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このディスク2017(海外編)No. 237

#04 『TON-KLAMI / Prophecy of Nue』

text by Kenny Inaoka 稲岡邦彌

『TON-KLAMI / Prophecy of Nue』(NoBusiness NBCD102)

今年は“インプロ”のアーカイヴ・リリースで画期的な“事件”があった。山口県防府市のインディ・レーベル「ChapChap Records」(末冨健夫主宰)がリトアニアのジャズ・レコード会社「NoBusiness Records」との契約に成功し、2年間にわたって10本の音源をシリーズ発売することになったのだ。2本のリリースは来年1月に持ち越されることになったが、2017年のリリースは以下の5本である;

『豊住芳三郎+ポール・ラザフォード/Conscience』(NBCD99/NBLP102)
『沖至+井野信義+崔善培/Kami-Fusen』(NBCD100/NBLP103)
『Ton-Klami(姜泰煥+高田みどり+佐藤允彦)/Profesy of Nue』(NBCD102)
『バール・フィリップス+吉沢元治/Oh My, Those Boys!』(NBCD103/NBLP111)
『姜泰煥ソロ/Live at Café Amores』(NBCD104/NBLP113)

上記の5本のうち最初の1本、豊住とポールのデュオは、ChapChapの原盤ではなく、愛知県常滑市のジャズ・サポーター久田定が企画していた豊住芳三郎のデュオ・シリーズのアーカイヴだった。末冨にしろ久田にしろ身銭を切って地方でインプロ系のジャズを支えて来たサポーター達である。両者は口を揃えて言う。「地方でインプロ系のライヴに集客するのは並大抵ではないのですよ」。末冨は家宝にも等しいLPコレクションの一部を売却してギャラの不足分に充てたと言うし、勤め人の久田はボーナスの一部を経費に充当していたと聞いた。そういうサポーター達にとって自らの活動の記録がヨーロッパの小国のレーベルを通じて世界に発信されるのは何物にも代え難い喜びであるに違いない。当事者である演奏者は言わずもがなではあるが。録音はすべて90年代後半だが、例えば、Tom Hullというブロガーは、「The Best Jazz Albums of 2017」の”Reissues/Historic Music”の項で、豊住とラザフォードの『Conscience』をベスト1に選んでいる。

ちなみに、ChapChap Recordsの秘蔵音源からは2015年に5タイトルがLPとCDで「Free Jazz Japan in Zepp ちゃぷちゃぷ | 埋蔵音源発掘シリーズ」のタイトルの下ユニバーサル・ミュージックからリリースされたが、会社の事情でリリースが中断され、リトアニアのNoBusiness Recordsがそれを引き継いだ形になった。来年リリースされる予定の5タイトルは以下の通りである;

*アレクサンダー・フォン・シュリッペンバッハ+高瀬アキ
*豊住芳三郎+佐藤允彦
*姜泰煥+高田みどり
*ワダダ・レオ・スミス+豊住芳三郎
*崔善培クインテット

NoBusiness Recordsからのリリースにあたっては僕も少しは手を貸したので関係者のひとりということになるのだろうが、リリースの意義を鑑みて『Ton-Klami/Profesy of Nue』を今年の1枚に選ばせていただいた。この1本だけLPリリースがなくCDだけで終わっているのは、想像を超えるダイナミック・レンジの広さと予期せぬ音の跳躍にカッターヘッドがトレースできないという物理的理由による。聴きどころについては、本誌に掲載された優れたCDレヴューを参照願いたい。

https://jazztokyo.org/reviews/cd-dvd-review/1451%E3%80%8Eton-klami-prophecy-of-nue%E3%80%8F/
https://jazztokyo.org/reviews/cd-dvd-review/post-19853/
https://jazztokyo.org/reviews/cd-dvd-review/post-20007/

稲岡邦彌

稲岡邦彌 Kenny Inaoka 兵庫県伊丹市生まれ。1967年早大政経卒。2004年創刊以来Jazz Tokyo編集長。音楽プロデューサーとして「Nadja 21」レーベル主宰。著書に『新版 ECMの真実』(カンパニー社)、編著に『増補改訂版 ECM catalog』(東京キララ社)『及川公生のサウンド・レシピ』(ユニコム)、共著に『ジャズCDの名盤』(文春新書)。2021年度「日本ジャズ音楽協会」会長賞受賞。

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