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CD/DVD DisksNo. 279

#2098 『Vasko Atanasovski ADRABESA Quartet / Phoenix』
『ヴァスコ・アタナソフスキ・アドラベサ・カルテット/フェニックス』

text by  岡崎凛  Ring Okazaki

MoonJune Recordsは、2001年に音楽プロデューサーのLeonardo Pavkovic(レオナルド・パヴコヴィチ)によってNYに設立された音楽レーベルであり、プログレッシヴ・ロック、ジャズ・ロック、ワールドミュージックなどを扱い、ジャンルの垣根を超えた進歩的、前衛的な音楽の創成を目指している(No. 278 #2089 参照)。
#2089では、旧ユーゴ圏のボスニア・ヘルツェゴビナ出身のスルジャン・イヴァノヴィチのリーダー作を紹介したが、今回はクロアチアを挟んでその隣国となるスロヴァニアのサックス奏者、ヴァスコ・アタナソフスキの最新作を紹介したいと思う。MoonJune Recordsのレオナルド・パヴコヴィチはボスニア・ヘルツェゴビナ出身であり、旧ユーゴ圏の音楽家の後押しに積極的だ。彼らがヨーロッパや米国、全世界で広く活躍するように願うレーベルオーナーの想いが、本作からも伝わってくる。
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MoonJune Records  2020年11月11日リリース
試聴など:https://vaskoatanasovski-moonjune.bandcamp.com/album/phoenix

ADRABESA Quartet:
Vasko Atanasovski  (sax, flute) [Slovenia] ヴァスコ・アタナソフスキ
Simone Zanchini  (accordion) [Italy] シモーネ・ザンキーニ
Michel Godard (tuba,serpent) [France] ミシェル・ゴダール
Bodek Janke (drums & tabla) [Poland/Germany] ボデク・ヤンケ
Special guest: Ariel Vei Atanasovski (cello) [Slovenia] アリエル・ヴェイ・アタナソフスキ

1​. Meeting  4:38
2. Green Nymph 6:36
3. The Partisan Song 3:58
4. Liberation 11:18
5. Balet 3:35
6. Concerto Epico 7:31
7. Thornica 6:14
8. Yellow Sky 3:20
9. Outro 3:44

Recorded on 29th November 2019 at RTV Slovenia Studio Maribor.
Recorded, mixed and mastered by Danilo Ženko.
All compositions by Vasko Atanasovski except: Outro (collective improvisation)

ヴァスコ・アタナソフスキはスロヴェニアのサックス奏者・ヴォーカリストで、ロック、ポップス、ジャズ、フォークと、ふだんから活動の幅は広い。本作で彼は、バルカン地域や地中海沿岸域の音楽ルーツに触れるような楽曲を作り、フォークロア方面での活躍が目ざましいジャズ・ミュージシャンを、イタリア、フランス、ドイツ(ポーランド)より呼び寄せてカルテットを結成し、チェリストである彼の息子をゲストに加えてアルバム録音に臨んだ。

このような説明をすると、技巧派の演奏家が古楽を極めるようなエスノジャズが聴こえてきそうだが、このカルテットは、フォークを入り口に、現代のジャズシーンへするりと流れ込んでいくのが特徴であり、重厚感とフットワークの軽さが共存するのが強みだ。その立役者として、特に重要なのが、フランス人のチューバ奏者、ミシェル・ゴダールだろう。ずしずしと足踏みのように響くチューバの低音が闊達に動き回り、生き生きとしたカルテットの鼓動に触れるようだ。最終曲で彼が吹く伝統的楽器セルパンの音も印象的である。

収録曲について:

1.〈Meeting〉ゲストのアリエル・ヴェイ・アタナソフスキの弾くチェロから、抒情的というより、泣きのメロディーに近いものが聴こえてくる。重厚感ある彼のソロのあと、軽快なフォークロア風になるこの曲は、本アルバムのエッセンスを語るような、オープニングに相応しい作品。
2.〈Green Nymph〉1.と同様にチェロのソロが美しく、今度はクラシカルな気品に満ちている。それに続くシモーネ・ザンキーニのアコーディオンの音も絶品。哀愁漂う曲の後方で、チューバの低音がゆったりと動き回る。ゆったりとした宮廷舞踊を連想させる曲で、複雑な拍子を追うのが楽しい。
3.〈The Partisan Song〉は前曲と対照的にスピード感あふれる賑やかな曲。
4.〈Liberation〉教会音楽を思わせるバッハのようなメロディーが流れ、その厳かな雰囲気を保ったままプログレっぽい展開となる。だんだんスピードが速くなり、地中海周辺のフォークロアに傾倒していく。
5.〈balet〉賑やかな曲で、チューバのソロがカッコいい。ドラマー、ボデク・ヤンケの間髪入れぬ反応も素晴らしい。最初、「これはカバー曲なのか?」とリスナーに思わせる「仕掛け」があり、すぐに違うと分かるのだが、「何だか有名なあの曲と似ている」感じをキープする「遊び」を、演奏する側も、聴く側も全力で楽しむ一曲だ。
6.〈Concerto Epico〉スピーディーなロマミュージック風に始まるが、途中からフリーインプロの応酬となる。カオスのような状態になりながら。しっかりハーモニーをキープしている。これはちょっと、エルメート・パスコワール風では?と考えていると、また、踊り出したくなるような音楽に戻っていた。
7.〈Thornica〉はタブラの音に始まるアラブ風音楽。ヤンケのパーカッションのキレの良さは唖然とするほどだ。4人のグルーヴ感が素晴らしく、濃厚さと歯切れよさが同時進行する。
8.〈Yellow Sky〉定番的な曲調なのに、達人4人のキレのいい演奏に圧倒される高速クレズマー曲。
9.〈Outro〉蛇型の管楽器、セルパンの素朴な音が印象的だ。全員の即興の真ん中から響き渡っていく。

ADRABESA Quartetの紹介動画:

岡崎凛

岡崎凛 Ring Okazaki 2000年頃から自分のブログなどに音楽記事を書く。その後スロヴァキアの音楽ファンとの交流をきっかけに中欧ジャズやフォークへの関心を強め、2014年にDU BOOKS「中央ヨーロッパ 現在進行形ミュージックシーン・ディスクガイド」でスロヴァキア、ハンガリー、チェコのアルバムを紹介。現在は関西の無料月刊ジャズ情報誌WAY OUT WESTで新譜を紹介中(月に2枚程度)。ピアノトリオ、フリージャズ、ブルースその他、あらゆる良盤に出会うのが楽しみです。

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