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特集『ECM: 私の1枚』

佐々木毬奈『Pat Metheny Group』
『パット・メセニー・グループ/想い出のサン・ロレンツォ』

まだ、ジャズという音楽の基本的なフォームや構造…「テーマがあって、テーマのコード進行上でソロを取り、またテーマへと還る」ということも、何も知らなかった小学生の頃から、Pat Methenyの音楽は私の日常に溶け込んで流れていました。父が運転する車のカーステレオで、彼のアルバムが幾つも流れていました。

私の話になってしまうのですが、生まれ育った和歌山県は車社会で、車で移動している時間が長かったこともあり、その頃に車で聴いていた音楽は今でも聴くとその音の先に、当時の車窓や風景が、瞼の奥のパノラマにいつも見えてきてしまうのです。

「Pat Methenyの音楽はジャズである」という認識ではなく、とても「陽の光や温かさや陰り、風の瑞々しさ、空の蒼さ、雨や土の匂い」…そんな鮮やかな色彩を感じる音楽として捉えていて好きになり、親しんでいました。

ECM録音の特徴でもある透明感や空間を感じさせるサウンドは、このアルバムでも間違いなく感じます。

挙げさせていただいたアルバム『Pat Metheny Group』の中でも〈Phase Dance〉は特に好きで、冒頭のリフだけでも朝の日の出が浮かんできます。曲中を占める「Bm9 → Bb△9」の交互の進行の主にソロが進みますが、メセニーとライル・メイズが紡ぐソロは、自然でありながらも感動に導かれます。曲の終盤かけて開けゆくカラフルなハーモニーにもため息が漏れるばかりです。


Oslo, 1978 ©Roberto Masotti / Lelli e Masotti Archivio

ジャズの中に親しみやすいポップな味付けもある、でもその奥にはジャズの叡智が埋め込まれ散りばめられているPat Methenyの音楽は、ジャズも、ポップスも、自分の音楽として表現していきたい、と思うようになった礎でもあります。


ECM 1114

Pat Metheny Group
Pat Metheny (6- And 12-string Guitar)
Lyle Mays (Piano, Oberheim, Synthesizer, Autoharp)
Mark Egan (Bass)
Dan Gottlieb (Drums)

1 San Lorenzo (Lyle Mays, Pat Metheny)| 10:14
2 Phase Dance (Lyle Mays, Pat Metheny) 08:18
3 Jaco (Pat Metheny) 05:34
4 Aprilwind (Pat Metheny) 02:09
5 April Joy (Pat Metheny) 08:14
6 Lone Jack (Lyle Mays, Pat Metheny) 06:41

Recorded January 1978 at Talent Studio, Oslo
Engineer: Jan Erik Kongshaug
Produced by Manfred Eicher



佐々木毬奈 ささきまりな
ジャズピアニスト、キーボーディスト、作編曲家。国立音楽大学演奏学科ジャズ専修卒業。国立音楽大学国内外研修奨学生。2015年 Yamaha Electone Concours世界大会セミファイナリスト。2018年『第5回エレクトーンアレンジ大賞』にてグランプリ受賞。ヤマハミュージックメディア発刊曲集アレンジ等も手がける。自身のグループやヴォーカルとのDuoの他、シティポップ・AORバンド、「OPUS」のキーボーディストとしても活動。昨年12月にはOPUS 1st Album「Behind the Time」リリース。2023年3月現在、YouTube OPUSTUBEチャンネル登録者数は13,000人を目前に、国内外から好評を得ている。

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