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CD/DVD DisksNo. 249

#1582 『一噌幸弘 / 幽玄実行』『一噌幸弘 / 物狂 モノグルイ』(セシル・テイラー追悼)

Text by Akira Saito 齊藤聡

『幽玄実行』

tohyohyo music tohyohyo-006

Yukihiro Isso 一噌幸弘 (能管, 田楽笛, 篠笛, recorder, 角笛)
Yoriyuki Harada 原田依幸 (p)
Ko Ishikawa 石川高 (笙)
Takinojo Mochizuki 望月太喜之丞 (邦楽打楽器)

2011年3月1日 新宿ピットインでライヴ録音

『物狂 モノグルイ』

tohyohyo music tohyohyo-007/008

Yukihiro Isso 一噌幸弘 (能管, 田楽笛, 篠笛, recorder, 角笛)
Yoriyuki Harada 原田依幸 (p)
Tatsuya Yoshida 吉田達也 (ds)

2011年2月4日 吉祥寺マンダラ2でライヴ録音

能楽師・一噌幸弘は、ペーター・ブロッツマン、ロジャー・ターナー、坂田明、山下洋輔らフリージャズやインプロの音楽家たちとの共演も少なからず積み重ねている。また、セシル・テイラーとは、1992年の「白州・夏・フェスティバル ’92」において富樫雅彦とともにトリオを組んでいる。随分と風変りな体験でありながらも、テイラーの素晴らしい演奏はいまも一噌の記憶に刻まれているようだ。

>> #170 能楽一噌流笛方15代目 一噌幸弘

そして今般、一噌はふたつのテイラー追悼作を出した。敢えていえばテイラーと共通するところがなくもない原田依幸が、両作品でピアノを弾いている。だが、今回の追悼は、目に見えるようテイラーに関連付けるのではなく、同じ時代と場所を共有した者として、一噌自身の現在のフリージャズを提示したということではないか。

『幽玄実行』

冒頭の「カカリ」においては、空中を揺れ動く一噌の笛と並行して、石川の笙が全体のエネルギー水準を持ち上げ、また引き下げもする。聴く者はそのありように化かされたように朦朧とするものの、望月の叩きと原田のピアノとの介入により、眠りを醒まさせられる。そうなると石川の笙がキーボードのように横滑りする面白さがある。「初段」では一転し、過去との連続性を断ち切るがごとき原田のピアノが一噌と対峙する。両者の間に摩擦が感じられないにも拘らず、おのおのがピークを提示する、そのぴりぴりとした空気は対決にちかい。

「二段」は静寂の中、望月の掛け声と鼓ではじまる。一分半が過ぎ、原田の内部奏法が緊張で止まっていた息を吐き出させる。どばどばどばと駆ける原田と悠然とした望月、別々の時間が流れているようだ。確かに、活力と構築という一見無関係な要素を共存させるセシル・テイラーの世界が、原田の中にも生きている。

「三段」では、一旦溜めたエネルギーを一噌が再度放出する。全員が一噌にかかっていく感覚だ。一噌は折れず、リコーダーすらも念の放出器たらしめる。石川もまた並走している。最後の「空段」では四者がまたも短時間で高みを目指し締めくくる。

『物狂 モノグルイ』

ここに吉田達也が入り、裸の一噌と原田とあいまみえるとどうなるか。ともかくも前へ前へと進むために徹頭徹尾全精力を注入する吉田のドラミングが、サウンドを『幽玄実行』とはまったく異なるものとしている。一噌も原田もここでは吉田に煽られているようにも思える。だが、これは一本調子のイケイケのサウンドなどではない。一噌の笛の音は、強さも速度も実に多彩であって、それがサイケデリックなほどの彩りとともに目まぐるしく変貌を繰り返す。それは原田のピアノもまた同じなのである。

「1-2」になり、何者かが憑依したかのような滞留があって、やがて原田が疾走し、モノノケ一噌が場に戻る。ふと気づくと吉田のボディブローがサウンド内部に蓄積している。とは言え、一噌には煽られるというより煽りを引き寄せる強さがある。原田の大爆発ののち、悠然と笛を吹く一噌。「2-1」では、息を多くした笛の音に、原田が楔を抑制気味に打ち込んでゆく。「2-2」においては、一噌のリコーダーに対峙する吉田のドラムスが、まるでタップダンスのようだ。「2-3」に至り原田と吉田が激突する。どちらがダビデでどちらがゴリアテか。

「2-4」では幽玄サウンドの一方でピアノが煌き、ドラムスのパルスが圧とともに放たれては消えてゆく。しかもその強度は右肩上がりだ。「2-5」、今度は一噌、続いて原田が吉田を煽る。そして最後の「2-6」において、一噌のバイブレーションがボンドとなって三者をつなぎあわせてみせる。

長い演奏の記録だが、その展開は鮮やかだ。

(文中敬称略)

齊藤聡

齊藤 聡(さいとうあきら) 著書に『新しい排出権』、『齋藤徹の芸術 コントラバスが描く運動体』、共著に『温室効果ガス削減と排出量取引』、『これでいいのか福島原発事故報道』、『阿部薫2020 僕の前に誰もいなかった』、『AA 五十年後のアルバート・アイラー』(細田成嗣編著)、『開かれた音楽のアンソロジー〜フリージャズ&フリーミュージック 1981~2000』、『高木元輝~フリージャズサックスのパイオニア』など。『JazzTokyo』、『ele-king』、『Voyage』、『New York City Jazz Records』、『Jazz Right Now』、『Taiwan Beats』、『オフショア』、『Jaz.in』、『ミュージック・マガジン』などに寄稿。ブログ http://blog.goo.ne.jp/sightsong

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