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My Pick 2024このパフォーマンス2024(海外編)No. 321

#04 小曽根真&アンドレ・メマーリ ピアノデュオ at サーラ・サンパウロ
Makoto Ozone & André Mehmari at Sala São Paulo


(1:13より) <O’berek> (Makoto Ozone)

Text by Hideo Kanno
Photo ©TUCCA Música – Ali Karakas

小曽根真&アンドレ・メマーリ ピアノデュオ at サーラ・サンパウロ
Makoto Ozone & André Mehmari at Sala São Paulo

2024年4月9日 サーラ・サンパウロ 主催 TUCCA(小児青少年ガン協会)

Nonada (André Mehmari)
Something’s Happening (Makoto Ozone)
Kotobossa (André Mehmari)
Pandora (Makoto Ozone)
My Witch’s Blue (Makoto Ozone)

Makoto Ozone Solo – Luiza (Tom Jobim)
Chega de Saudade (Tom Jobim)
André Mehmari Solo – Improvisation upon themes requested by the audience
O’berek (Makoto Ozone)

Águas de Março (Tom Jobim)

地球の裏側でお互いをリスペクトしてきた巨匠 小曽根真と鬼才 アンドレ・メマーリは、2024年4月9日、美しいコンサートホール「サーラ・サンパウロ」で初のデュオコンサートを実現した。会場となったサーラ・サンパウロはサンパウロ州交響楽団(Osesp)の拠点で、小曽根の出演も多く、巨大で重厚なフリオ・プレステ駅(1938年)を1,498席の美しいコンサートホールに改装し1999年にオープンしたもの。

アンドレ・メマーリは、1977年、リオデジャネイロ・ニテロイ出身の作曲家・ピアニスト・マルチプレーヤーで、クラシックからジャズまで幅広いフィールドで活躍する。ピアノの豊かな表現力、詩情溢れるオリジナルの数々でも人気があり、作曲家として世界で愛される音楽をたくさん書き、アルバムは59枚に及ぶ。日本でも熱烈なファンが多く、アンドレは日本を愛して止まない。管弦打楽器、鍵盤楽器すべてを完璧に演奏することができることも特筆すべきだろう。「ゲイリー・バートンやチック・コリアとの演奏を通して、ずっと真の音楽を聴いていて憧れていました。真はこの惑星で最も好きな音楽家の一人です。真はテクニックと音楽的アイデアのバランスが完璧で、幅広い音楽の世界観を持ち、真とのプレイは最高の歓びです。」とアンドレは語っていた。

アンドレは、作曲家としてサンパウロ州交響楽団に楽曲提供もしてきた縁があり、2015年に二人は出会い、2017年に小曽根がマリン・オールソップ指揮でサンパウロ州交響楽団と<ラプソディ・イン・ブルー>を演奏した際、アンコールにアンドレを招き即興で演奏。それがとても楽しくいつかデュオコンサートをすることが二人の夢になった。2020年に日本でのコンサートが計画されたが、COVID-19で中止となっていた。

TUCCA(小児青少年ガン協会)主催によるチャリティコンサートとして開催されたので、開演に先立ってステージ上のスクリーンに、小曽根とアンドレが病院を訪問し、ガンと闘う子どもたち、その親たちの前で慰問演奏を行った姿が映し出された。そして、ステージに小曽根とアンドレが現れ2台のピアノに向かう。左に座ったアンドレが静かにイントロを奏で始め、浮かび上がる短調だが情熱的で心が躍り出すメロディとリズムが浮かび上がる。1曲目の<Nonada>は、”nothing”という意味で、ジョアン・ギマランエス・ローザの小説『大いなる奥地:小径』の最初の一語からとったという。続いて小曽根の<Something’s Happening>へ。<Kotobossa>は”真ボッサ”、アンドレが真に捧げるボサノヴァ。美しい響きと想いが溢れ出し、プレイ=遊ぶように自由にさまざまな世界へ観客を連れて行く。お互いの音を聴き合いながらその場で生まれてくる音楽。ピアノ2台を超える響きが聴こえてきた。作曲家でもある2人ともオーケストラとして弾いていて観客の感性と共鳴してそう聴こえてくる。続いて、小曽根の壮大な曲<Pandora>と<My Witch’s Blue>が演奏された。ピアノデュオというフォーマットと、ふたりのもつ多すぎる引き出し、ブラジルの本場のグルーヴを軸に小曽根とアンドレの音楽性が浮かび上がる。

