#2046『Ensemble Shippolly / Dancing Shippolly』
『アンサンブル・シッポリィ/ダンシング・シッポリィ』
Text by Akira Saito 齊藤聡
NITECO STUDIO & MUSIC ARTS
西島 芳 Kaori Nishijima (piano/keyboard/voice)
武井 努 Tsutomu Takei (tenor&soprano saxophone, clarinet,flute)
中山雄貴 Yuki Nakayama (trombone)
有本羅人 Rabito Arimoto (trumpet, flugelhorn, bass clarinet)
1. ミラクル
2. discolomotion
3. リニア
4. Night Scene
5. すねぼん
6. It Don’t Mean A Thing (If It Ain’t Got That Swing)
7. Manteca
8. リレー
9. Dancing Shippolly
Produced by Kaori Nishijima
Music & Mixed by Ensemble Shippolly
Recorded & Mastered by Akihiko Goto
Piano Tuning by Yuko Suzuki
Recorded at 100BAN HALL, Kobe
Art Direction by Kaori Nishijima & Yuya Ozaki
Design by Yuya Ozaki (wild pitch)
Woodcut print by Kazumi Ozaki
関西を拠点に活動するピアニスト西島芳によるグループ、アンサンブル・シッポリィの第2作が届いた。このグループのテーマは「息のかさなり」であるという。もとより西島の音楽にはそのようなところがある。市野元彦(g)、外山明(ds)とのトリオSononiも、また吉野弘志(b)、白石美徳(ds)によるtriogyも、西島のヴォイスとピアノによる独特のハーモニーのやさしさがあってこそのかさなりのサウンドだ。
そして本盤において、「息のかさなり」の繊細さが、前作『Very Shippolly』(2018年)よりも大胆に、遊び心とともに伝わってくる。器楽的なアンサンブル感覚よりも、ここちよい社交空間で信頼する友人とやさしく話している感覚、といったところだ。親密でありながら無粋に騒いだり叫んだりすることなく、確信犯的に皆で声を抑えた静かな会話のありようが、サウンドに変化したようである。気持ちのよい間合いのためか、サウンド全体にまるでヴォーカリーズのような雰囲気が漂っており、楽器が会話の中にあってひとの話し声として機能している。
たとえば、アーマッド・ジャマルのピアノが持つ音と音との間の広い空間。あるいは、アルマンド・トロヴァヨーリのピアノやアンサンブルが発散するオシャレな付き合いの雰囲気。そんなものを想起させるサウンドでもある。だが、それらよりもっと風通しの良い空間に開かれている。Sononiやtriogyと違ってベースやドラムスという音の錨がないために、なおさら、ほろ酔いで歩いてゆけるのかもしれない。
そのような関係性の音楽は、<すねぼん>において、メンバー全員でそや、そや、と言い合ってひとの社会を創り出しているところに表れている。ディジー・ガレスピーの<Manteca>においては、こんなふうにと示し合わせて皆で形をこねているような印象がある。また、<discolomotion>は個々の音を合わせるよりも横の広がりを持っていて、音の響きという薄紙を重ね合わせるようなハーモニーだ。近づいたり離れたりする薄紙どうしの隙間にサウンドの秘密が見え隠れする。
空間の広がりだけではない。<リニア>では多重録音のかさなりが物語のかさなりともなっており、そのためか、聴き手は時間を遡及し、何か個人的なことを思い出してしまう。アルバムを締めくくる<Dancing Shippolly>では、ピアノが、踊りながら仰ぎ見る星空のようだ。
コロナ禍におけるアンサンブルのニューノーマル(新常態)とも思えるサウンドだが、人間界がどうあれ、これは空に向かって開かれている。深呼吸してみよう。そこに大きな希望がある。
(文中敬称略)
有本羅人、アンサンブル・シッポリィ、西島芳、武井努、中山雄貴