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CD/DVD DisksNo. 294

#2200 『大友良英スペシャルビッグバンド/Stone Stone Stone』
『Otomo Yoshihide Special Big Band / Stone Stone Stone』

Text by Hideo Kanno

大友良英スペシャルビッグバンド『Stone Stone Stone』
『OTOMO YOSHIHIDE SPECIAL BIG BAND / Stone Stone Stone』

Little Stone Records LSR002 (2022年8月31日リリース)

1 Stone Stone Stone (大友良英)
2 悲しくてやりきれない Kanashikute Yarikirenai
3 Music for Kinue Hitomi (大友良英)
4 孤独の歳月 Années de solitude (加藤和彦 / サトウハチロー)
5 Song for Che (Charlie Haden) 〜 Reducing Agent (大友良英)
6 GINGA (大友良英)
7 Music for Taiji Tonoyama (大友良英)
8 Gallophy (大友良英)
9 Hong Kong Hong Kong Hong Kong (大友良英)

Recorded at Victor Studio on June 14, 2020, except for track 7 which was recorded at Sound City on January 9, 2021.
Additional recordings were made at Iroha Studio on August 8, 2020, and at GRID301 and in the homes of guest musicians between 2020-2022.
Recording Mixing Mastering Engineer : 中村茂樹 Nakamura Shigeki
Produced by 大友良英 Otomo Yoshihide
※メンバーとクレジットは記事下方をご参照いただきたい。

大友良英が2013年連続テレビ小説「あまちゃん」の音楽を担当したことをきっかけに生まれた「大友良英スペシャルビッグバンド」。メンバーたちとの出会いについては、2013年6月アサヒビールロビーコンサートのライヴレポートに書いていたので自分でも読み返してみた。2013年12月31日、紅白歌合戦出演を経て「あまちゃんスペシャルビッグバンド」から「大友良英スペシャルビッグバンド」に改称した。2019年大河ドラマ「いだてん」を含め、大友の数々の劇伴制作の中核を担うチームとなり、同時に「フェスティバルFUKUSHIMA!」「アンサンブルズTOKYO」、各地の盆踊りプロジェクトを担い、また新宿ピットインで定期的にライヴを行ってきた。多くのサウンドトラックに録音を残しているが、バンドとしては2014年12月29日のライヴを記録した『大友良英 SPECIAL BIG BAND LIVE AT SHINJUKU PIT INN』 (望月由美によるレヴュー)がある他では、2022年8月リリースの『Stone Stone Stone』が結成約10年を経ての初のスタジオ録音盤となる。

『Stone Stone Stone』の制作は、COVID-19下の2020年6月に始まった。それまではライブやイベントで頻繁に会っていたメンバーとスタジオで久しぶりに共に演奏し、また遠く離れた仲間たちとリモート録音を行なった。大友は当時声をかけるきっかけが欲しかったとも語っていた。このためレギュラーメンバーだけの音に比べて、異なる彩りや賑やかさが生まれそれがこのアルバムの魅力となっている。大友も2022年からはフェスティバルFUKUSHIMA!をはじめとするイベントや海外遠征も再開となったが、このCOVID-19下の困難な状況と想いがあったからこその緊張感がポジティヴに作用した素晴らしいアルバムに仕上がっている。アルバムジャケットは大友が敬愛する美術家の毛利悠子とデザイナーの鈴木聖が担当した。

