ヒロ・ホンシュク『Pat Metheny/80/81 』
『パット・メセニー/80/81』
ジャズを知るまでブルースばかりだったグルーヴ好きの筆者にとってECMは特殊な存在だった。
1987年にアメリカ移住して間もなくBob Moses(ボブ・モーゼス)のMozamba(モザンバ)というバンドに雇われた。モーゼスはすごいグルーヴのドラマーで、ギグが毎回楽しくてしようがなかった。そのモーゼスは、Pat Metheny(パット・メセニー)のデビュー作、『Bright Size Life』(1976) のドラマーだ。ベースはあのJaco Pastorius(ジャコ・パストリアス)だ。このリズムセクションでグルーヴしないわけがない。『Bright Size Life 』も『Offramp』(1982)も大好きだった。だがこれらのアルバムがECMとは全く気が付かなかった。
その次に購入したのが『80/81 』(1980) だった。その頃コピーしまくっていたMichael Brecker(マイケル・ブレッカー)とメセニーなので購入前からワクワクした。ひょっと見るとジャケットの下方ど真ん中にECMとロゴが入っているではないか。『80/81』の内容からこのアルバムがECMというのにさほど驚かなかったが、実はここで『Bright Size Life 』と『Offramp』もECMだったと知って驚いたのをよく覚えている。
ECMが筆者にとって遠い存在だったわけではない。筆者はDave Holland(デイヴ・ホランド)に2年間師事したのでECMに馴染みはあった。ニュー・イングランド音楽院の教授だったPaul Bley(ポール・ブレイ)はレコーディングのことなどをよく話していたし、Chick Corea(チック・コリア)のECMアルバムはどれも大好きだった。だが、いい意味でも悪い意味でもアメリカのジャズとは遠いと認識していた。
その頃筆者は20人編成のジャズ・オーケストラを主宰していた。譜面に「ECMフィール」とか「ECMフィル」と書いて笑いをとったことはあれどその意味を聞かれたことは1度もなかった。つまり、説明しなくても意味が通じたということだ。「ECMフィール」とはバックビート、つまり2と4で数えないジャズという意味で、「ECMフィル」とはシンバルで効果音を出すという意味だ。それほどECMのイメージは定着していたということだ。
メセニーは独自の音楽観で展開していたが、Ornette Coleman(オーネット・コールマン)へのラブコールも必ず匂わせる努力をして来ている。『80/81』はそのラブコールが最も強く出た最初のアルバムだと思う。アルバムの頭からフォークギターをジャカジャカ掻き鳴らしてマイケル・ブレッカーに思いっきりアウトしたソロを取らせた、20分以上に及ぶジャム・セッション。Dewey Redman(デューイ・レッドマン)との2テナーというところがまた素敵だ。Charlie Haden(チャーリー・ヘイデン)とJack DeJohnette(ジャック・ディジョネット)の相性が意外なほど素晴らしい。オンの位置でパルスを支えるヘイデンに対してオン・トップ・オブ・ザ・ビートで暴れまくるディジョネットのまあかっこいいこと。この二人のこんな演奏、他のアルバムで聴いたことないぞ。
「80/81ツアー」の記録(音源のみ)がある。残念ながら途中で切れてしまうのだが、それでもこの演奏はこのアルバム以上にすごい。いや、メセニーの演奏が半端ないのだ。是非お聴きいただきたい。
ECM 1180/81
Pat Metheny (Guitar)
Mike Brecker (Tenor Saxophone)
Dewey Redman (Tenor Saxophone)
Charlie Haden (Bass)
Jack DeJohnette (Drums)
CD 1
1 Two Folk Songs (Charlie Haden, Pat Metheny) 20:48
2 80/81 (Pat Metheny) 07:28
3 The Bat (Pat Metheny) 05:58
4 Turnaround (Ornette Coleman) 07:05
CD 2
1 Open (Charlie Haden, Dewey Redman, Jack DeJohnette, Mike Brecker, Pat Metheny)
14:26
2 Pretty Scattered (Pat Metheny) 06:56
3 Every Day (I Thank You) (Pat Metheny) 13:16
4 Goin’ Ahead (Pat Metheny) 03:56
Recorded May 1980, Talent Studio, Oslo
Produced by Manfred Eicher