#2156 『Adam Rudolph, Go: Organic Guitar Orchestra / Resonant Bodies』
『アダム・ルドルフ、ゴー:オーガニック・ギター・オーケストラ/共鳴体』

閲覧回数 16,873 回

text by 剛田武 Takeshi Goda

CD/DL: Meta Records – Meta 026

As heard stereo from left to right:
Liberty Ellman – electric guitar
Nels Cline – electric guitar
Joel Harrison – electric guitar, national steel guitar
Jerome Harris – electric and bass guitar, lap steel guitar
Miles Okazaki – electric guitar
Damon Banks – electric bass guitar
Marco Cappelli – acoustic guitar
David Gilmore – electric guitar
Kenny Wessel – electric guitar

Adam Rudolph – handrumset (on Deneb only)

1. Parallax
2. Albireo
3. Eta
4. Mira
5. Fawaris
6. Dolidze
7. Cygnus
8. Gliese
9. Deneb

Music composed and spontaneously conducted by Adam Rudolph
Interpretation and realization by the ensemble

Recorded live at Roulette Intermedium, Brooklyn, NY on November 23, 2015 by Caley Monahon-Ward
Mixed and mastered by James Dellatacoma at Orange Sound Studio, NJ
Organic arrangements and orchestration by Adam Rudolph

Bandcamp
Adam Rudolph Official Site

合計63弦の有機的即興楽団による天地創造の試み

“ワールド・ミュージックの創始者”(NYタイムズ)、“パーカッションの達人”(Musician誌)と評されるシカゴ出身の作曲家/インプロヴァイザー/パーカッショニスト、アダム・ルドルフがニューヨークの精鋭的ミュージシャンを集めて結成したギター・オーケストラ。ルドルフのスポンテニアスなコンポジションと、ロック/ジャズ/R&B/ワールド・ミュージック/アヴァンギャルドとジャンルを超えて活動する9人の実力派ギタリストとベーシストのフリー・インプロヴィゼーションが未知のサウンドを創造する。

アダム・ルドルフは1955年シカゴ生まれ。アフリカ系の住民が多い地区で幼少の頃からブルースやジャズに親しんで育った。10代の頃にハンド・ドラムを演奏しはじめ、シカゴやデトロイトでセッションやライヴ活動をスタート、1973年にMaulawi Nururdinのアルバム『Maulawi』にコンガで参加する。1978年にアフリカのミュージシャンとともにThe Mandingo Griot Societyを結成、ワールド・ミュージックの先駆者となる。1988年にサックス奏者ユーゼフ・ラティーフと出会いドラマーとして共演するとともにプロデューサーとしてもコラボレーション。自己のグループAdam Rudolph’s Moving Pictures、Hu: Vibrational percussion group、Go: Organic Orchestraなどで活動。これまでにDon Cherry, Jon Hassell, Sam Rivers, Pharaoh Sanders, L. Shankar, A.A.C.Mの共同創始者のFred AndersonとMuhal Richard Abrams, Wadada Leo Smith, Omar Sosaなどと共演している。

ルドルフは2002年から“21世紀の未来型オーケストラ”=Go: Organic Orchestraの名のもとに多彩な編成のビッグバンドによる作品を発表してきた。初期は11人のパーカッショニストと11人のフルート/クラリネット奏者の編成だったが、2005年に弦楽や金管楽器を含む30人編成になり、2014年にはギターのみの編成でコンサート・ツアーを行った。民族楽器も西洋楽器も区別なく取り込み、特定のスコアを使わず個々の演奏者の感性に任せた即興的なアンサンブルを尊重するスタイルは、異文化のミクスチャーとしてのワールド・ミュージックではなく、人類共通の音楽表現から生まれる多様性を包括したヒューマン・ミュージックと呼ぶにふさわしい。

Photo by Scott Friedlander

本作は先述のギター編成=Go: Organic Guitar Orchestraツアーの最終公演、2015年11月23日ブルックリン・ルーレット・インターメディアでのライヴ・レコーディング。9人の演奏者はそれぞれ自己のグループやソロで活動する他、例えばケニー・ウェッセルはオーネット・コールマンのプライム・タイム、ジェローム・ハリスはソニー・ロリンズやジャック・デジョネット、デイヴィッド・ギルモア(ピンク・フロイドのギタリストとは別人)はウェイン・ショーターやカサンドラ・ウィルソン、リバティ・エルマンはヘンリー・スレッギル、といった錚々たるミュージシャンと共演する猛者揃い。ネルス・クライン はロックバンドWilcoのギタリストとして知られるが、80年代からアヴァンギャルド・ジャズ・シーンで活動し、昨年公開されたフリージャズのドキュメンタリー映画『Fire Music』のエグゼティヴ・プロデューサーを務めるなど前衛ジャズの愛好家/擁護者として有名。また、ジョエル・ハリソンは、2010年にニューヨークで始まった年に一度の創造的ギター音楽の祭典「オルタナティヴ・ギター・サミット」の創設者でもある。

Go: Organic Guitar Orchestraの結成にあたって、ルドルフが演奏者たちにリクエストしたのは、自分がギタリストではなく、例えばオーボエ、シンガー、モーグ・シンセ、鳥の群れなどをプレイしているとイメージすることだった。異なる楽器のスタイルやテクニックにインスパイアされて、今までのギターにはない新しい音が生まれることを期待したのである。その結果、創造性と多様性に満ちた、9人合計で63本の弦と108のペダル(エフェクター)による異次元のアンサンブルが生まれた。アルバム・タイトルの『Resonant Bodies(共鳴体)』とはギターのボディであるとともに人間のボディ(身体)をも意味する。ルドルフは語る。「サン・ラは“Space Is the Place(宇宙こそその場所)”と言ったが、私はさらに場所が広がるほど共鳴の余地が増える、と付け加えたい。それは物理の領域だけでなく、人間の意識に於いても真実だ」。サン・ラの言葉に準えて、楽曲タイトルは白鳥座を構成する星の名前がつけられた。

様々な奏法とエレクトリック・エフェクトによる多様なギターとベースが融合・衝突・調和・分断・接触・分離するブラウン運動のようなサウンドは、聴覚的にはピエール・シェフェールやシュトックハウゼン、ヴァレーズなどの電子音楽を思わせるが、スチール弦を振動させて発生する物理的なレゾナンス(音響)はギター・サウンドであることを強く主張する。いわばメタフィジカルとフィジカルのアンビバレンツ(二律背反)をオーガニック(有機的)に内包する音響体である。それは、同じくコスモス(調和)とカオス(混沌)のアンビバレンツを内包する宇宙の縮図であり、レゾナント・レプリカ(音響複製)である。つまりアダム・ルドルフと9人のギタリストが創造した『共鳴体』は、音響による宇宙の箱庭化であり、モーゼの『創世記』に描かれた天地創造の再検証と言えるだろう。検証結果はこのアルバムを聴いたあなたの心の中に生まれる共鳴の大きさによって量れるに違いない。(2022年1月31日記)

剛田武

剛田 武 Takeshi Goda 1962年千葉県船橋市生まれ。東京大学文学部卒。会社勤務の傍ら「地下ブロガー」として活動する。近刊『地下音楽への招待』(ロフトブックス)。 ブログ「A Challenge To Fate」、DJイベント「盤魔殿」主宰

コメントを残す

%d人のブロガーが「いいね」をつけました。