JAZZ meets 杉田誠一 #113「ルイ・アームストロングのコルネット』」
text & photo by Seiichi Sugita 杉田誠一
KADOKAWAの試写会で、あの「真夏の夜のジャズ」が新たに蘇った。僕が、初めて出会ったのは、高校生。時代は、ポスト60年安保。ぼくは、高一で初めてCHIGUSAでジャズ喫茶の洗礼を受ける。その鮮烈な情況下で出会ったのが、「真夏の夜のジャズ」である。1958年7月3日〜6日まで、ロード・アイランド州ニューポートでめくるめく開示されたジャズ祭をあたかもたった1日の出来事であるかのように集約してしまったのはマリリン・モンロー始め婦人科カメラマンとして一世を風靡したバート・スターン。この作品は、はっきりいって、ジャズの記録映画ではなく、あまりにマブかったアメリカの夏の「夢」ではある。ジャズ史上、最も輝かしい年だったといえる。というのは、フリージャズ革命前夜の輝かしい記録であるから。だから、最も音楽的に突出しているのは、チコ・ハミであり、エリック・ドルフィーである。
アーティスティック、エンタテインメントの両面から特化するならば、ルイ“サッチモ”アームストロングということになる。おそらくこの日は、7月4日(独立記念日)である。MCの軽妙洒脱さといい、ヴォーカルのシブさと説得力、加えてあの純白のハンカチを手にメロディアスにブロウするトランペット。まさに、あの日の頂(いただき)以外の何ものでもない。
ルイ“サッチモ”アームストロングに関しては、僕のこのコラムで何度も触れてきたので、ここでは、ニューオリンズ時代のサッチモ(がま口)について記しておきたい。
1970年7月、初めてサッチモが1900年7月4日 (1901.8.4?)に生まれたルイジアナ州ニューオリンズを訪れる。興味深かったのは、フレンチ・クォーターの「ジャズ博物館」である。ぼくは、サッチモが初めて手にしたコルネットを目のあたりにした。説明によれば、Xマス・イヴの夜、サッチモ少年は父親のピストルを持ち出し、こともあろうに酒を飲み、ピストルを街中でぶっぱなしたとある。
サッチモ少年は、少年院へ。そこで出会ったのがコルネット。こうして、コルネットに取り憑かれ、夢中になったサッチモは、出院後、葬式やパレードに参加し、メインで吹くようになる。この更生物語はアメリカの教科書にもなっている。
なお。KADOKAWA版「真夏の夜のジャズ」は、オノ セイゲンによって、4k/5.1chのBlu-rayとして、みずみずしく甦った。特に、残響音の静謐なる粒立ちは、鳥肌ものである。
また、バート・スターン夫人によるドキュメンタリー「バート・スターン Original Madman」。バート・スターン秘蔵インタビュー、サッチモ・フォトギャラリー、等々、触手が伸びるDVDとなっています。