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R.I.P. カーラ・ブレイNo. 308

R.I.P Carla Bley by 石井 彰

カーラ・ブレイさんが亡くなって一月が過ぎた。僕の中ではぽっかり穴が空いてしまった。。というよりカーラさんの残した物の美しい宝物のような世界に埋もれて現実逃避して、さらに存在感が増しているという感じだ。しかしこの先は新しいものが生まれてくる事はない。そういう寂しさにふと襲われる時がある。

初めてカーラ・ブレイさんの音楽に触れたのはアート・ファーマー(flh)さんの「Sing me softly of the blues」を聴いた時かもしれない。シンプルな音使いのブルースっぽい曲の魅力にハマった。その時にはまだ作曲者としてカーラ・ブレイという名を知っただけ。後にスティーブ・スワロウ(b)さんとのデュオアルバム諸作に出会ってからだ。そしてポール・ブレイ(p)さんによって弾かれるカーラ作品に打ちのめされてからは泥沼だった。

「Ida Lupino」「Syndrome」「Seven」は愛奏曲になった。彼女が弾く「Ladies in Mercedes」(Steve Swallow)が好き過ぎて自分の初リーダーアルバム『Voices in the night』でカバーしてからというもの今だに弾くこともある。
彼女の膨大な作品群の回想はしないが、初期の大作『Escalator over the hill』、チャーリー・ヘイデンさんの『Liberation Music Orchestra』での作編曲は最も大きな金字塔だろう。そして『Dinner Music』くらいからのフージョンテイストというかリズム面の変化も面白い。中でも『Sextet』というロックフュージョンバンドでの誰もが大好きな「Lawns」と並んで大好きな曲「More Brahms」がたまらない。

そして90年代に発表された『Fancy Chamber Music』。これには心底参った。クラシカルな室内楽アンサンブルスタイルで自分の深い抒情性を一筆一筆に端正に心を込めて書かれている作品。私のリーダーバンドである『Chamber Music Trio』はここからネーミングのアイディアを頂き、敬意を表してカーラさんの曲を2曲「Flags」「Intermission Music」を録音した。
一方的な思い出は尽きない。彼女のチャーミングで妖艶で果敢な演奏が大好きです。

最後に最もカーラ・ブレイさんに接近した思い出を。
2001年9月にスティーブ・スワロウさんとのDuo Album『That Early September』を作りました。二日間のマンハッタンでのレコーディング。ホテルを押さえ泊まって下さいと言う僕に「カーラに怒られるから。。」と照れくさそうに自宅に帰るスティーブさんの本音は。。?濃密なお二人の関係は音に全て詰まってる。カーラさんに筋違いな軽い嫉妬を覚えました。そして僕のオリジナル『Happiness』という曲を大層気に入って下さり、「帰ってもう一度よく研究する!」と言って下さった。家でカーラさんとスティーブさんで音出してくれたらなあ〜なんてド厚かましい妄想をしていた。。。その甘美な陶酔の時間も帰国直後の同時多発テロにより寸断されてしまったのだった。

カーラ・ブレイさん、どうぞ安らかに休息を。
僕は今あなたの曲「Intermission Music」と煌めくような「Satie for two」のソロが頭に静かに鳴っています。
そして、カーラさんを失ってしまったスティーブさんにお悔やみ申し上げたいです。


石井 彰 Akira Ishii: pianist
神奈川県生まれ。大阪音楽大学作曲科在学中、Bill Evansを聞き衝撃を受け、ジャズピアニストを志す。卒業後、関西で活動を始め、1991年拠点を東京へ移す。1998年より2018年まで20年間日野皓正(tp)クインテットに参加。故日野元彦氏からも多大な影響を受けた。2001年には、初リーダーアルバム『Voices in The Night』を発表後、EWEより『That Early September』(Duo with Steve Swallowリ等、リーダーアルバム4枚発表。2011年レーベル移籍し(studio tlive records)、『a〜inspiration from muse』(solo piano)『Endless Flow』(piano trio)『Silencio』(chamber music trio)3枚のリーダー作をリリース。現在は”Chamber Music Trio”須川崇志(vc)杉本智和(b)、”Quadrangle”石井智大(vn)水谷浩章(b)池長一美(ds)という弦楽器フィーチャーの2つのリーダーバンドを持つ。吉田美奈子(vo)との邂逅は新たな潮流を生み出し、『柊』という現在進行形で進化深化している。音楽教育面では大阪音楽大学ジャズ科准教授として、Hot Music Schoolでも長年教鞭を取り続けている。著書は『超絶ジャズピアノ』(リットーミュージック)『The Jazz道』(ヤマハミュージックエンタテインメント)がある。
石井 彰ウェブサイト

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