第2部は、小曽根のソロから始まった。トム・ジョビンが末娘マリア・ルイザに捧げ<ルイザ>を美しく歌い上げる。さらにジョビンの<Chega de Saudade>。ボサノヴァの記念すべき始まりの一曲である”想い溢れて”は、もはやブラジルの国民歌とも言えるもので、ふたりのジョビンへのリスペクトを込めた演奏に会場が湧く。アンドレのピアノソロは、特技で恒例となっている、客席からのリクエストをたくさん募って、ジスモンチ<7 Aneis (7つの指輪)>から<Take the “A” Train>までシームレスに演奏していく。小曽根の<O’berek>。その名前はポーランドのダンスのリズムだが、小曽根が、ピアノ、ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロとパーカッションのために書いた曲を2台のピアノに編曲した。<O’berek>の最後辺りをこの記事の冒頭につけた動画でぜひご覧いただきたい。

鳴り止まない拍手に、ふたりが再びピアノに向かう。少なめの音数でピアノで遊んでいるとやがて洪水のような音数になったりしながら、落ち着いてくると、<Águas de Março>のメロディが浮かび上がる。秋のサンパウロに、巧みな歌詞とリズムで秋雨を描いた<三月の水>は素敵な選曲だ。短いながらもさまざまなヴァリエーションを織り交ぜた演奏に、会場が興奮は最高潮に達してコンサートを終えた。

この2024年4月サンパウロでの初デュオコンサートを経て、12月に日本でのツアーが行われ大成功を収めることになった。

小曽根とアンドレの共演は到達点ではなく出発点だ。小曽根と塩谷哲のデュオのように継続的に続けて欲しい。アンドレ・メマーリの今後の幅広い来日プログラムにも期待したい一方、小曽根の今後のブラジルとの取り組みも楽しみでならない。

●小曽根真(piano)、アンドレ・メマーリ(piano)、エドゥ・ヒベイロ(drums)、宮地 遼(bass)、KAN(perc)
12月12日(木) 兵庫県立芸術文化センター
「Brazilian Jazz Night」(西宮)
12月14日(土)、15日(日) 東京・Bunkamuraオーチャードホール(渋谷)
「Christmas Jazz Night – Welcome to Our Party!」

●小曽根真&アンドレ・メマーリ・デュオ
12月20日(金) 19:00 静岡・グランシップ静岡
12月21日(土) 17:00 群馬・高崎芸術劇場

【参考動画】Nonada (Andre Mehmari)

【参考動画】Makoto Ozone at Sala São Paulo, 2015
“A Miracle Encore” The Love for Jobim in Brazil

【アンドレ・メマーリ Jazz Tokyo 寄稿記事】
特集『ECM: 私の1枚』- André Mehmari『Charlie Haden, Jan Garbarek & Egberto Gismonti / Folk Songs』
Memory of Lyle Mays by André Mehmari
Memory of Chick Corea by André Mehmari

神野秀雄

神野秀雄 Hideo Kanno 福島県出身。東京大学理学系研究科生物化学専攻修士課程修了。保原中学校吹奏楽部でサックスを始め、福島高校ジャズ研から東京大学ジャズ研へ。『キース・ジャレット/マイ・ソング』を中学で聴いて以来のECMファン。Facebookグループ「ECM Fan Group in Japan - Jazz, Classic & Beyond」を主催。ECMファンの情報交換に活用していただければ幸いだ。

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