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CD/DVD DisksNo. 218

#1314 『Murray, Allen, Carrington, Power Trio / Perfection』

text & photo by Takehiko Tokiwa  常盤武彦

motéma music MTA-CD-193

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David Murray (ts,b-cl)
Geri Allen (p)
Terri Lyne Carrington (ds,voice)
Charnett Moffett (b,6)
Craig Harris (tb,6)
Wallace Roney Jr. (tp,6)

  1. Mirror of Youth
  2. Barbara Allen
  3. Geri-Rigged
  4. The David, Geri & Terri Show
  5. The Nurturer
  6. Perfection
  7. D Special (Interlude)
  8. Samsara (for Wayne)
  9. For Fr. Peter O’Brien
  10. Cycles and Seasons

Recorded by Katherine Miller at Avatar Studios, NYC on June 18 & 19, 2015.

Produced by Terri Lyne Carrington  Co- Produced by Geri Allen & David Murray

 

もはやヴェテランの域に達している、デイヴィッド・マレイ (ts,b-cl)、ジェリ・アレン (p)、テリ・リン・キャリントン (ds) がニュー・ユニット、“Power Trio” を結成し、昨年なくなったオーネット・コールマン (as,tp,vln)、チャーリー・ヘイデン (b)、マーカス・ベルグレイヴ (tp) らにトリビュートを捧げた、アルバム『Perfectkon』をリリースした。ベースレスの変則トリオは、オーネットのスピリットを受け継ぎ、フリーキーでありながらメロディアスな音世界の現在形を描く。

アレンとキャリントンは長年のコラボレーターである。近年は、キャリントンのモザイク・プロジェクトや、エスペランサ・スポルディング (b,vo) を含むトリオでの活動を展開しているが、長い共演歴でベースレスの編成で演奏するのは初めてのチャレンジである。2015年年頭のウィンター・ジャズ・フェストNYCでデイヴィッド・マレイが加わったトリオを結成し、オーネット・グループのメンバーだったエド・ブラックウェル (ds) に、トリビュートを捧げた。

 

 

ステージでケミストリーは、やはり起きた。マレイのパワフルなサックス・プレイはアレンとキャリントンを刺激し、ベースは、マレイのバス・クラリネットとテナー・サックスの低音部、キャリントンのバス・バスドラムが担い、ベーシストの不在を感じさせない、むしろ自由に解き放たれたメロディが、縦横無尽に展開する。6月にレコーディングを予定した3人だったが、スタジオに再集結する一週間前の6月11日に、オーネットの訃報に触れる。70年代からオーネットをメンターとして慕ったマレイ、90年代にオーネットのグループで行動を共にしたアレン、オーネットの音楽から大きな影響を受けたキャリントンは、その感謝を音楽に込めることを決意した。マレイが提供した。オーネットのオリジナル“Perfections”は、生前のオーネットがレコーディングはしなかったが、しばしば演奏した曲だそうだ。1974年の若き日のマレイが、60年代にオーネットの演奏をトランスクライブしたボビー・ブラフォード (tp) から教えを受けた、思い出の曲だそうだ。この曲のみ、オーネットの名の一部を名前にもらったチャーネット・モフェット (b)、オーネット・グループにいたクレイグ・ハリス (tb)、2013年のセレブレイト・ブルックリン!で共演した若手のウォレス・ルーニー・Jr (tp、ウォレス・ルーニーの子息)が参加し、オーネットのフォーマットを忠実に再現した。

 

 

2015年にはオーネットの盟友の、チャーリー・ヘイデン (b) も逝去した。生前ヘイデン、ポール・モチアン (ds) のトリオでも長く活動したアレンは、ヘイデンの思い出を、ヘイデンが愛した美しいトラディショナル・バラード “Barbara Allen” に託した。マレイのスピリチュアルなソロが、哀惜を喚起する。“Barbara Allen” とは、アレンの母の名でもあり、母への思慕も添えられている。多くの優秀なジャズ・ミュージシャンを輩出しているデトロイト出身のアレンは、メンターの一人、デトロイト・ジャズのアイコンであるマーカス・ベルグレイヴ (tp) も喪った。キャリントンのタイトなビートを “The Nurturer” (アレン作)で刻み、黄金時代のレイ・チャールス (p,vo)・グループの中枢を担ったベルグレイヴに思いを馳せる。アレンの友人では、女性ジャズ・ピアニストのパイオニア、メリー・ルー・ウィリアムス (p,vo)  のマネージャーで支援者だったピーター・オブライエンも鬼籍に入った。アレンは小粋なスウィング “For Fr. Peter O’Brien” で故人を偲ぶ。キャリントンは、90年代にグループに起用され薫陶を受けた恩師ウェイン・ショーター (ts) に、オマージュを捧げるバラード “Samsara (for Wayne)” を書き下ろした。マレイが奏でる美しいメロディの後ろで、アレンとキャリントンがアグレッシヴなラインとリズムの動きを聴かせるコントラストが、絶妙だ。

 

 

5月19日のニューヨーク、バードランドにおけるCDリリース・ライヴは、3人が故人への思い出を語りながら、それぞれのオリジナルを演奏した。パワー・トリオの名にふさわしい豪快なプレイから、緊密なインタープレイ、繊細なバラード・プレイと、このグループのダイナミックレンジのとてつもない大きさには驚嘆させられた。エンディングはオーネットの “Perfections”。先人達に感謝を捧げ、その音楽を継承し、さらに進化させるデイヴィッド・マレイ、ジェリ・アレン、テリ・リン・キャリントンの強い意志が、サウンドに宿る。

 

 

 

常盤武彦

常盤武彦 Takehiko Tokiwa 1965年横浜市出身。慶應義塾大学を経て、1988年渡米。ニューヨーク大学ティッシュ・スクール・オブ・ジ・アート(芸術学部)フォトグラフィ専攻に留学。同校卒業後、ニューヨークを拠点に、音楽を中心とした、撮影、執筆活動を展開し、現在に至る。著書に、『ジャズでめぐるニューヨーク』(角川oneテーマ21、2006)、『ニューヨーク アウトドアコンサートの楽しみ』(産業編集センター、2010)がある。2017年4月、29年のニューヨーク生活を終えて帰国。翌年2010年以降の目撃してきたニューヨーク・ジャズ・シーンの変遷をまとめた『New York Jazz Update』(小学館、2018)を上梓。現在横浜在住。デトロイト・ジャズ・フェスティヴァルと日本のジャズ・フェスティヴァルの交流プロジェクトに携わり、オフィシャル・フォトグラファーとして毎年8月下旬から9月初旬にかけて渡米し、最新のアメリカのジャズ・シーンを引き続き追っている。Official Website : https://tokiwaphoto.com/

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