#1322 『Sebastian Noelle / Shelter』
text & photo by Takehiko Tokiwa 常盤武彦
FreshSound – NewTalent FSNT 494
Sebastian Noelle (g)
Marc Mommaas (ts)
Matt Mitchell (p)
Matt Clohesy (b)
Dan Weiss (ds)
- Seven Up
- Home in a Strange Land
- Another Spring
- Rolling with the Punches
- Day Off
- Unlikely Heroes
- Mirror Lake
- Ahir Bhairav
- Naphta vs. Settembrini
- You’ll Never Know
Recorded by John Davis at the Bunker Studio, Brooklyn NY on September 23, 2015.
Produced by Sebastian Noelle.
ドイツ出身で、2002年からニューヨークを拠点に、ダーシー・ジェイムス・アーギュー・シークレット・ソサエティや、クリス・ポッター・ビッグ・バンドなどで、ラージ・アンサンブルに独特のカラーを加えるプレイで定評のあるセバスチャン・ノエル (g) の、ヨーロッパのレーベルFresh Sound – New Talentからの3枚目の野心作。本作では、ノエルは、ドキュメンタリー・フィルムや、傾倒している北インドの変拍子のリズム、尊敬する先達や、文学作品からの影響を、その音楽で昇華した。
オープニングを飾る“Seven Up”は、イギリスのドキュメンタリー“Upシリーズ”にインスパイアされた作品だ。様々な社会的、経済的バックグランドを持つ14人の少年少女の成長過程を1964年から、7年ごとに追うシリーズの第一回目のタイトルだ。2012年には“56 Up”までリリースされた8作品、13時間に及ぶ大作で、イギリスの庶民の半世紀以上に及ぶ生活を描いている。この異なる社会階層の庶民の葛藤は続く“Home in a Strange Land”でも、ダイナミックに表現される。“Unlikely Heroes”は、自動演奏ピアノで現代音楽を作曲したコンロン・ナンカロウと、ブラジルのマルチ・インストルメント奏者エルメート・パスコアールに捧げられた。この二人の孤高の天才の創作に向かう姿は、ノエルの憧れでもある。即興を主体とした北インドの音楽“Ahir Bhairav”をタイトルに冠した同曲は、ニューイングランド音楽院時代からノエルが傾倒し、現在もブルックリン・ラーガ・マッシヴで学び、インド出身のクラリネット奏者、シャンカー・タッカーと共演した成果が実った。変拍子マスターのダン・ウェイス (ds) と、マット・コーへシー (b) の紡ぐ複雑なリズムにマット・ミッチェル (p) が断片的なハーモニーを載せ、ノエルと共に、インド音楽を探究しているマーク・モマース (ts) の旋律が、ジャズとインド音楽の新たな蜜月を奏でる。“Naphta vs. Settembrini”は、ノエルの母国の文豪トーマス・マンの『魔の山』に登場する哲学的な会話を、交錯するサックスとギターのメロディ、ピアノのバッキング、複雑なリズムのコンビネーションで描く。エンディングの“You’ll Never Know”は、アラン・ホールズワース (g) のヴォイシング・テクニックに触発されて、書かれた。ギター・ソロのイントロから、ロマンティックの雰囲気でチルアウトして、アルバムは完結した。
5月26日のコーネリア・ストリート・カフェでのCDリリース・ギグをチェックした。この日は、ミッチェルに替わって、ジェイコブ・サックス(p)が参加した。ウェイス、コーへシーが紡ぐ複雑なリズムの上で奏でられる、ノエルのウォームなトーンと、メロディアスなフレーズ、モマースのシャープな旋律が絶妙にブレンドされ、美しくも複雑なタペストリーのような音楽が、ヴェニューを包み込んだ。様々な影響が、一人のアーティストのサウンドを通して統合された、見事な瞬間であった。