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Live Evil 稲岡邦弥No. 286

Live Evil #44 織茂敏夫+織茂サブ

text & photos Kenny Inaoka 稲岡邦彌

2022年1月22日(土)15:30~ 川崎市鷺沼 「音の家 月見堂」
織茂敏夫 piano
織茂サブ 地無し尺八

2009年に設立された一般社団法人 ふるさと未来研究所の連動企画として代表の近澤可也が月例で始めたふるさと未来創生塾。コロナ禍の3蜜を避けるためZOOMオンラインとなったが、逆にこれが幸いして全国各地からの参加が可能となった。ちなみに、ZOOMのアドミニストレータおおせみちこはスイス・ローザンヌを拠点とする。2時間のプログラムの中で稲岡がJazzy Talkとして30分の枠を消化することになり、ジャズの楽しさを語って欲しいとの要望が出た。まず、「ジャズとは何ぞや」を体感してもらうために、ブロードウェイ・ミュージカル『サウンド・オブ・ミュージック』のヒット曲〈マイ・フェイヴァリット・シングス〉をさまざまなヴァージョンで聴いてもらう。素材はすべてyoutubeから。ジュリー・アンドリュースの歌う原曲から、ジョン・コルトレーンのソプラノ・ヴァージョンまで。あいだに JRのTV-CM「そうだ、京都行こう」や伊藤君子の東北弁ヴァージョンなどをはさむ。原曲を知らない参加者も「そうだ、京都行こう」で納得する。2回目は、「ジャズで聴く日本の童謡・唱歌」で、セロニアス・モンクが弾く〈荒城の月〉やリー・モーガンの吹く〈月の砂漠〉などを原曲と聴き比べる。3回目で初めてジョナサン・カッツ (p) にゲスト出演してもらい、彼の率いる「東京ビッグバンド」の演奏で日本の童謡・唱歌のビッグバンド・ヴァージョンを楽しんでもらった。やはり、ゲストのトークの効果は絶大で、大好評だった。この回以降、コロナ禍で生演奏の場を失われたミュージシャンにZOOMで演奏とおしゃべりを聴かせてもらう企画が続いている。

さて、第22回目を迎える1月は先月の琵琶与之乃の薩摩琵琶に続く邦楽器 尺八の織茂サブとピアノの織茂敏夫の共演。織茂サブの吹奏する尺八は地無しで、切り出した竹の節を打ち抜き、指孔を開けただけの加工を施していない手製の笛である。管内を流れる空気が滑らかではないため音程が取りにくく、また音量も限られている。僕はすでに本拠地の鎌倉で何度か彼の尺八演奏を聴いているが、自身の表現を借りれば「呼吸そのもの」に近く、鎌倉では場所がら竹林を戦ぐ風のような印象を持った記憶がある。今日もその印象は変わらず、音色はかそけく、どこまでも柔らかい。あとで確認したところ、ZOOMを通して聴くと音が聴こえない部分があったということで、これはZOOMのノイズ・キャンセリング機能が作動した結果、微弱な楽音をノイズと感知し、キャンセルしてしまったようだ。ことほど左様に、微妙な色合いを醸し出す。
後半、父親のピアノとの共演になったが、父親のピアノが弾き出す旋律、和音もまた幽雅きわまりなく、先年旅立った愛妻、いや長らく活動を共にしてきた同志への惜別、追慕の念あふるるものであったが、それは決して剥き出しの情動ではなく、どこまでも純化された尊いものであっただけにことさら琴線を震わされたのだった。起居を共にしてきた住宅の一部、アトリエでの演奏だっただけに、彼女の魂に触れながらの演奏であったことは間違いない。

🔷織茂敏夫(piano)
80年代初頭に織茂静子とシャーマニック・パンク・ユニット「いろ」を結成する。初期は、ヴォーカル、ギター、ドラムを使用したパンク・スタイルだった。1986年のチェルノブイリの原発事故をきっかけにアーコスティック楽器に移行。自作のお面、太鼓、笛、土笛、石笛など様々な楽器を使用し、創作の神楽や演奏活動行う。2019年織茂静子他界後は、ピアノのソロ演奏が中心になる。2019年にウィーンを代表するアーティストHeidrun Holzfeindが「いろ」を撮影した映像作品「the time is now」がオーストリアのクリムトが建てた美術館セッションギャラリーで2カ月間上映される。2022年もスイス人監督により「いろ」ドキュメンタリー映画が公開予定。

🔷織茂サブ(地無し尺八)
20歳の時に、武満徹 の<ノベンバーステップス >や 海童道祖の音源を聞き衝撃を受ける自ら竹を採り地無し尺八を製作し演奏活動を始める。その後奥田敦也氏に1年間古典本曲を学ぶ。代表作品は、2006年CD-R「一音」「すさぶ」。
2007年カセットテープアルバム「ソロ尺八」
2009年siwa records LP「wind songs」
2012年 innerside recordsからCD「鎌倉十二所」。「ミュージックマガジン」のインディーズ盤年間ベスト10に選出される。2015年自作曲「月と星」がオーストラリアのforever now projectにより世界中のアート作品と共に宇宙空間に打ち上げられる。
2017年モントレー映画祭に出品されたThe Benyami Brothers監督作品の「Right of way」のオープンニグに 「手向け」、劇中に即興演奏が使用される。

稲岡邦彌

稲岡邦彌 Kenny Inaoka 兵庫県伊丹市生まれ。1967年早大政経卒。2004年創刊以来Jazz Tokyo編集長。音楽プロデューサーとして「Nadja 21」レーベル主宰。著書に『新版 ECMの真実』(カンパニー社)、編著に『増補改訂版 ECM catalog』(東京キララ社)『及川公生のサウンド・レシピ』(ユニコム)、共著に『ジャズCDの名盤』(文春新書)。2021年度「日本ジャズ音楽協会」会長賞受賞。

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