JazzTokyo

Jazz and Far Beyond

閲覧回数 ...

CD/DVD DisksNo. 331

#2403 『Eric Miyashiro / Blue Horizon』
『エリック・ミヤシロ/ブルー・ホライゾン』

Text by Hideo Kanno 神野秀雄

T-Square Music  国内盤SACD Hybrid+Blu-ray OLCH-10033-34 ¥3,900(税込)/国内盤LP ¥4,950(税込)

【CD】
1.Blue Horizon
2.Time Wizard
3.Beach Entry
4.North Shore Express
5.Catch The Rainbow
6.Turquoise Moon
7.Back Stage Pass
8.Spain
【付録 Blu-ray】
「Blue Horizon / Blue Note All-Star Jazz Orchestra directed by Eric Miyashiro」

【録音メンバー】
<Beach Entry>、<Time Wizard>、<North Shore Express>、<Back Stage Pass>
Eric Miyashiro(tp), Greg Gisbert: (tp on <North Shore Express>)
本田雅人(as, ts, bs) 中川英二郎(tb)、中川就登(p、CP-88)
川村 竜(b)、山本真央樹(ds)、梶原 順(g on <Back Stage Pass>)

<Blue Horizon>、<Catch The Rainbow>、<Spain>
Eric Miyashiro、具志堅 創、山崎千裕、宮城 力(tp, flgh)
本田雅人(as, fl)、渡邉瑠菜(as, fl)、小池 修(ts, fl)、米沢美玖(ts, fl)、鈴木 圭(bs, bcl)
中川英二郎、藤村尚輝、高井天音(tb)、野々下興一(bass-tb)
宮本貴奈(p, CP-88)、川村 竜(Bass)、川口千里(ds)

<Turquoise Moon>
Eric Miyashiro(piccolo-tp, flgh)、小曽根 真(p)

Produced by ERIC MIYASHIRO and MIKIO AOKI
All Songs Composed,Arranged by ERIC MIYASHIRO
Except ”Spain” Composed By Chick Corea & Joaquin Rodrigo
Recorded at Sound City,Gyoen Labo and Yamaha Ginza Concert Salon
Mixed at In and Out


ハワイ出身、日本における真のファーストコール・トランペッターとして君臨して来たエリック・ミヤシロ。世界で活躍して来たエリック・ミヤシロの15年ぶりのリーダーアルバムがリリースされた。最近では、ブルーノート東京オールスター・ジャズ・オーケストラの音楽監督として、世界のレジェンドたちとの共演を実現している。バークリー音楽大学に進学後、バディ・リッチ、ウディ・ハーマン、メル・ルイスなどの名門ビッグバンドのリード・トランペットを務め、メイナード・ファーガソン・バンドにもトラで参加している。来日後はファーストコール・トランペッターとして数えきれないライヴや録音に参加、世界で活躍してきた。最近では、ブルーノート東京オールスター・ジャズ・オーケストラの音楽監督として世界のレジェンドたちとの共演を実現してきた。ECM関連だけでも、パット・メセニー、ジョン・スコフィールド、ピーター・アースキン、イリーアーヌ・イリアスなどがいる。

エリックが、イルカのジャケットが印象的なアルバム『Skydance』をリリースしたのは2010年。この15年間、その活動の急速な広がりと深化の一方、エリックがリーダーアルバムを1枚も出していなかったのは驚きですらある。皮肉なことにエリックが参加したアルバムは多すぎて本人も何枚か分からないくらいだ。パーソナルマネージャーでもあるの妻の勧めもあり、またKAJIMOTOがマネージメントを支えたこともあり、アルバムリリースを決意した。

現在の活動のコアとなっているビッグバンド「ブルーノート東京オールスター・ジャズ・オーケストラ directed by エリック・ミヤシロ」の発足のきっかけは、2011年3月11日の東日本大地震・津波後のブルーノート東京での復興支援イベントと認識しているので、そこの記録が抜け落ちているわけだ。その間でも『佐藤竹善/Rockin’ It Jazz Orchestra Live in Osaka 〜Cornerstones 7〜』(2019年12月ライヴ録音)は重要なそして魅力を余すところなく捉えた記録となっている。

『Blue Horizon』は、記事冒頭に記したように3つの編成で演奏されている。ひとつは、「ブルーノート東京オールスター・ジャズ・オーケストラ directed by エリック・ミヤシロ」(BNTASJO)に準じるビッグバンド編成。もうひとつは、エリック・ミヤシロ、中川英二郎、本田雅人の3管”Super Brass Sutars”にピアノトリオ(1曲ギターも参加)。最後のひとつはエリック・ミヤシロと小曽根 真のデュオだ。

ビッグバンド編成では、BNTASJOのテーマ曲として、COVID-19の頃、音楽活動が制約される中で想いを込めて作曲された<Blue Horizon>。ハワイ生まれなので海や空の青。地平線を思い浮かべて書いた。他曲のアレンジでも共通するが、エリックの編曲はイルカの動きに似ていると思っていて、ある時は同時に動き、離れていき、やがて集まりながら重なっていき、また同時に動き、ときには跳躍するような、そんなイルカの動きを感じている。
<Catch the Rainbow>は、COVID-19の頃にヤマハの依頼で、エリック・ミヤシロとウェイン・バージェロンの共演を軸にヴァーチュアルビッグバンドとして作られたが、これをリアルで演奏し録音したかったという(ウェインは参加していない)。虹のような多様な色彩感を表現している。
なお、付録Blu-rayには、羽田国際空港 第2ターミナル ANA国際線出発ロビーでの<Blue Horizon>が収録されている。

