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R.I.P. チック・コリアNo. 275

溢れる愛、桁違いのイノヴェーター by pianist, keyboardist 松本圭司

チックさんが亡くなってしまいました。それも急に。世界中がコロナで混乱し、その最中に自宅より配信を始めたり、ここ数年の彼の動向は常にアクティブ、ご自分も様々なチャレンジをされていました。そんな中唐突に伝わってきた悲報。

僕の世代にとっては、物心ついた頃には既にチックさんはクロスオーバーからフュージョンへの最重要人物でした。僕にとっての出会いは、札幌での高校生時代。
同級生(ピアニスト、ミュージシャンとして大活躍している扇谷研人君)が、チック・コリア・エレクトリック・バンド(Chick Corea Elektric Band)の新作「Eye of the Beholder」を僕に聴かせてくれたのが最初。
儚く美しい旋律、立ち上がりの早いピアノの音色が耳に残りました。その当時フュージョンものではアコースティック・ピアノをフィーチャーしたものって意外と少ない時代でしたので、なおさら印象的でした。
ぱっと聞きどうなっているのか分からない難解な編曲。
そしてその後リリースされた、派生ユニットのチック・コリア・アコースティック・バンド(Chick Corea Akoustic Band)。
これが僕のジャズへの入り口となりました。アコースティック・バンドの演奏で、いくつかのスタンダード曲も覚えることが出来ました。
フュージョン世代、というか80’sポップス世代の僕も、チックのおかげでジャズの世界観に入ることが出来ました。

その後に過去の名盤などに遡っていくので、僕より年配の方とは入り口が違うかも知れません。しかし僕の年代では皆そういう感じだったような記憶があります。

「Return to Forever」、Matrix が収録された「Now He Things, Now He Sobs」、「Children’s Songs」、「Three Quartets」、ECMでのTrio作、スタン・ゲッツの「Sweet Rain」、等々、色々好きなものはありましたが、中でも一番だと思っているのは、「Friends」です。このアルバムのタイトル曲の温かさ、愛情の深さは僕にとって格別で、いつ聞いても優しい気持ちになれる。僕の音楽人生の最終目標といってもいいくらいです。

彼の音楽の特徴、リズムはとにかくタイト、立ち上がりの早い音色、選ばれる他のメンバーも、そのスピード感を共有できるタイプの人たちが多かったですね。
例えば、ソウルミュージック、ブルースなどからの影響はあまり感じられず、他の同世代のピアニストの中でも異端だったのかなという気がします。マイルス・バンドの同期、ハービー、キース、ザヴィヌル、皆、より泥臭いルーツを感じますが、チックはそこが希薄な分、その名ピアニスト達の中、とりわけ個性が際立っていたと思います。

その分、この人に影響を受けすぎてしまうと、丸コピーになってしまう、と若い頃の僕は考えて、なるべく聞かないようにしていた時期がありました。
それだけ、僕らの世代へアピールする魅力が強かったですね。バンドも無敵な人選でした。

チックさんは、ともするとフレージングや作編曲の印象から機械的な印象も受けます。
でもそれと相反するような人間味あふれる面もありました。

ただでさえ忙しいはずなのに、教育分野へも進出、昨年のチック・コリア・アカデミーの設立。とてもリーズナブルに彼の講義が受けられるなんて。僕の子供の頃にこんなのあったらなぁ、これからのミュージシャンが心の底から羨ましいです。

音楽、音楽を愛する人々へのあふれる愛情と、唯一無比なバックグラウンド、精巧な作編曲や演奏の技術、桁違いのイノヴェーターでした。


松本圭司 Keiji Matsumoto – Pianist, Keyboardist
1973年4月12日生まれ。札幌出身。ピアニスト、キーボーディスト、アレンジャー。ギター、ベースなども演奏する。
1998年末よりT-SQUAREに参加。2000年退団後はセッション・ミュージシャンとして活動しながら、自己のアーティスト活動。
沢山のアルバムを制作、2020年リリースは「Monograph」「The Winds Of Spring」。
ジャズをベースとしながら、幅広いジャンルで活動している。
公式ウェブサイト keijimatsumoto.com

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