーではCDを用意できなかったそうだが、バンドキャンプ経由で購入できるようだ:
『Live at No Somos Nada』2023年1月1日リリース
Gabriel Lauber, drums
Rick Countryman, alto sax
Itzam Cano, acoustic bass
Mixed/mastered by Luis Ortega (Chino)
Cover art by Rod Countryman