#090「G-Modern~Psychedelic, Avant-garde, Underground Magazine」 Vol.25
誌 名:G-Modern~Psychedelic, Avant-garde, Underground Magazine Vol.25
発行日:2005年8月 25日
発行人:生悦住 英夫
編集人:赤岡広章
発行所:モダーンミュージック/NPO法人ジャパンミュージックサポート協議会
定 価:860円(税込)
特集:ロング・インタビュー 大友良英
特別インタビュー:金野吉晃
主な登場アーティスト:大口純一郎・三上寛・Exias-J・壁耳・灰野敬二・Lester Bangs・Metal Urbain 他オールスター
先ごろ物故した生悦住英夫(いけえずみ・ひでお)氏が発行していた音楽情報誌。僕は熱心な読者ではなかったから手元にあるのはこの1冊だけである。2005年8月というと当誌Jazz Tokyoが産声をあげて1年そこそこの頃である。Jazz Tokyoは文字通りジャズを中心に、雑食性のジャズがついばんで来たクラシックを始めとするさまざまなジャンルの音楽をカバーするという意味で“Jazz and far beyond”というキャッチフレーズを掲げた。G-Modernはというと、“サイケデリック、アヴァンギャルド、アンダーグラウンド”を謳っている。最近でこそJazz Tokyoにも地下音楽、灰野敬二、JOJO広重、非常階段などという普通のジャズ・ファンの視野には入らない名詞がしばしば登場するようになったが、シンパのコントリビュータは、これこそ“far beyond”でしょと、したり顔である。G-Modern 25号を開いてみると、灰野敬二、JOJO広重、非常階段などの固有名詞があちこちに踊っている。表4の広告は灰野敬二のドラム・ソロのアルバムだ。そう、G-Modernは言ってみれば彼らの牙城だったのだ。カバー・ストーリーは大友良英だが、Jazz Tokyoにも大友良英が毎号登場している時期があった。NHK-TVの「あまちゃん」が話題になっていた頃である。大友にもやはりシンパのコントリビュータがいた。大友は知人の写真家・五海裕治(ゆうじ)に胸襟を開き映画音楽との関わりについてすべてを語っている。このインタビューを読むと、「あまちゃん」の成功はフロックではないことがよく分かる。数十作を超える下積み的な実践を経た上でのブレイクであったのだ。五海は巻頭の「自由の意思 連載30 大口純一郎」、それに続く「恐竜の骨」と2本のフォト・エッセイも寄稿しており、G-Modernのキー・メンバーの一人だったことが見て取れる。
もう1本の特別インタビューは盛岡在住のインプロヴァイザー金野吉晃(きんの・よしあき)で、インタビュアー近藤秀秋(ギタリスト)が採用したタイトルは「絶対的相対主義者の密かな欲望」。金野は、近藤という良き聞き手を得て、盛岡という地に自らを隔離して重ねたであろう思索の粋を淡々としかし理路整然と語る。極めて論理的に、時には哲学的にさえ。音楽、演奏することの根源に言及する彼の思索の糧を直接確認してみたらいかがだろう(幸いVol.25のバックナンバーは入手可能なようだ)。続く生悦住のインタビューでは三上寛が音楽や歌うこと、オリジナリティについて独特の生身の言葉で語っている。このインタビューも素晴らしい。金野や近藤はディスク・レビューでも度々登場し、やはりG-Modernを書き手として支えていたキー・メンバーであったようだ。金野は、「音色時間 音響、社会、テクノロジー」というタイトルの下、音と音楽、楽器を改めて一から考え直す長文の論文を発表し、近藤については、「レーベル探訪」で自身が主宰するBishop Recordsが取り上げられている。
100頁に満たない雑誌だが、充実したディスク・レビューを含む非常に内容の濃い読み応えのあるメディアである。生悦住は発行人の言葉として編集者が一部原稿とともに行方をくらまし発行が遅れたことを詫びているが、インディの艱難辛苦を良き仲間の協力を得ながら克服し、ショップ(モダーンミュージック)を営み、レーベル(PSFレコード)を主宰しながら20有余年にわたって素晴らしい活字媒体を維持していた事実に今さらながら感服せざるを得ない。(稲岡邦彌)