大友良英からのメッセージ 「石を投げろ!」
タイトルの『Stone Stone Stone』もレーベル名の「Little Stone Records」も、同じような思いからつけた名前です。由来は2020年5月20日ツイッターデモで政治状況が少しだけ動いたときの「小さな石をたくさん投げたら山が少し動いた」というある人のツイッターでのつぶやきでした。音楽の制作といういつもやっている仕事もまた、自分にとってはコツコツと小さな石を投げることと同じことだと思うようになりました。これを切っ掛けに、沢山の作品がこの先このレーベルから生まれる予定です。「小さな石をたくさん投げたら山が少し動いた」そんなレーベルになればいいなと思っています。
——
タイトル曲の<Stone Stone Stone>では、盆踊り的なリズムもロックのビートもさまざまな要素もノイズの中に混ざり溶け合ったパワフルな演奏を聴かせる。<悲しくてやりきれない>は、1968年フォーククルセイダーズによる曲だが、ここではあまちゃんでも主役だった のん(能年玲奈)が主演声優となっていた「この世界の片隅に」でコトリンゴが歌っていたことにインスパイアされて、大友良英SBBのレパートリーとなっている。この他アストル・ピアソラ&ジェリー・マリガンが演奏していた<孤独の歳月 Années de Solitude>、チャーリー・ヘイデン作曲で『リベレーション・ミュージック・オーケストラ』に収録された<Song for Che>がカヴァーされている。

「いだてん」で日本初の女性オリンピックメダリスト人見絹枝(1907-31) に付けられた<闘う女子>から改題再編曲した<Music for Kinue Hitomi>では類家心平をフューチャー。

最後の曲<Hong Kong Hong Kong Hong Kong>は、香港の映画監督アンホイの映画「女人、四十」のサウンドトラックをモチーフにした曲で、鈴木広志がホーンアレンジを担当、さまざまなコラージュで創られている。大友は常々、香港の友人たちを取り巻く環境に心を痛めていて、その想いとともにアルバムを締めくくっている。この録音からミックスまでの期間に世界と日本で近くで起こった「さまざまな出来事が意識的にも無意識的にも反映し、、、自分の足元の問題としてどう捉えていけばいいのか、そのことがこのアルバムの大きなテーマにもなっています」と大友は記している。

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大友良英スペシャルビッグバンド OTOMO YOSHIHIDE SPECIAL BIG BAND
<メンバー>
大友良英 Otomo Yoshihide: guitar, turntable (1), banjo (9)
江藤直子 Eto Naoko: piano, horn arrangement (3)
近藤達郎 Kondo Tatsuo: organ
齋藤寛 Saito Kan: flute
井上梨江 Inoue Nashie: clarinet
鈴木広志 Suzuki Hiroshi: sax, horn arrangement (2)
江川良子 Egawa Ryoko: sax
東涼太 Higashi Ryota: sax
佐藤秀徳 Sato Shutoku: trumpet
今込治 Imagome Osamu: trombone
木村仁哉 Kimura Jinya: tuba
大口俊輔 Okuchi Shunsuke: accordion
かわいしのぶ Kawai Shinobu: bass
小林武文 Kobayashi Takefumi: drums
イトケン Itoken: drums (1,3,5,6,8)
上原なな江 Uehara Nanae: marimba, percussion
相川瞳 Aikawa Hitomi: percussion
Sachiko M, sine waves

<ゲストメンバー>
Chris Pitsiokos, alto sax (1,8)
Rully Shabara (Senyawa), voice(8)
Wukir Suryadi (Senyawa), self-built instruments(8)
類家心平 Ruike Shinpei, trumpet (3,8)
吉田野乃子 Yoshida Nonoko, alto sax (3,8)
Yuen Chee Wai, electronics (6,9), gamelan(6), guitar (9)
Yan Jun, voice (6,9)
Ryu Hankil, electronics (6,9)
dj sniff, field recording in Hong Kong 29 September 2014 (9)
Kahimi Karie and Niki, voice & happiness (9)

Cover Art and Photo : 毛利悠子 Mohri Yuko
Cover Design : 鈴木聖 Suzuki Satoshi

大友良英スペシャルビッグバンド / Stone Stone Stone

大友良英スペシャルビッグバンド / 悲しくてやりきれない

神野秀雄

神野秀雄 Hideo Kanno 福島県出身。東京大学理学系研究科生物化学専攻修士課程修了。保原中学校吹奏楽部でサックスを始め、福島高校ジャズ研から東京大学ジャズ研へ。『キース・ジャレット/マイ・ソング』を中学で聴いて以来のECMファン。Facebookグループ「ECM Fan Group in Japan - Jazz, Classic & Beyond」を主催。ECMファンの情報交換に活用していただければ幸いだ。

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