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Jazz and Far Beyond

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CD/DVD DisksNo. 275

#2063 『Liudas Mockūnas / In Residency at Bitches Brew』
『リューダス・モツクーナス/イン・レジデンシー・アット・ビッチェズ・ブリュー』

Text and photos by Akira Saito 齊藤聡

NoBusiness Records

1. BROWN LINE
坂田明 Akira Sakata cl, Liudas Mockūnas ss
2. YELLOW LINE
纐纈雅代 Masayo Koketsu as, Liudas Mockūnas ss, water prepared ss
3. RED LINE
梅津和時 Kazutoki Umezu bcl, cl, ss, as, Liudas Mockūnas ss
4. GREEN LINE
大友良英 Yoshihide Otomo g, 梅津和時 Kazutoki Umezu bcl, ss, as, Liudas Mockūnas ts
5. BLUE LINE
坂田明 Akira Sakata cl, as, vc, 林栄一 Eiichi Hayashi as, Liudas Mockūnas ts, ss

Recorded at Bitches Brew in Yokohama, December 2018 by Liudas Mockūnas
Mixed at KDK by Dainius Kazilionis and Liudas Mockūnas
Mastered at KDK by Dainius Kazilionis
Design by Neringa Žukauskaitė
Photos by Kenny Inaoka, Liudas Mockūnas
Produced by Liudas Mockūnas and Danas Mikailionis
Co-producer Valerij Anosov

本盤は、リトアニアのサックス奏者リューダス・モツクーナスが2018年末に来日し、Bitches Brew(横浜市)において4日間連続のライヴを行ったときの記録である。迎える音楽家たちは「日本の最強インプロヴァイザー軍団」との宣伝文句に恥じない面々だった。

坂田明が吹くけれん味たっぷりのクラリネットの横で、リューダスのソプラノは一瞬一瞬の激変だけではなくもっと長い周期のうねりもみせる。淡々と吹いていたかと思えばいつの間にかエネルギーレベルを迫り上げ、またときに坂田のクラリネットに擬態するかのように色を変える。たとえばスティーヴ・レイシーのソプラノが1本で旅をするようにその航路や音色を変えていくものだとして、リューダスのアプローチは異なる複数本の意思が並行して走っているようであり、まったく異なっている。

異国からの旅人だということを意識したのだろうか、纐纈雅代は大きめのヴィブラートとともに日本風にも聴こえる堂々としたアルトソロを吹く。対するリューダスは水を張ったバケツに楽器を入れて異音を出し、そこから上陸すると千変万化する機械の怪物のようになって、ソプラノで重たい銃弾を撃ち込みまくる。だが纐纈も怯まず他の様態に化けつつ、最後まで艶やかにも激しくも舞う。

梅津和時とのデュオにおいてリューダスははじめからソプラノで自由を得て縦横無尽に飛翔する。リューダスに下から叩き上げるようにして力を与えているのが梅津のバスクラリネットであることは明らかだ。そのことは梅津が楽器をさまざまに持ち換えても変わらない。アルトやソプラノでより両者の音域を近づけ、リューダスの濁ったソプラノと行う空中きりもみショウはみごとであり、終盤にふたりで空間を沸騰させる時間などは耳が離せない。観客も呆然としていたのではないか。

リューダスと梅津、さらに大友良英が入ったトリオにおいては、大友が教会の鐘のような音で薄暗さを作り出す中で、リューダスがゆったりとテナーを吹く。循環呼吸奏法でありながら音色の変化を制御する技術は驚嘆すべきものにちがいない。梅津はアルトやソプラノの同じフレーズを執拗に繰り返して精神戦を仕掛け、バスクラリネットで上下から揺さぶりをかける。それに呼応するリューダスの重心は低く、愉快なほどに揺るがない。ブルージーに塩辛いブロウは慣性が大きいためにずっとサウンドの中心位置を占め、それに並走して場に暁の雰囲気を与え続ける大友のギターの強さにも驚かされる。そして、三者の音は三様の独立から複層的なものに化してゆく。

最終曲はリューダス、坂田に林栄一が加わったトリオである。坂田が唸って謡い、林がアルトから濁った生命力を絞り出す。ここでもリューダスはどっしりとして揺るがない。坂田がクラリネットに持ち替えてからの三者のからみあいは文字通り絢爛豪華だ。

これらの音を追体験する者は、リューダス・モツクーナスが大規模なエンジンを活かした大きな慣性と、精緻で野心的なマチエールを次々に提示する技術の両方を持っていることを実感するだろう。

(文中敬称略)

齊藤聡

齊藤 聡(さいとうあきら) 著書に『新しい排出権』、『齋藤徹の芸術 コントラバスが描く運動体』、共著に『温室効果ガス削減と排出量取引』、『これでいいのか福島原発事故報道』、『阿部薫2020 僕の前に誰もいなかった』、『AA 五十年後のアルバート・アイラー』(細田成嗣編著)、『開かれた音楽のアンソロジー〜フリージャズ&フリーミュージック 1981~2000』、『高木元輝~フリージャズサックスのパイオニア』など。『JazzTokyo』、『ele-king』、『Voyage』、『New York City Jazz Records』、『Jazz Right Now』、『Taiwan Beats』、『オフショア』、『Jaz.in』、『ミュージック・マガジン』などに寄稿。ブログ http://blog.goo.ne.jp/sightsong

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