Lyle Mays と Pat Metheny が出会ったという奇跡に感謝 by 久保智之
text by Tomoyuki Kubo 久保智之
私はLyle Maysのソロ名義作品では『Street Dreams』が特に好きなのですが、このアルバムの一曲目「Feet First」のオープニングの十数秒。ここが特にLyle Maysしかできない、アイデアに溢れたポイントなのではないかと思っています。
リバーブの効いたピアノのオープンなハーモニーが鳴り、緩やかに消えていく中でクリックのような電子音が現れはじめ、ハイハット類がフェードイン、そしてシンセ音とともにホーンセクションの入ったバンドによるイントロが始まる… このイントロまでの何気ない十数秒の独特の空気感。これがこの曲を、そしてこのアルバムを、Lyle Maysらしい特別なものにしているのではないでしょうか。こうした「曲の主題とは違うところのちょっとしたスパイスのようなアイデア」、これがLyle Maysらしさなのだと思うのです。
Pat Metheny Group(以下PMG)作品で、人気曲として話題になる曲を挙げてみると、例えばFirst Circle, James, Third Wind, Minuano, Phase Dance … などがありますが、よくよく考えてみると…
First Circleは、ボーカルによるイントロやピアノソロのあとのオーケストレーション部分、これらはLyle Maysのアイデアからできたパートだそうです。Jamesのイントロも、Third Wind後半でリズムが変わるところも、Minuanoのイントロや中盤のマリンバが入るところも、Phase Danceのエンディングも… すべてLyle Maysのアイデアだそうです。もしこれらの部分が無かったとしたら… どんな曲になっていたことでしょう。
今回追悼文を書くにあたり、あらためて昔のLyle Maysのインタビュー記事を読んだのですが、そこでは、LyleとPatが、あらかじめ作った曲を持ち寄りながらも結局ほとんどすべてボツにして、二人でアイデアを出し合いながらあらためて一から曲を作っていった、という様子が語られていました。そんな過程もぜひ見てみたかったですけれど、いずれにしても、PMGのアルバムは、Pat MethenyだけでもLyle Maysだけでも作れない、本当に貴重な作品なのだなぁ、とあらためて感慨深く思いました。
最近ネットなどで聴くことのできる「Boston Jazz Workshop」という1976年9月の音源があるのですが(現時点ではApple Musicでも聴けます)、これは、Pat MethenyとLyle Maysが一緒に演奏をして間もない頃の演奏です(初めての共演は1976年7月のようですので、それから2ヶ月後くらいでしょうか。ここで演奏しているRiver Quayは、このLyleとのバンドのために書いた曲のようです)。
メンバー紹介でPat が「His name is Lyle Mays.」と紹介するのを聴いて、なんとなくぎこちなさのようなものを感じたり、「この時はPat とLyleはまだ自分たちの将来を知らないんだよな…」などと思ったりしながら演奏を聴くと、とても不思議な気分になります。
Lyle MaysとPat Methenyが出会ったという奇跡… 本当に感謝しています。
Lyle Maysさん、本当にありがとうございました。