<Beach Entry>、<Time Wizard>、<North Shore Express>、<Back Stage Pass>の4曲は、エリック・ミヤシロ、中川英二郎、本田雅人のSuper Brass Sutars にピアノトリオ(1曲ギターも参加)。これはビッグバンドでの演奏を中心として作編曲を行なって来たエリックが、小編成でのサウンドに挑戦したもの。普通は小編成から始めてビッグバンドに行くがその逆というのが興味深いところだ。
<Beach Entry>は、ドルフィンスイムなどのためにビーチから海に入って、そしてイルカと泳ぐことをイメージしている。川村 竜(YouTuber ミートたけし)のベースソロも素晴らしい。
<Time Wizard>は管楽器の限界に挑戦するような超絶なフレーズで、時間の魔術師の感じを出している。
<North Shore Express>はお気に入りのノースショアへ行くのに鉄道の特急があったらというイメージから。バークリー音楽大学で寮の同室で、その後バディ・リッチ・バンドなどでも一緒だった、盟友のグレッグ・ギスバートが参加している。ちょうどホノルル空港からカポレイまでの鉄道「Skyline」が開通したばかりというタイミングも少し嬉しい。
<Back Stage Pass>は、影響を受けたブレッカーブラザーズなどへのオマージュであることが一聴して分かる。併せてイエロージャケッツへのオマージュも含むそうだ。

バークリー音楽大学で出会い、尊敬する生涯の友人となったピアニスト小曽根 真。エリックは、小曽根 真No Name Horsesのリードトランペットを20年にわたって務めてきた。アルバムを作るならデュオをと思って連絡すると即答でOKをもらう。<Turquoise Moon>というタイトルもやはり海の色を意識している。ピッコロトランペットのバロック風の出だしが印象的、そしてムードが変わってフリューゲルホルンが優しいフレーズで歌い出し、小曽根のピアノが呼応する。やがてサンバへ。当初は違うもっと凝った曲を用意していたが、前日に思い直して新曲を書いた。曲が降りてくるようだったという。

<Spain>はチック・コリアが亡くなったことを契機に、チックへの想いを胸に編曲。チックはずっと尊敬していて、何度か会って、質問することもできた。南仏ラ・ロック・ダンテロン国際ピアノ・フェスティヴァルでは共演もしている。特に「過去を振り返らずに進む」ことが大事という言葉が印象に残るという。BNTASJOではよくアンコールで演奏される曲で、その意味では、<Blue Horizon>から<Spain>へというブルーノート東京ライブの流れを踏襲している。

バンドに家族ぐるみで参加、サポートするのは、海外、特にトム・ジョビンをはじめブラジルなどでは当たり前のことだが、本作には、エリックの息子の宮城力がトランペットで参加、娘の宮城愛里花が『Blue Horizon』のロゴをデザイン、妻Chihoがパーソナルマネージャーを務め、弟のレスターが写真撮影を行なっている。またピアノで参加している中川就登は中川英二郎の甥で、祖父は中川喜弘(tp)、父は作曲家の中川幸太郎だ。音楽においてファミリー(ハワイ語でオハナ)は大きなインスピレーションと力になる。そんなことも考えながら、『Blue Horizon』を聴く。「聴く者を幸せにする音楽」がそこにあった。次は15年先と言わず、次作も心待ちにしたい。

【ERIC MIYASHIRO LIVE 2025 “Blue Horizon”】
2025年11月3日(月・祝)18:00 東京・よみうり大手町ホール

Trumpet, Flugelhorn, Piccolo Trumpet: エリック・ミヤシロ
Sax, Flute etc.: 本田雅人、渡邉瑠菜、小池修、陸 悠、鈴木 圭
Trumpet, Flugelhorn: 具志堅創、川上鉄平、山崎千裕、宮城 力
Trombone: 中川英二郎、藤村尚輝、高井天音 BassTrombone: 野々下興一
Keyboards: 中川就登 Bass:川村 竜 Drums: 山本真央樹
チケット購入はこちら

ライヴの詳細はこちら

BLUE NOTE TOKYO ALL-STAR JAZZ ORCHESTRA directed by Eric Miyashiro “Blue Horizon”

Catch the Rainbow Yamaha Virtual Big Band feat. Eric Miyashiro and Wayne Bergeron

神野秀雄

神野秀雄 Hideo Kanno 福島県出身。東京大学理学系研究科生物化学専攻修士課程修了。保原中学校吹奏楽部でサックスを始め、福島高校ジャズ研から東京大学ジャズ研へ。『キース・ジャレット/マイ・ソング』を中学で聴いて以来のECMファン。Facebookグループ「ECM Fan Group in Japan - Jazz, Classic & Beyond」を主催。ECMファンの情報交換に活用していただければ幸いだ。

コメントを残す

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください